2025/05/26

入試情報室より【OECD国際成人力調査(PIAAC)と学習指導要領の改訂について】

 OECD(経済協力開発機構)は、1961年に設立された国際機関ですが、現在では先進国を中心とした38か国が加盟しています。経済成長、雇用、教育、環境など幅広い分野でデータ分析や政策提言を行っています。

 PIAAC(Programme for the International Assessment of Adult Competencies、国際成人力調査)は、OECDが主導し、2011年から実施されている国際的な調査です。背景には、知識基盤社会の進展とともに、成人が生涯を通じて必要とされる「基礎的リテラシー能力」の重要性が高まったことがあります。特に、労働市場の変化やデジタル技術の普及により、単なる学歴ではなく、実際に活用できるスキルが重視されるようになりました。そのような力を測定し国際比較することによって各国・地域の課題を明らかにしようというのがこの調査です。

 労働力人口に合わせた1665歳の成人を対象に「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決能力(PS-TRE)」を測定し、各国のスキル分布を比較可能な形で得点化します。20112012年に行われた第1回調査には24の国・地域別が参加しました。そのランキングをみてみましょう。

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 ご覧のように日本がいずれの分野でも1位です。「失われた30年」などと日本の経済力が劣っているような意見も世の中にはありますが、OECDが規定する「成人力」に関しては日本が世界1となっています。

 それではそこから10年を経た20222023年の第2回調査はどうなったのでしょうか。

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 日本は総合順位では前回2位だったフィンランドに抜かれて2位になっていますが、世界のトップレベルであることには変わりありません。少なくとも国際比較の結果においては、日本の教育は成功していると評価すべきでしょう。因みにIMFが集約した2024年の名目GDP(国内総生産)ランキング首位のアメリカは、人口一人当たりのGDP ランキングでも6位(アメリカより上位はルクセンブルクやアイルランドなどの小さい国)と上位なのですが、PIAACランキングを見るとアメリカは20位。今後生産力が上がる見込みが薄いとすれば国内産業を保護するために関税を上げたくなる気持ちも分からなくもないです。

 それはさておき、この調査結果は、各国の教育政策や職業訓練の改善、学び直し(リスキリング)政策の立案などに活用されていくことになります。

 日本では学習指導要領は約10年毎に改訂されており、次回の指導要領改訂は2027年(小・中学校)、2028年度(高等学校)に予定されています。技術革新や国際情勢といった社会環境や、それに伴う学習観の変化に合わせて改訂が行われるわけですが、このPIACCの結果を踏まえれば、その変更は限定的になるとも考えられます。因みに予定通りに変更が行われたとすると、現在中学1年の学年が大学入試を迎える6年後の2031年度入試は新指導要領初年度となります。大きな改編は無いとしても、2025年度に行われた科目追加(「情報Ⅰ」や「数学C」「歴史総合」)や単元追加程度の変更は考えられます。現在中2(現行指導要領最後の学年)と中1の学年は最新の情報に注意しておきましょう。

 

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>