2023/04/17

入試情報室より 【多様化する高等教育 -大学設置基準の緩和-】

戦後の昭和22年(1947年)に学制改革が行われ学校教育法が制定されましたが、それを受けて昭和31年(1956年)には大学設置基準が当時の文部省によって定められました。それによると、「学部の種類は、文学、法学、経済学、商学、理学、医学、歯学、工学及び農学の各学部、その他学部として適当な規模内容があるとみとめられるものとする」とされ、学士の名称については、学部名に応じて文学士、理学士等29種類が定められており、それ以外の専攻の名称を名乗ることは認められていませんでした。旧制大学の制度を援用した当時としてはそれで十分だったのですが、大学進学率の向上によって求められる役割も多様化する大学は、この枠内では社会の実態と合わなくなってきました。そこで、1984年(昭和59年)当時の中曽根首相の頃に設置された臨時教育審議会の答申に応じる形で平成元年(1989年)に大学院設置基準の改訂、平成3年(1991年)には大学設置基準・学位規定が改正され、大きく規制が緩和されることとなりました。それ以前の大学の卒業証書には「○○学士」と表記されていましたが、現在「学士(○○学)」と表記されているのはそのためです。

新たに生まれた学部名

この緩和によって学部名は一気に増え、今では約500種類ともいわれます。珍しいところでは沖縄大学の「経法商学部」、徳島大学、広島大学の「総合科学部」のように複数分野を統合したもの、日本大学の「松戸歯学部」、徳島文理大学の「香川薬学部」、宝塚医療大学の「和歌山保健医療学部」など地名が入ったもの、大手前大学の「建築&芸術学部」、大阪工業大学の「ロボティクス&デザイン工学部」のように「&」記号を含んだものなど、個性的な学部名も生まれました。学部名から学びの内容や他大学や他学部との違いが受験生にも伝わりやすいというメリットもありますが、名古屋外国語大学の「世界共生学部」と「世界教養学部」のようにその違いについて具体的な追加説明が欲しくなるようなものもあります。

この規制緩和によって一般教育科目(「ぱんきょう」と呼ばれていた科目群)の削減も行われることとなりました。それによって第2外国語を必修とする大学が1997年度で35%も減少(岩崎2007)することとなりました。

履修期間の短縮

従来は3年次から専門分野を学ぶケースが多かったのに対し、この緩和によって2年次、1年次からも専門分野を学ぶことで要卒単位をまとめて取得することも可能となりました。そこで、早期履修制度(飛び級)を導入する大学も増えてきました。つまり、これによって1年早く卒業することも可能となりました。例えば関西大学商学部や京都産業大学情報理工学部は大学院への進学を希望する学生向けにこの制度を導入しています。

また、大学院の方も同様に短縮することで、公立の高知工科大学には学部3年半、修士1年半の合計5年間で修士号が取れるというプログラムも用意されています。

飛び入学制度

大学名

実施学部

制度導入年度

累計入学者数

千葉大学(国立)

文学部・理学部・工学部・園芸学部

平成10年度

103

名城大学(私立)

理工学部

平成13年度

27

エリザベト音楽大学(私立)

音楽学部

平成17年度

3

会津大学(公立)

コンピュータ理工学部

平成18年度

9

日本体育大学(私立)

体育学部

平成26年度

2

東京藝術大学(国立)

音楽学部

平成28年度

2

京都大学(国立)

医学部

平成28年度

1

桐朋学園大学(私立)

音楽学部

平成31年度

1

東京音楽大学(私立)

音楽学部

令和4年度

 

名古屋音楽大学(私立)

音楽学部

令和4年度

 

昭和女子大学(私立)

人間文化学部・人間社会学部・生活科学部

(停止)

1

成城大学(私立)

文芸学部

(停止)

2

合計

 

151

文部科学省のHPから作成

現時点でこれらの大学が「飛び入学制度」を設けています。飛び入学制度とは高校卒業を要件とせず、高2時点で受験して本来なら高校卒業する年の1年前に入学することが可能な制度です。このまま大学を卒業すれば「学士」になるのですが、大学を中退した場合、高校も卒業していないので中学卒業が最終学歴になるとのリスクがありましたが、ようやく20224月に高校で取得した単位数によって、高校卒業を認定するという新制度が作られました。

この「飛び入学」と「飛び級」を合わせて利用すれば2年間の短縮が可能で、22歳で修士号を取得することもできるようになりました。

大学院を含めた新たなカリキュラム

建築物設計の国家資格である「建築士」には設計できる建物の大きさが限られる二級と無制限の一級がありますが、一級建築士になるためには、試験合格後2年間の実部経験を経て、初めて免許登録が可能となっています。つまりどんなにレベルの高い大学の建築学部や大学院を卒業していてもすぐには一級建築士にはなれないわけです。

武庫川女子大学の建築学部では、大学院に「一級建築事務所」を併設することで大学院に在籍しつつ2年間の実務経験を保証するというプログラムを立ち上げました。これで大学院修了と同時に一級建築士として登録できますので、設計事務所や建築会社にとっては即戦力として重宝され、大手設計会社やゼネコンから引く手あまたとなっています。

このように、入学時期、在籍期間、卒業後に取得できる資格など大学によるバリエーションが広がってきています。この春に高校入学した皆さん、次の入試は3年後だと落ち着いていてはいけません。早めの情報収集をお勧めします。

参考文献

岩崎克己 日本の大学における初修外国語の現状と改革のための一試案 : 主に, ドイツ語教育を例にして 広島外国語教育研究10号 広島大学外国語教育研究センター2007

文部科学省 飛び入学実施大学一覧 令和4年度における飛び入学実施大学

飛び入学実施大学一覧:文部科学省 (mext.go.jp) 2022

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>