2025/10/20

入試情報室より【日本の大学に交付されている科研費について】

 2004年の法人化以降、国立大学への運営費交付金は削減が続いています。初年度の12415億円から2023年度には1784億円へと、約13%減少しました。2011年に発生した東日本大震災の復興予算が膨らんだために2013年には大きく減額されるなど、政府の財政の影響を受けるという点でも大学の安定的な教育・研究活動を妨げる原因となっています。

 一方で、科学研究費助成事業(以下「科研費」と省略)やJST(科学技術振興機構)は増加しています。これらの資金は「競争的資金」と呼ばれ、各大学や研究機関が研究対象や内容などを申請し、公的資金を投入して援助すべしと判断されれば予算が執行されるというものです。つまり研究熱心な大学は国公立、私立に関わらず、多くの資金が得られるという仕組みになっています。

 まず、科研費の歴史を振り返ってみましょう。日本学術振興会のHPに掲載されている、科研費の予算額の推移のグラフも参考にご覧ください。

科研費の予算額の推移

1918(大正7):「科学奨励金」創設(科研費の前身)。
1939(昭和14):文部省「科学研究費交付金」として制度化(基礎研究支援を目的)。
1945(昭和20)以降:戦後再編で複数種目を整備(科学試験研究費など)。
1965(昭和40):諸制度を「科学研究費補助金」に一本化。
1968(昭和43):「特別研究」「特定研究」「総合研究」「一般研究」「奨励研究」「海外学術調査」等、現在につながる枠組みが整備。
1999-2000(平成11-12):公募・審査・交付業務の日本学術振興会への移管を開始。
2003(平成15):日本学術振興会が独立行政法人として設立(科研費の中核実施機関)。
2011(平成23):基金化導入(複数年度で柔軟に執行可能に)。
2018(平成30)前後:審査システム改革・「学術変革領域研究」創設など再編。
2023(令和5):審査区分表の改正(概ね5年ごとの見直し)。
2024(令和6):「基盤研究(B)の基金化」を実施(継続課題・新規採択課題とも対象)。

と、このように、当初は直接経費のみ、しかも単年度執行で、数年間にわたる海外機関との共同研究などには使えないなどの問題点がありましたが、改善されてきました。特に、民主党政権下の2011年度には数年分の資金をまとめて最初に受け取ることができる「基金化」が導入されたのは大きかったと思います。

 確定値として発表されている最新の配分額(2024年度)の表をご覧ください(50位まで)。東京大学の197億円を筆頭に、結構な研究費が配分されたことがわかります。

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 まず、上位7大学は旧帝国大学の7大学が占めています。入試での難易度も高いのですが、研究機関としての競争力も高いということです。私立のトップは慶応義塾大学。早稲田大学、順天堂大学と続きます。近畿圏の私立では立命館大学と近畿大学、同志社大学がランクインしています。

 科研費は理系分野だけではなく、人文科学や社会科学の研究にも充てられます。しかし、近年では生命科学に関する研究が採択されやすいなど、時代による浮き沈みがありますので、このランキングだけで大学の研究力を判断するのは性急です。研究力の一つの見方として参考にしてみてください。

 因みに新規応募を行ったが、新規採択が0件だった大学が、128大学(専門職大学、短期大学含む)ありました。自分の志望校を考える際に、研究機関としての側面が強いのか、そうではないのか、という観点で調べてみるのも一つの方法だと思います。

 

< 文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦 >