2025/06/23
入試情報室より【どうなる?日本の公立高校―大阪府公立高校入試制度変更から全国の動きを占う―】
現在、国会では高校の授業料無償化について議論がなされています。子育て世帯の皆さんはこのような子どもの教育に対する支援策を歓迎されていると思いますが、全国に展開されることによって何が起こりえるのか、大阪府の状況を踏まえて占ってみたいと思います。
義務教育である中学校までは授業料は無償ですが、高校に入学すると授業料も有料ですし、その他の費用も高額となります。文部科学省による「いわゆる『高校無償化』に関する動向について」(令和7年3月14日)によると、令和5年度の学習費総額(学校で必要な費用+塾予備校などその他の学習費)の平均値は全日制の公立高校生で59.8万円、私立高校生で103.0万円とかなりの金額となっています。全国平均で私立高校生は全高校生の34.6%を占めていますが、大阪府、京都府では私立高校生が45%を超え、東京都では57.5%と公立高校生よりも多くなっています。そこで、東京都や大阪府では全国に先駆けて高校の授業料支援策を独自に設けています。大阪府では、2024年度から段階的に導入し、2026年度高校入学生からは3年間の授業料が完全無償となる高等学校等就学支援金制度が実施されています。
大阪の高校授業料は、私立の平均は年額605,162円(令和6年度)で公立は月9,000円、つまり年額108,000円です。大阪府では世帯年収に関わらずすべての高校生にこの金額が支援されるわけですが、学習環境や校舎などの設備が充実している私学の方を選択する受験生が多く、結果的に大阪府では公立高校の定員割れが多発(令和7年度入試では半数以上の学校が定員未充足)するようになりました。
大阪府には3年間連続定員割れとなった公立高校は統廃合対象の候補になる、という条例があり、定員割れになった学校は余計に人気が無くなってしまうという悪循環に陥りつつあります(受験生の立場で考えると近い将来廃校になるかもしれない学校をわざわざ選ばないですよね)。
そんな中で公立高校の定員割れを防ぐべく、大阪府は令和10年度からの公立高校の入試制度の変更の検討に入りました。
現時点で公表されている変更内容を簡単にまとめてみます。
①学校特色枠の設定
各校のアドミッションポリシーに応じた優先枠がある、というイメージです。人数は「原則として各校総募集人員の50%以下」とされていますが、面接・プレゼンテーション・作文などの独自の検査や特定の教科のみの傾斜配点などで合否を決める、つまり学力試験の合計点や評定を見ずに合否を決めるわけです。面白い取り組みだとは思いますが、総合的な学力が求められる進学校でこの枠を広く設けるというのは考えにくいと思います。
②入試日程変更
現行では実技試験を伴う学科のみ2月下旬に、それ以外の学力試験のみの学科は3月11日に入試が行われていますが、この2つの日程を3月1日に一本化する方針です。特に受験生の多い一般選抜から考えると日程が早くなります。私立高校に人気が流れたのは、早く受験を終わらせたい受験生が、より日程の早い私立高校を選んだから、ということのようですが、公立入試を10日ほど早めたからといってあまり影響は無いような気がします。
③複数志願制度の導入
公立高校受験生は第2志望校まで選べるようにする、「複数志願制度」の導入も検討されています。ただし、これは公立高校出願締め切り後に、その時点で定員割れをしている学校の中から第2希望校を選んで出願するというシステムを想定しています。第2希望で合格できるのは最初に定員割れしている学校に出願した場合に限られるということは、ある学校を第1志望としている受験生を押し出して、第2希望の受験生が合格することは無いようです。
このように公立高校に受験生を呼び戻そうと工夫しているのはわかりますが、いずれも受験動向が革命的に変化するとは考えにくいです。
さて、現在国会で議論されている無償化が全国レベルで実現した場合、私学と公立が併存している地域では同じような影響が考えられます。まず定員割れとなる公立高校が増える可能性が高いです。その結果公立高校の統廃合が進むことも考えられますが、その障害となるのが府県内を細分化している学区制度です。現在47都道府県のうち学区制度があるのは20府県ですが、段階的に学区の統合、もしくは全府県1学区制に移行するところも出てくるでしょう。
次に入試日程の一本化です。公立高校1校あたりの定員が減少すれば、学科やコースによる細分化が難しくなり、推薦や特色選抜など別枠で先に合格者を確保する意味が薄れてきます。現時点で入試日程が一本化されているのは東北地方の5県など人口減少地域に多いのですが、今後この動きが全国に広がることが考えられます。
今春に少し話題になりましたが、石破総理大臣から全国の都道府県に複数志願制度の導入を検討するようにとの発言がありました。現時点で複数志願制度を設けているのは3府県(愛知県、京都府、兵庫県)だけですが、先に述べたように大阪府は2028年から、奈良県も2026年からの導入が予定されています。公立高校のお席を埋めるためには必要な考え方となりますので、他の都道府県にも広がる可能性はあります。但し、学校の特長や独自性を重視するという考え方と複数志願制度は相反しますので、都道府県によって対応が分かれてくることでしょう。
国による高校無償化が実現すれば、既に授業料無償を導入している東京都や大阪府では、いままで独自予算で行っていた支援策に国費が支給されることになりますので、財政的に余裕が出るはずです。この余裕は他のことに使わず、公立学校の増改築など子どものための環境整備に使ってもらいたいものです。
< 文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦 >