2025/01/20
入試情報室より【国公立大学 理工系女子優遇枠について】
2000年代に入ると、多様性(ダイバーシティ)が社会の重要なテーマとなり、大学もその流れに対応するようになりました。特に理系分野や工学系学部では、女子学生を増やすための入試優遇措置が積極的に導入されています。女子学生の割合が13%ほどの東京科学大学(旧:東京工業大学)が2024年度入試から58名分の「女子枠」を導入しましたが、この方針が発表された2022年には首都圏の最難関クラスでの導入ということもあり、大きな話題となりました。この女子優遇枠は年々拡大しており、2025年度では全国の国公立合計で約600名の理工系学部に女子優遇枠が用意されています。以下のリストは2025年度入試における国公立大学の女子優遇枠についてまとめたものです。
(福島大学の共通テスト「合格者は必須」というのは、合否判定には使わないが、大学入学共通テストの受験は必須、という意味です。それ以外は「免除」か、合否判定に使う「課す」のどちらかです)
女子優遇枠は科学技術分野や工学系など、従来男性が多かった分野における女性の進出を促進するためですが、性別による偏りを是正し、多様性を促進することが目的です。
例えば調理家電や情報機器を想定すればわかりやすいと思いますが、工業製品を使うのは、男女の区別はありません。しかし、それを作る技術者が男性に占められているというのは確かに不合理だといえるでしょう。欧米でも、STEM(科学・技術・工学・数学)分野で女性の参加を促進するために奨学金(シュルンベルジュ財団など)や特別プログラム(AFS Global STEM Acceleratorsなど)が用意されています。
では、この制度は女子にとって良い事なのかといえば、いくつかの問題点も指摘されています。
〇女子学生への偏見やプレッシャー
女子枠で入学した学生が、他の学生や教員から「実力ではなく優遇措置で入学した」と見られるリスクがあります。これにより、入学後の環境がかえって居心地の悪いものになる可能性があります。
〇学業やキャリアへの影響
優遇枠で入学した学生が、入試基準の差異によって学業面で苦労する可能性も指摘されています。国公立大学の一般選抜では大学入学共通テストと個別学力試験(いわゆる2次試験)という2つのハードルが課されていますが、大学によってはいずれの学力試験も免除されます。これでは大学で学ぶための基礎学力が無い学生が入学してしまう可能性も否定できず、留年や中退といった本人にとって思わぬ結果につながるリスクも考えられます。
そもそも、このような優遇枠を設けたとしても、社会的なジェンダー格差の本質的な原因(例えば、教育環境や文化的な偏見)を解決するには至らないという指摘もあります。しかし情報工学におけるインターフェースの開発(アバターやVRなど)にも女性ならではの感性や感覚が欠かせません。今後日本では労働人口が減少していきますが、労働生産性を上げるためにも、人それぞれ適材適所となるように学びの機会は広げていくべきでしょう。
因みに同レベルの高校なら、共学校の女子と比べると、女子校の生徒の理系率の方が高いように感じます。共学校は自由なイメージがありますが、男子との比較や役割分担を通じて、自ら理系の道を避けようとする女子がいるのでしょうか。本来はそちらの対策や対応を考えるべきなのかもしれません。
<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>