2024/09/13

入試情報室より【変化する公立高校入試制度】

 公立高校入試制度は各都道府県によって違いはありますが、社会状況に合わせて変化してきました。戦後の人口急増期、特に第2次ベビーブーム(1971年~1974年生まれ)世代が15歳になった1986年~1989年には人数増と併せて、高校進学希望が95%を超えたため、それに対応すべく全国で高校の定員増や新設、私立高校に対する定員増の要請が行われました。ここ数年で40周年、50周年を迎えている学校が多いのは、この時期に開校したところが多いからです。

 経済的にも公立高校を希望しているのに入学できないという受験生を減らすため、地域ごとで高校入学枠の囲い込みが行われたのもこの時期です。東京都のように総合選抜制(特定の高校を選ぶのではなく、入学校が割り振られる)を導入した地域もありましたが、通学域を制限する事で他の地域からの流入を防ぐ学区制度(通学圏制度)が設定された地域もありました。近畿圏では大阪府は多い時には13の学区に分かれており、兵庫県は15学区、滋賀県も6学区、京都府は現在の山城通学圏は2つに、京都・乙訓通学圏も4つに分割されていました。

 人口急増期を通り過ぎた19902000年代には公立高校も特色を出し、受験生にとって多様な選択肢が用意されるようになってきました。その理念を生かすためにも学区制度は次第に廃止され、滋賀県は2006年から学区制全面廃止、大阪府も13学区→9学区→4学区と段階的に減少し、ついに2014年には学区は無くなりました。兵庫県は現在でも学区制度が残っていますが、15学区から5学区制へと学校選択の幅は格段に広がっています。

 学校間の教育上の特色を打ち出すために、各地域では普通科と異なる「学科」や「コース」の設置や転換が進んできましたが、それに伴い入試制度の改編も行われます。普通科以外の学科については特色選抜や推薦選抜といった別日程の入試が始まりました。ちなみに大阪府はその後、合計2回入試を行うことは、高校にとっては負担が大きいなどの理由から、実技を伴う特別選抜を除くと一般選抜1回に戻りました。

 ここまで約40年間の公立高校入試の変遷について概略を紹介しましたが、少子化を迎えた今、逆に公立高校の規模縮小や統廃合を行う必要性が出てきました。現在の中学2年生が受験をする2026年度入試から、大阪府と滋賀県で大きな入試制度改革がおこなわれます。

【滋賀県】

 滋賀県教育委員会の発表によると、従来2回行われていた入試が1回に統合されます。但し、学校の特色に応じた受験生を選抜するために、全員受験の「学力検査」と併せて希望者のみ受験する「学校独自選抜」を行います。普通科以外の学科については「学校独自検査」の結果で選考、その不合格者と全員受験の「学力検査」の受験者の中から残りの合格者の選考(「一般型選抜」)、が行われます。従来のように別日程に行われる入試では、特色選抜で不合格だった高校と異なる高校を一般選抜で受験する事が可能でしたが、新たな方式では一つの高校に出願する形になります。

【大阪府】

 大阪府は世帯年収に関わらず、私学も含めて高等学校の「授業料無償化」が段階的に導入されていますが、この影響もあり2024年度入試では私立高校の専願率が上がりました。その結果、大阪府立高校145校のうち70校が定員割れとなってしまいました。大阪府は2012年に3年連続定員を下回った公立高校は再整備(統廃合検討)の対象にするという条例が成立していますので、この状況が続けば公立高校が激減する可能性があるわけです。

 このような背景から定員割れの公立高校を減らそうということで、滋賀県や京都府で既に導入されている複数志願制度(=第1志望校の不合格者が第2志望の学校に合格する可能性がある制度)や日程の前倒しなどが検討されています。

 こちらも滋賀県と同じ2026年度入試からの変更を予定しているのですが、府教育委員会が委嘱した諮問機関である「府学校教育審議会」による答申が823日に行われた、という段階の情報ですから、今後の議論の結果によっては内容が変動する可能性もあります。

 このように人口動向や地域の状況によって公立高校の入試制度は変化します。因みに2019年から公立高校の大規模な統廃合と新設が行われた奈良県では、入試の倍率や難易度の予測が難しくなった受験生は公立高校を避け私立高校に流れ、特色推薦選抜の倍率が低下してしまいました。このように入試制度が大きく動くタイミングでは受験生動向に大きな影響がありますが、そのような年度に受験することになったとしても同じ都道府県内の他の受験生も同じ条件です。落ち着いて今まで通りの定期テスト対策や入試対策を続けていきましょう。

 

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>