2024/10/21
入試情報室より【日本の人口減少と大学】
ネット上に公開されている国立社会保障・人口問題研究所による推計データによると、奈良時代に500万人程度だった日本の人口は増加を続け、江戸時代初期には1200万人に達し、明治維新の頃は3000万人を突破し、江戸時代の4大飢饉と第二次世界大戦による人口急減を除いては増加の一途を辿ってきました。高度成長期の1970年には1億人を突破し、2008年には1億2千800万人と過去最大の人口となりました。このように人口が増え続けている時代には、巨大団地や高速鉄道網、高速道路などの公共インフラが増え続けました。教育の分野でも小中学校、高校が相次いで建設され、大学進学率の上昇と規制緩和も相まって大学数も増加していきます。ここ50年間を見ても大学数は1971年の389校から795校へ、大学生数も1971年の146万人から2020年の292万人とどちらも倍増しています。
しかし、先に述べた2008年をピークに日本の人口は減少に転じており、先の推計によると2040年代には1億人を割り込み、2060年代には8千万人台、今の中学3年生が定年(おそらくこの時代には70歳)を迎える2079年には6500万人台と2008年の約半分になるといわれています。生産人口はそれ以上に減少しますので税収は大きく落ち込み、現在も建設が続くインフラの維持管理も大きな負担となるわけです。もちろん大学も影響を受けます。現時点で国公立大学はもちろん、私立大学にも補助金という形で公費が投入されており、数万人が在籍するようなマンモス大学では年間100億円近い補助金が交付されているところもあります。これが減額され、学生数も減少すれば経営的に厳しくなることが考えられます。
このような推計を元に、文部科学省の中央教育審議会では定員減や学部統廃合など大学のダウンサイジングに向けた指導と支援を強化すべきとの答申を現在まとめているところ(2024年7月20日、読売新聞報道)です。2040年には大学入学者数が現在より2万3千人以上減少し、2023年度の大学・短大の入学定員の中央値である270名で割ると、約86校分に相当する入学者がいなくなるという推計(日本経済新聞2024年6月28日)もありますから24年後にはこの程度の数の大学が無くなっている可能性も高いと考えられます。
有名マンモス大学にはそれなりのメリットもありますが、地域に根差したきめ細かな研究と丁寧な教育を行っている大学も多数あります。しかしわずか24年間にその多様な大学も失われる可能性が高いということでもあります。今の中学生が親となってその子どもの大学選びを考えるころには、その選択肢は今よりも減少しており、特に地方では家から通える範囲に大学そのものが無い、という地域も増えてくることでしょう。
大学数の減少は、学術研究の推進という観点からも問題点があります。たとえ超難関大学の大学院を出て研究職を目指したとしても、大学の減少によって国内就職が難しくなれば、海外の研究機関に職を求める、いわゆる「頭脳流出」がさらに進む恐れもあります。
さて、ここまでお読みいただくと、なんだかお先真っ暗みたいな話に聞こえたかもしれませんが、逆に日本国内でも海外からの研究者や受験生が集まるような大学であれば、「頭脳流入」が考えられるわけです。文化的な側面にはなりますが、マンガやアニメといった日本独自の文化に興味関心を持ち、世界に触れ、その技術を磨きたいという海外ファンも珍しくなくなってきました。寺社仏閣などの木造建築物や自然、グルメに加えてアニメの「聖地巡り」なども今のインバウンド人気の原動力ともなっており、産業として一つの大きな分野として確立されつつあります。
情報系でもスマホ本体などのハードウェアや、伝達技術、SNS、情報セキュリティーなど技術的側面では海外に後れを取った感がありますが、ユニバーサルデザインやメタバースなどのUI技術(人と機械をつなぐ技術)、UX(人が機械を通じて得る経験)に加えてAIによるアニメーション生成など、AI利用技術について世界最先端の研究を行っている大学もあります。
というわけで、今の高校生はもちろん、小中学生が大学選びをするときには、難易度やブランド力ではなく、世界から受験生を集めることができるような魅力的な研究を行っているか、もしくはそのような分野を誕生させるかもしれない環境が用意されているか、という観点で大学を選んでみてはいかがでしょうか。
<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>