2024/02/19

大学入学共通テスト2024 レビュー

4回目となる大学入学共通テストが113日、14日に行われました。今年の出題と今後の予測などについて書いてみたいと思います。

【英語 リーディング】

去年よりも語数は増えています。告知チラシの問題が2つ出題されましたが、第2問のクラブ活動勧誘チラシの問題では、設問が難しく、何度も本文に立ち返る必要がありました。第4問のアンケート結果のグラフを元に意見をまとめるという内容で、これも時間を要した受験生が多かったのではないでしょうか。全体としては昨年並みの平均点となりそうです。(昨年平均点53.81⇒本年度中間発表53.28

【国語】

昨年は第1問で2つの論説文が出題されましたが、今年は文章1つに戻りました。文字数は昨年よりも1000文字ほど多くなっていますが、内容も含めて読みやすい印象でした。

文学的文章の第2問は現代作品ではありますが、難しい語句も使われており、言葉の知識も必要とされました。

古文は昨年並み、漢文も七言絶句とそれに関連する3文のみといったシンプルな問題でした。

国語全体としては昨年よりも平均点はやや上昇です。(105.74115.73

【数学】

共通テストになってから、長めの会話文で作られた問題文や生活に根差した設定など、賛否のあった数学ですが、4回目ということでしょうか、数学の本質的な力を測るように改善された印象です。定数の変化に伴うグラフの概形の違いや、定積分の定義を使う問題など、各単元の基礎基本を大切にした出題がみられました。

数学ⅠAでは複素数、三角比、統計、確率、平面図形とバランスよく出題されていました。三角比の影の長さやn進法といった中学入試をヒントにしたかのような出題もありました。

55.6554.35

数学ⅡBは、対数関数や定積分に関する本質的な出題や丁寧な誘導もあり、空間ベクトルの問題は、会話文形式ではありますが、わずか2行のみとシンプルな作りに戻っています。

61.4861.08

平均点はご覧のようにほぼ昨年並みでした。

【世界史B

全体的に会話文が減少しており、オーソドックスな形式になったと思いきや、第2問の問4での解答によって問5の正解が変わるという、連動型が初めて導入されました。この形式では、より自信のある方の知識を選んで使うこともできるわけですが、新たな形式に戸惑った受験生もいたのではないでしょうか。但し全体としてはオーソドックスな範囲が出題されており、平均点は上がりました。

58.4363.03

【日本史B

日本史Aの第2問が日本史Bの第5問に、日本史Aの第4問が日本史Bの第6問に流用されるという昨年通りのパターンでした。つまり日本史A選択者でも、決して日本史Bよりも簡単ではないということを意識して準備する必要があります。世界史と異なりこちらは会話文も多く、資料の読み取りも増えて、受験生には負担が増えたように感じました。

59.7558.03

【地理B

グラフなどの資料の読み取りもありましたが、全体的に単純形式の増加(つまりセンター試験への回帰)がみられました。地学の地球の水循環や化学の鉄の精錬の知識があれば難なく解ける問題もあり、平均点も大きく上昇しそうです。(60.4668.38

【現代社会】

問題は、会話文やプレゼン発表などの場面設定でほぼ占められていました。ページ数も2ページ増加しており、特に最後の第5問ではポイントが絞りにくい「地域づくり」に関する出題がありましたが、アンケート資料の読み取りなど、時間配分さえ間違えなければ得点できる設問になっていました。全体の難易度は昨年並みです。(59.4657.44

【倫理】

大問4つの構成は昨年と全く同じで、全体量も変化ありませんでした。但し昨年ほぼ4択だった選択肢ですが、今年は58に増加しています。但し、2択×3題を合体した8択など、難易度はむしろ下がっています。そんな中でネット上の記述の正誤を判断するという実生活に役立つ設定の出題がなされていました。(59.0257.09

【政治経済】

現代社会同様、探究学習でよく使われるKJ法での出題など、学校での学習活動を想定した作りとなっています。また宗教団体や宇宙条約、デジタル庁、こども庁など、時事問題もいくつか取り上げられていました。新聞購読率の低い今の高校生にとっては難しく感じたのかもしれません。(50.9646.02

【物理】

小問集合の第1問を除き、残りの大問3つはすべて実験を題材としており、全体的に具体的な数値計算ではなく、理論式だけで作られた良問でした。特に第2問のペットボトルロケットは仮定や設定をすべて拾っていけば解答に行きつくように作られていました。(63.3964.38

【化学】

理論化学の小問集合が第1問、第2問の合計8題となっているのは昨年通り、但し今年はアルカリマンガン乾電池、空気亜鉛電池、リチウム電池に関する計算問題は時間が必要だと思われます。また、ニッケルの精錬といった珍しい出題は、誘導があったとしても手が止まった受験生がいたかもしれません。(54.0156.86

【生物】

昨年は手間のかかる実験考察問題が多く出題され、得点調整が行われた生物です。今年も実験を題材にした問題が5つ出題されましたが、データ処理が難しいものはなく、基本的な知識を問うものが多くなったという意味で、センター試験への回帰がみられました。但し第6問の遺伝子の突然変異のシミュレーションに関する会話文形式の出題は、設定の理解も含めて時間がかかり、正答率は高くなかったのではないかと思われます。(48.4655.72

【地学】

大問構成は昨年と同じ5つで、出題分野も同じです。第5問の天体では昨年に引き続き火星と木星の年周運動が出題されましたが、昨年出題の火星から見た木星の会合周期を求めるような計算問題はなく、全体的に大きく易化しました。(49.8558.81

【まとめ】

旧課程最後ということで、どのような出題になるのか注目していましたが、結果的には問題数や文字数、問題の難易度も含めて、全体的に落ち着いたテストとなりました。大学入学共通テスト導入にあたって、思考力や主体性、協働性をみるという方針から、会話文形式や複数資料の検討が必要な出題がなされました。それに対し、受験生にとっては膨大な文字や資料から必要な情報を選ぶという負担が増加し、その教科の力を正しく測ることができるのか、といった教育関係者による批判もありました。

今回の共通テストではこれらの問題点を修正しつつ、知識・技能に偏っていたといわれるセンター試験からは大きく進化した形に落ち着いたと思われます。

新課程初年度となる次年度では、出題形式や分量に関しては各科目で定着してきたこの形を踏襲することになると思います。「歴史総合」や「情報Ⅰ」など新たな科目の設定もなされますが、その部分にこだわるあまり、変化が比較的少ない科目への対策が疎かにならないよう注意が必要でしょう。英語、国語の速読能力は実社会でも必要な力となりますので、小中学生の間から、意図的に多くの文章を読む習慣をつけておいた方が良いでしょう。政治経済の段落でも述べましたが、時事問題に備えるという点でも高校生には新聞購読もお勧めしたいところです。

次回の指導要領の調整が反映される2029年(現在の中1の学年)では出題傾向がさらに変更される可能性もあります。異なった立場からの異なった意見の理解や、複数の資料や情報を整理して、合理的な意見の生成といった力がさらに問われるようになってくることでしょう。そのためにも学校の定期テストの対策など教科の学習に留まらず、探究活動や委員会、課外活動等にも積極的に取り組むようにしましょう。

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>