2024/05/20
入試情報室より【通信制高校の歴史と現状】
通信制高校の歴史と現状
近年メディアにも取り上げられるようになった高等学校通信制課程についてです。戦後の混乱期には小中学校のみならず、高等学校でも教室や教員の整備が追い付いていなかったのですが、1947年に改正された学校教育法第45条によって、「高等学校は、通信による教育を行うことができる」となりました。それに合わせてNHKラジオの高校講座の放送が始まりました。これで高校では一部の授業をラジオ放送で補うことができるようになりました。このころは高等学校への進学率は半分以下という状況でしたが、高校の授業が街角でも聞くことができ、人々の勉学意欲を刺激したことでしょう。
1955年には通信教育のみで高校を卒業する事が可能になり、通信制課程のみ設置の「通信制高校」が生まれます。定時制課程に通うことができない社会人を中心に学びの機会が増えることになりました。1958年からはNHK教育テレビで「高等学校講座」が、1963年からは全日制の生徒の補習にも活用できる形の「通信高校講座」が放映されるようになり、ラジオに比べると格段にわかりやすくなりました。
今日ではインターネットを利用した動画の視聴や、双方向通信の技術に加えてアバターを操って積極的に教職員や他の生徒とコミュニケーションを取ることができるなど、学習環境は大きく進化しています。
修業年限は定時制課程と同じ4年以上と定められていましたが1988年には大学入学資格検定(大検)の合格科目も要卒単位に組み込めることと併せ、修業年限が全日制課程と同じ3年以上と改められました。通信制といっても全く学校に通わなくても良いのではなく、科目によって異なりますが、一部の授業は「スクーリング」とも呼ばれる面接指導を受ける必要があります。つまり定期的に通学の必要があるため本校所在地と同一都道府県、または隣接する都道府県1つのみから生徒募集を行う「狭域通信制」というのが基本形でした。しかしその後宿泊施設を併設してスクーリングを数日間にまとめて行うことで、より広い範囲から生徒を集める「広域通信制」も増えてきました。通学を希望する生徒向けに協力校と呼ばれる各地の定時制や予備校への通学が可能なシステムを取っているところもあります。
通信制高校も本来は学校法人しか設立することはできませんが、小泉内閣(2001~2005年)による構造改革特別区域の制度により株式会社が高校を作ることが可能になりました。それによって大阪府だけで11の株式会社立の通信制高校が生まれています。現在2万6千人を超える生徒が学ぶ、「学校法人角川ドワンゴ学園」の「N高校」「S高校」は、通信制のみならず高等学校としても日本最大なのですが、実質は株式会社KADOKAWAの経営です。
1990年代には高校への進学率は95%が超え、通信制高校は勤労者のため、という目的からプロアスリートや芸能人など全日制の高校に通う時間が取れない人向けに変化してきました。さらに近年では高校を途中でやめた生徒の多くが編入するようになってきました。それに加えて2020年3月からのコロナ禍による休校も影響したのでしょうか、高校進学段階で通信制高校を希望する中学生の割合も増えてきています。
中3生向けの進路希望調査を公表している大阪府と兵庫県の推移を見ても、年々その割合は増え、昨年度の調査では大阪府の約7%の中学生が通信制高校を希望しています。通信制高校では特定の技能や資格をめざした専修学校と提携しているところもあり、3年後に高卒の資格とそれらの習得も可能となっています。
このように高校進学段階で、公立か私立か、男子校・女子校といった別学か、共学か、だけではなく、全日制でなく通信制という選択ができるという点で、学びの機会がさらに多様化してきているといえるでしょう。
<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>