2022/01/24

入試情報室より【指定公立大学について】

202111月、九州大学が文部科学省より10校目の「指定国立大学」に指定されたとのニュースが入ってきました。制度設計を行った2016当時の資料によると、指定は10校程度とされていましたので、これでほぼ出そろったことになります。

指定国立大学法人とは

20174月の、国立大学法人法の改正により、我が国の大学における教育研究水準の著しい向上とイノベーション創出を図るため、文部科学大臣が世界最高水準の教育研究活動の展開が相当程度見込まれる国立大学法人を「指定国立大学法人」として指定することができる、とされています。大学はもちろん教育機関ですが、研究機関として国際的な競争に勝てる大学を作ろうという考えです。

指定された大学のメリットは大きく以下の3

①「研究成果の活用促進のための出資対象範囲の拡大」

民間企業の研究成果などを「お金で買う」ことが可能になるというわけです。今までも企業との共同研究もなされていましたが、あくまでもその分野の研究によって双方にメリットが無ければ成り立たないため、大学が研究していない分野に関する企業の研究成果を手に入れる機会は限定的でした。一方大学の研究費については「科学研究費補助金(単年度)」、「科学研究費助成基金助成金(複数年度)」(まとめて「科研費」と略されています)が使われることが多いのですが、この制度は太平洋戦争直前の1939年に創設された制度で、使用目的や対象、期間が限定され、目的外支出が厳しく禁じられているなど、使い勝手の良いものではありませんでした。今回の制度では指定された大学側の判断で利用できる資金が得られることになります。加えて研究を活用する子会社の設立も可能となります。

②「役職員の報酬・給与等の基準の設定における国際的に卓越した人材確保の必要性の考慮」

近年のノーベル賞を受賞した日本人の多くが海外の研究機関に所属していることに象徴されるように、研究者にとって日本の研究環境や待遇は決して恵まれているものではありません。今でも自然科学系(理系)の研究者の多くがアメリカと中国の研究機関に流出しています。研究環境と資金はで解決したとしても、海外の研究者をヘッドハンティングしてくるような給与体系にはなっていません。それに対してこの制度下では大学の裁量で給与や人数を決めることができるようになります。

③「余裕金の運用を認定特例」

今までは文部科学大臣の許可が必要だった使用目的や期間の変更が、大学の裁量で可能になります。特に進化が著しいAI(人工知能)や情報ネットワーク、IPS細胞のような再生医療技術など、最先端の分野では特に期間や範囲が想定できないケースが考えられます。この制度では資金をプールしておいて、状況に応じて分配することが可能となります。

どのようにすれば「指定国立大学法人」になれるのか

文部科学省は以下の3点で判断しました

①「研究力」=科研費事業の新規採択件数と世界に通用する論文の本数など

②「社会との連携」=受託・共同研究や寄付金収益、特許権収入など

③「国際協働」=国際共著論文比率や留学生割合など

これらの指標が国内で上位に入っていることが条件となります。

指定された大学

2017年指定 東京大学 京都大学 東北大学

2018年指定 大阪大学 名古屋大学 東京工業大学

2019年指定 一橋大学

2020年指定 筑波大学 東京医科歯科大学

2021年指定 九州大学

文系のみの大学としては唯一指定されている一橋大学は、大阪高商(現大阪市立大学(2022.4~大阪公立大学))、神戸高商(現神戸大学)の3高商の一角として多くの財界人を輩出してきた大学ですが、2023年には「ソーシャル・データサイエンス学部・研究科(仮称)」の新設を決めるなど、ビジネス系の研究・開発にも力を入れようとしています。旧帝国大学では北海道大学だけが入っていませんが、基礎研究の割合が高く、「社会との連携」のポイントが足りなかった、とされています。

今後の展開

現段階ではこの10大学のうちから「特定研究大学(仮称)」が選定される見込みです。民間の研究者も交えた有識者会議(「世界と伍する研究大学の実現に向けた制度改正等のための検討会議」)ではこの「特定研究大学」は「指定国立大学」のメリットをさらに拡大し、経営と教学を分離させた新たな枠組みの組織を作る方向で議論が進んでいます。このような研究に特化した大学を作る方向での法整備と財源確保が2022年の成立を目指して現在関係省庁で行われています。日本の大学が世界に通用する研究を生み出す研究機関に変貌する日も近いようです。

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>