2021/09/27

入試情報室より【公立高校 グローバル系学科の志願動向-大阪府公立高校の志願倍率推移を例に―】

我が国のグローバル化は年々進んでいます。企業は生産年齢人口がピークアウトした30年ほど前からグローバル化に舵を切っており、日本を代表するような自動車やエレクトロニクス系メーカーも生産拠点・市場を海外に依存しています。それに伴い社内での公用語を英語にする、または入社や昇進の条件にTOEICなどのスコアを要求する企業も増えてきました。さらに近年のGAFAをはじめとするIT系企業の台頭に、我が国のグローバル化はさらに加速しています。そのような社会環境で戦える人材育成の重要性はさらに増してきているといえるでしょう。

しかし、一方で出口の見えないコロナ禍の影響は、人や文化の交流に急ブレーキかけました。教育の分野にも大きな影響を与えています。昨年春からの一斉休校は2021年度の高校入試における出題範囲の削減など大きな影響が出ましたが、今年に入っても引き続き学校行事の延期や縮小、海外への語学研修、修学旅行の中止や、国内であっても宿泊を伴う語学研修の実施が難しいなど厳しい状況が続いています。このような中で、グローバル系学科では入試にどのような影響が出ているのでしょうか。

ここで、大阪府公立高校のグローバル系の学科を持っている14校の志願倍率を過去7年に関してまとめてみました。(2020年に英語科を廃止した大阪市立西高校は除外しています。)

まず、平均倍率です。

大阪府公立高校_英語グローバル系学科_志願倍率.jpg

2015年入試までは、グローバル系の学科は前期入試(2月に行われる入試)でしたので、高倍率となっていましたが、後期日程に1本化された2016年度にひとまず1.55倍という落ち着きを見せます。次の年度には若干の揺り戻しが見られますが、それ以降4年連続で低下が続いています。2021年度入試では、ついに平均倍率が1.07倍と過去最低を記録しました。

入試情報室より_英語グローバル系学科_倍率推移.jpg

学校ごとの状況がこちらです。複数の学科を持っている学校は、第1志望者だけでカウントしています。2021年度入試では14校中8校が定員割れを起こしており、普通科を志願していた受験生が第2志望のグローバル系学科に回されるという事態も珍しくなくなりました。

箕面高校のみ2倍を超えていますが、それでも4.68倍でピークだった2018年度に比べると大きく低下しています。どうしてこのように低下しているのでしょうか。

(英語学習の低年齢)

まず、一つに英語力取得の低年齢化が挙げられます。小学校でも英語が教科化されましたが、英検等民間検定の低年齢化は進行しており、高校に入ってから英語力を取得する、というニーズの低下が考えられます。実は2017年度から大阪府では英検等外部資格の取得者は、例えば英検2級なら80%、英検準1級なら100%の得点が保証されるみなし得点方式が導入されており、高校受験の段階で英検2級以上を取得している受験生が年々急増しています。(2017年度344→2021年度2290名)

入試情報室より_英語グローバル系学科_外部資格利用出願者数推移.jpg

2021年度入試では北野高校出願者の、なんと約8割が2級以上取得者です。もちろん英検などの民間検定だけが英語学習ではありませんが、彼らにとって英語との戦いは既に高校受験の前に終了しているわけです。それに伴い高校で英語を特化して学びたいという中学生は減少しているのではないでしょうか。

入試情報室より_英語グローバル系学科_外部資格利用出願者数.jpg

(私学との関連)

次に、考えられるのが私立高校との競争です。グローバル系の学科といっても、公立高校ですので経済的に大きな負担となる長期間の海外研修や少人数授業の実施には限界があります。その点、私立高校の中には1年前後の長期留学や、海外の高校と提携して両方の卒業資格を得られる、中には海外の有名大学への進学に有利になる国際バカロレアのディプロマ取得ができるなど、大きく異なるカリキュラムを備えているところもあります。また、大学進学準備を考えたとき、高校の3年間ではなく、中学からの6年間の中に海外研修を配置しているカリキュラムは安心感が違います。つまり、皮肉なことに英語力やグローバル感覚への関心の高まりと、それに応える私学の学習環境の向上が、相対的に公立高校のグローバル系の学科の競争率低下につながっているとも考えられます。

(中学生の人口減に対し、変わらない募集定員)

また、中学生の人口減少に伴い、大阪府公立高校全日制の定員合計は後期入試に一本化された2016年には43,668名だったものが、2021年には34,903名と2割以上減少しています。しかし、先に挙げた14校の定員は2016年の1.280名から2021年の1,255名とほとんど変化がありません。募集停止した大阪市立西高校英語科の80名の減少を加えると8%減となりますが、実は2019年に大阪市立水都国際高校がグローバル探究科80名の募集を開始していますので、打ち消され、つまりここ5年間で定員はわずか5名減と実質変化はありません。各学校ではグローバル系の学科の定員は少なく、ダウンサイジングが難しいという硬直性が、結果的に倍率低下につながっています。

(グローバル教育の一般化)

中学校の英語の教材も改訂され、実際の会話場面を想定したような内容も多く取り入れられています。さらに高校の学習指導要領も2022年度から改訂され、「英語表現」という科目が、「論理・表現」とさらに実践的な内容になるなど、普通科に在籍していても実際の場面でも使える英語教育に変化しています。また、普通科であってもオンライン英会話や、コロナ禍の今年は難しいですが、海外研修を行っている学校も珍しくありません。つまり、あえてグローバル系の学科に所属しなくても十分な英語学習や異文化体験が行われるため、英語の授業時間が多く、ネイティブスピーカーを用意しているグローバル系の学科の魅力が相対的に薄れているともいえるでしょう。

しかし、逆に言えば、高校入試段階で英検などの外部資格向けの学習もしたことがなく、英語がそれほど得意ではないが、英語力は付けておきたい、という中学生にとっては公立高校のグローバル系の学科を受験するのは、今はチャンスだという事になります。語学力は常にアップデートしていくことが大切ですので、長い目で見れば、レベルに応じ適切で効率的な学習方法を身に着けることが大切です。中学生の皆さんは、複数の私学と公立高校の違いを比較して、自分の状況に適した学校を選んでいただければと思います。