2025/03/17
入試情報室より【高校の授業料「全国無償化」とその影響】
『少数与党である石破茂政権の2025年度当初予算案が成立する見通しとなった。日本維新の会の求めで実現する高校授業料「無償化」による支援は、高校の年間費用の一部で保護者らの負担は残る。私立高まで含めた追加支援の財源はまだ決まっていないが、税金か国債かのいずれにしても負担するのは国民で無償ではない。』(以上東京新聞2025年2月26日より引用)
高校進学率は全国平均で98.9%(2024年5月1日現在 文部科学省総合教育政策局「学校基本調査」)と現代ではほぼ全員が高校に進学しているのですが、授業料について義務教育である中学校までと異なり私立はもちろん、公立でも有償が原則となっています。それに対し現在年収等の条件を満たす一部の世帯のみ国と自治体によって高校授業料の補助が行われていますが、自治体によってその基準や支援額は異なっています。東京都や大阪府など財政規模の大きい自治体では先行して世帯年収の基準を外していますが、既に住民サービスの差が自治体間の住民争奪につながるなど新たな問題も発生しています。
今回の各党間での合意では、高校授業料に対する支援について、世帯年収の基準を撤廃するという点と「45万7千円」という金額のみが決まっており、大阪府で現在行われている「キャップ制」(63万円を上限として支援する代わりに、私学による授業料名目での追加徴収を認めない)や財源確保などの議論はまだ行われていない段階ですが、この制度が導入された場合の影響と問題点を書いてみたいと思います。
①授業料負担の減少から、授業料が安いという点での公立高校の優位性が崩れる
大阪府で見られている状況としては、2024年度入試でも既に府内公立高校145校のうち70校が定員割れとなりました。大阪府の「高校無償化」は段階的に導入され、2024年度入学者は高校2年生からの2年間のみが無償化となるのですが、その条件下でも私学専願率が上昇しました。立派な校舎や学内外の運動施設、長時間使える図書館や自習室といった施設面での充実に加えてコース制や提携枠など大学進学に関する優位性を持つ私学は、授業料だけで考えると従来ご家庭の負担は50万円程度の差がありました。しかしこの差が縮まるとなれば私学に受験生が流れるわけです。
②公立高校減少による地域の活力低下
大阪府では2012年、橋下府政の時代に、「3年連続定員を下回った府立高校は再編整備の対象とする」という「府立学校条例」が3月府議会で可決されました。2013年度入試では大阪府立の全日制138校のうち、定員割れだったのが17校(12.3%)でしたから、その影響は限定的だったのですが、昨年度は約半数が定員割れしているわけですからこの条例が改正されない限り大阪府の公立高校は激減していくことになります。人口減少社会において、50~60年前の人口急増期に増設した公立高校を維持していくのは合理的ではないという説もありますが、高校の減少は地元高校生の協力によって成り立っている地域コミュニティ活動に水を差すことにもなりかねません。このような条例が無い他の地域でも、公立高校の入学者数が募集定員を大きく下回ることが続けば、結果的に統廃合の議論が出てくることでしょう。
③教育の多様性が失われる
学校数が多い都市部であっても通学時間や交通費を考えると、居住地から通学が可能な高校というのはそれほど多くはないわけですが、公立学校が統廃合されるということはこれから高校選びをする子どもにとってその選択肢が減少する事を意味します。またコース制などによって志願者の多様なニーズに応えていた私立高ですが、15歳段階では「ある目的に特化した道筋を今は選びたくない」という、従来の公立高校進学者にありがちな望みをかなえることもできなくなるかもしれません。
今後具体的な法制化や詳細な制度設計がなされていくと思いますが、全国で統一的に実施されることで地域ごとの問題が表れてくることも考えられます。ともかくこの施策による財政負担が他の教育関連予算の削減にならないことを祈るばかりです。
<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>