2021/07/19

【入試情報室より】私立大学の「定員厳格化」とコロナ禍は国公立入試にどのような影響を与えたのか

2021年度入試に関する総括や報告が各大学行われていますが、コロナ禍の影響による超安全志向で、2月からの一般入試での出願数が少なく、入学手続きの状況も読めないという事で、追加合格を出した大学も増えたようです。一昔前ならある程度定員を超えることも覚悟のうえで、合格発表をしていたのですが、文部科学省による定員厳格化が2016年から段階的に厳しい基準で行われています。地方から都市部への受験生の流入を抑制し、地方の活性化も期待しての施策だったと思うのですが、そもそも私立大学の定員厳格化について、その効果は検証されているのでしょうか。また、今年度の国公立入試にコロナ禍の影響はあったのでしょうか。この2点に着目しながら分析していきたいと思います。

文部科学省のホームページに「国公立大学入学者選抜の志願状況等」という統計資料が公表されていますので、これを元に分析してみました。まず、定員厳格化が始まる前と、始まった2016年、基準がさらに厳しくなって、私立大学の合格者数抑制の影響が大きかった2018年に着目してみます。まずは全国82の国立大学の前期試験定員と志願者の合計をグラフにしてみました。グラフの左の目盛りが定員、右の目盛りが志願者数です。

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ご覧のように、受験人口の減少に合わせて定員は減っていますが、全体的に志願者も減っています。2018年度から2019年度には踊り場がありますが、センター試験最終年度の2020年度入試、コロナ禍の影響を受けた2021年度入試では急角度で国立志願者が減ったことがわかります。

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例年受験生の流出率が高い中四国地方の国立の状況に着目してみました。(鳥取大学、島根大学、岡山大学、広島大学、山口大学、徳島大学、鳴門教育大学、香川大学、愛媛大学、高知大学の10大学合計)すると2016年には志願者数が増加していますので、多少は定員厳格化の影響があったのかもしれませんが、2018からはさらに下がり、2020年まで下がり続けています。2021年度はコロナ禍の影響もあって、近畿圏の私大は中四国からの受験生が減ったといわれていますが、地元の国立に留まった中四国の受験生が居たのでしょうか、ひとまず少し増加に転じています。

ここで趣旨からは少し外れますが、国立の中で最難関とされる10大学を取り出してみました。

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超安全志向といわれた2020年度に志願者が大きく落ち込んでいます。前期の志願倍率を折れ線グラフにしたのがこちら。

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2017年から後期日程を廃止した大阪大学は、逆に敬遠されて志願倍率が低下し、2021年度入試では10大学最低となりましたが、そもそもの受験者層が限られますので、決して入りやすくなったというわけではありません。しかし、本土からの流入率の高い北海道大学、東日本からの流入率の高い東京工業大学がそろって2020年度、2021年度入試で大きく志願者を減らしているのはやはりコロナ禍の影響、恐るべし、といったところです。

それでは、公立大学の状況はどうなのでしょうか。

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実は、地方都市を中心に、私立大学が公立に転換する例が増えており、公立大学の数は2014年の80校から2021年度の90校まで増加しています。従って国立と逆で全体の定員は増えていますので、それに伴って増加しています。特に2018年から2019年にかけて大きく志願者も増えていますので、このデータだけで判断すると、私立大学に制限をかけた効果があったのかもしれません。但し、その効果はその年まで。その後志願者は減少に転じ、2019年には全国平均で4.7倍だった競争率も、4.3倍まで下がってきています。

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同じように中四国の公立大学11大学(公立鳥取環境大学、島根県立大学、岡山県立大学、新見公立大学、尾道市立大学、県立広島大学、広島市立大学、福山市立大学、下関市立大学、山口県立大学、高知県立大学。2016年に誕生した、山陽小野田市立山口東京理科大学と医療系の単科大学は除いています)を取り出して、グラフ化してみました。

すると、全体状況と異なり、2014年から下がり続け、安全志向といわれた2020年には増加しますが、再び減少に転じています。どうやら私立大学の定員厳格化で、地方が活性化する、という単純なものでは無かったようです。むしろ追加や補欠合格によって受験生が混乱する弊害も含めて再度議論されたほうが良いのではないでしょうか。

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>