2020/07/03

入試情報室より 【大学入試「超安全志向」を検証する】

今年度から予定されている大学入試制度改革と、その混乱の影響で、昨年の高3生は浪人を嫌って指定校推薦やAO入試を利用して、早めに進学先を決める傾向が強く、難関校への挑戦を避ける受験生が増えたといわれています。実はその入試改革の影響をあまり受けない私立大学志願者も現役で入学を決めたためか「浪人」も減少しています。近畿圏では、難関5大学=「関関同立近」の志願者が減っており、実際に近畿大学の公募推薦入試では出願数が約4割も減少しました。そこで、今回は「超安全志向」=難関校の易化、中堅校の難化を検証してみたいと思います。

まず、公募推薦入試終了時点(昨年内での集計)での当グループからの合格実績を昨年度の同時期と比較してみました。

公募推薦は実質行われていない関関同立の比較です。合格者数は昨年同時期より約10%増。前年度もその前の年から約14%増でした。指定校推薦などの推薦系の入試で年内に合格を手に入れた生徒はここ2年で3割弱増えたことになります。これは予測通りの結果です。この時点で合格が確定すれば、その後の関関同立の一般入試は受験できませんので、一人での複数合格はなくなります。したがって高校ごとの「合格者数」(私立大学の場合は実人数ではなく、一人での複数合格もそれぞれ数えるのが通例)も減少しているところが多くなっています。

それでは、公募推薦入試を大きな規模で行っている産近甲龍に関してはどうでしょうか。

京都産業大学の年内合格者数は昨年比128.7%、甲南大学は昨年比100%(つまり同数)、龍谷大学111.1%と確かに好調です。前年よりも公募推薦入試への出願数も増えています。一方近畿大学は昨年238名に対して今年は231名。昨年比97.1%。確かに減ってはいますがその差はわずか7名と誤差の範囲内です。つまり近畿大学の受験者数が大きく減っていますが、減少したのは合格できない学力層だったのではないでしょうか。出願倍率が低くても、入試は抽選ではありませんので難易度が下がるわけではありません。

その次の学力層の中堅私大に関しては、確かに公募推薦入試の出願数も増えていますが、昨年と同規模の合格者数に合わせるために合格ラインを高く設定すれば、学力層が上位大学の合格ラインと重なることになり、結果的に入学率が減少することになりますので合格者も多く出しているようです。

因みに当グループからの国公立大学の推薦系入試では昨年とちょうど同じ33名です。まだ本年度の結果集計の途中ですが、現時点では、受験生の動向は昨年とそれほど変わっていないが、早めに合格を決める募集方法を選択する受験生が若干増えた程度だといえるでしょう。

ところで、「早慶上理」「GMARCH」をはじめとする首都圏の私立大学に関しては、年内時点での合格者が増加しています。首都圏の高校生も安全志向になった事も考えられますが、今まであまり首都圏の大学の指定校推薦に反応しなかった関西からの入学者も増加しています。



次に当グループの大学受験生に関して受験方法による合格件数推移を調べてみました。単年差では変化がわかりにくいので過去4年間の数値を【グラフ1】にしてみました。

■グラフ1

グラフ1.jpg

まず、AO入試を経て合格した件数は、4年前の114件から順調に増え、2020年度募集では約2倍に増えています。今年の高校3年生は3年前の中3の時、開成進学フェアでの来場率も伸びるなど、教育関心の高い学年ですので、早くから志望する専門分野を研究しつつ、評定平均を上げるための学習にも1年生から継続的に取り組んだ層が増えたということでしょうか。

指定校推薦を経て入学資格を得た生徒も4年前の1.6倍となっています。こちらは安全志向の表れでしょう。不透明感を増す大学入試制度改革の影響もあり、昨年度より、特に今年度の伸びの方が大きくなっていることがわかります。

公募推薦は逆に2019年度入試が底、今年度は再び回復しているように見えます。大学の定員厳格化の影響もあって公募推薦の合格率は下がっており、かつては受験科目も少なく、お手軽感があったイメージが崩れ、不合格者が多く出ている大学への出願を見合わすなど、公募推薦への出願も慎重になったと考えられます。今年度回復しているように見えるのは実は昨年と今年の公募推薦入試への出願数はあまり変わっていないので、合格しやすい大学を選んで出願したとも考えられます。



さて、2021年度入試に関してですが、先に述べたように既卒生(浪人)の人数は減少していますので、現役にとっては平均すると「広き門」となります。但し人気大学、人気学部への集中は続くと考えられますし、AO入試など推薦系の総合的な入試方式による募集を増やす大学も増加していきますので、今年の受験生はその対策も必要となるでしょう。

今年度の進学先集約はこの原稿作成時点でまだできていませんので、一つ前の年度の結果ですが関西8大学(関関同立産近甲龍)合格者の進学先割合を【グラフ2】にしてみました。

■グラフ2

グラフ2.jpg

進学先を見ると、京阪神といった難関国公立にしか逃げられない同志社大を頂点とする序列があり、ここ数年変動がありません。つまり「超安全志向」といっても大学の序列が変わるほどの変化が起こっているわけではありません。ということで、これから大学受験を迎える皆さんは、世間の噂に流されず、日々の学習に取り組んでいきましょう。

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>

【フリステWalker 第138号(2020.4月)掲載】