2023/06/19

入試情報室より【大阪府の高等学校授業料完全無償化とは】

大阪府の戦略会議本部によって202359日に、高等学校の授業料の「完全無償化」に向けて制度設計をすると発表されました。

まず、ここで発表された内容を簡単にまとめてみます。

 

現時点で発表されている案


◇対象校

公立高校、私立高校(全日制、定時制、通信制)、高等専門学校(本科13年生)、専修学校(高等課程)、各種学校

◇実施時期

令和6年度(2024年度)の高校3年生、令和7年の高校23年生、令和8年の全高校生と段階的に実施

◇完全無償化の方法

・国の修学支援金と併せて、府の無償化制度に参画する修学支援推進校を選択した私立高校等に対して、府の授業料補助金を交付することにより、無償化する。

・全世帯を対象に、キャップ制を適用することで、完全無償化をめざす。

・府内外の私立高校等に対して、修学支援推進校への参画を働きかける。

◇制度案の作成

・令和5年夏ころに制度を成案化(予定)

 

どの学年が対象となるのか


まず、対象となる学年についてですが、現在の高校2年生は来年の1年間が、無償となりますが、現在の高校1年生はこの素案によると令和6年度には対象外となりますので、令和7年になった時に対象、つまり無償期間は高31年間となります。そして、現在の中3生は令和7年の高2生となるわけですから2年間無償、その年度の高1は対象外ですから、もう一つ下の学年、すなわち現中2も高232年間のみ対象となります。今の中1以下の学年は高校入学時から対象となりますので3年間無償となります。

 

キャップ制と、その問題点


現行の制度でも世帯年収の目安が800万未満の家庭に対し大阪府修学支援推進校制度(キャップ制)というのが適用されています。キャップ制とは鉛筆のキャップのように、学費の最大限を決めて、それ以上のご家庭の負担を無くすという考え方です。

例えば、年間授業料が55万円の高校A66万円の高校Bで考えます。

現行制度では私立高校に対する授業料の助成額の最大値は高校の授業料と60万円の低い方と定められています。

たとえば年収800910万円のご家庭の場合、私立に通う子どもが2人の場合、ご家庭の負担額は30万円と決められています。高校Aの場合は55万円-自己負担30万円の25万円が助成され、高校Bの場合は最大助成額の60万円-自己負担30万円の30万円が助成されるわけですが、この年収帯はキャップ制の対象外ですので、不足する6万円は保護者側に請求されるので自己負担額は合計36万円となります。逆に学校側からすると66万円全額徴収することが可能です。

一方、年収590未満のご家庭に対しては、自己負担額が0円(つまり無償)と決められていますから、高校Aの場合は国と大阪府から合わせて55万円の支援がなされていることになります。しかし高校Bの場合、66万円の授業料に対し、支援金は60万円しか支給されませんので、6万円不足します。しかしこの年収の世帯にはキャップ制が適用されており、世帯側に6万円負担させるわけにはいきません。そこで、この6万円は学校側が負担します。学校にとっては痛手ですが、この制度に参加して補助金対象の学校として指定してもらう方が生徒募集上のメリットとなりますので許容しているわけです。

さて、この制度の問題点は、年収が低い家庭の負担を年収が高い家庭が担うという形になる場合がある点です。

先に例に出した高校Aの場合、出所が補助金にせよ、ご家庭の負担にせよ、すべての生徒から一律55万円徴収できるのですが、高校Bの場合、キャップ制適用の生徒からは60万円しか徴収できないので、その不足分はキャップ制適用外のご家庭の負担によって成り立っているともいえるのです。

現在授業料が60万円の高校Cを想定し、1000名の在籍生の内、400人が年収800万未満、つまりキャップ制の対象で、600人が年収800万以上、つまりキャップ制適用外だったとします。この高校Cが地震によって校舎の修復が必要になったため、1割の収益増加が必要になったとします。1000名全員が1割増の6万円の負担増に応じてもらえれば授業料は66万円に設定すればいいのですが、このキャップ制によって400名からは60万円しか徴収できません。必要経費の66万円×1000名分=6.6億円のうち、400名から得られる金額は60万円×400人=2.4億ですから、残りの4.2億円をキャップ制適用外の600名で負担することになります。すると一人当たりの授業料は4.2億円÷600名=70万円と、10万も値上がりすることになります。このように基準所得以上のご家庭にとっては負担額の変動が大きくなるという問題点があるのです。

次に、今回の改定でこのキャップ制に関しても年収制限を設けないとの案が示されました。先に述べたような災害だけでなく、例えば新たなコース設置や校舎の新築など教育環境の改善や維持のために多くの資金が必要となるケースも考えられます。しかし、全世帯キャップ制の対象となるということは、60万円以上の授業料設定は不可能になるということを意味します。今回私学が反発しているのはこの部分です。現時点では基準額は60万円ですが、今後大阪府の財政状況などを理由にこの基準額が引き下げられる可能性もあるなど、授業料の上限を行政が決めることができるという点を今回私立の中学校、高等学校が問題にしているわけです。

今後、どのように議論が進行するのか、また大阪府民が大阪府外の高校に通学するケースでも同様に支援を行うとされていますので、そこに参画する学校がどの程度出てくるのかなども注目ポイントとなります。

また詳細が発表されましたら開成教育グループのブログ「学校選びのみちしるべ」などを通してお知らせしていきたいと考えています。

参考HP【修正版】20230509_戦略本部会議資料(教育無償化) (osaka.lg.jp)

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>