2021/04/05

関東関西有名中学入試分析 【中学入試で求められる"社会"】

春から初夏にかけての学習ポイント

 前回は中学入試の国語で求められてきている「四つの力」についてお話をしました。今回は社会について、中学入試に向けた受験勉強の学習ポイントについて考えていきたいと思います。

 受験生のみなさん、社会の学習は進んでいますか?受験科目の勉強においては算数や国語がメインになりがちで、どうしても社会の勉強は後回しにしている受験生が少なくありません。しかし、社会という科目は他科目よりも知識理解を問う要素が大きく、また地理、歴史、政治・経済・国際関係・環境問題など、学習範囲がとても広く、着実な学習が必要な科目です。

 今回の社会に関するコラムでは、社会の各分野の春から初夏にかけての学習のあり方を中心に述べていきたいと思います。社会の学習を効率的に進めるための参考となればと思います。

注:今回の原稿作成は2021年1月・2月の入試前のため、引用する入試問題は2020年実施のものとなります。

地理分野:学力テスト・模試・過去問を使っての弱点の発見・補強を

 地理分野は中学受験社会において最初に学習をする分野です。中学受験の勉強を開始して間もない場合は別ですが、1年以上前から中学受験の勉強を進められている受験生にとっては歴史分野や政治分野などの学習もあり、過去に学習した地理分野の記憶が薄れてきているかもしれません。

 小学6年生の場合、模試や中学校主催のプレテスト(近畿地方の私立中学の場合)において、地理分野で得点ができていない受験生を少なからず見うけます。このような傾向にある受験生や保護者の方に、面談の際に社会の学習状況についてたずねると、「習った覚えはあるけど忘れてしまった」という趣旨のお話をよく聞きます。他方、「復習をしたいけど範囲が広すぎて、どこから復習していいかわからない」という声もよく聞きます。

 他の社会の学習分野よりも、地理分野の学習範囲は広範囲に及びます。都道府県や県庁所在地、山や河川、平野などの名称や位置、農業・漁業・工業など各種産業、交通・通信・エネルギー、環境問題等々。自学習では効率的な地理学習は難しいのが現実です。

 塾での授業で既に社会を受講されている受験生はもちろんですが、塾の授業では社会を受講されていない受験生も、学力診断テストや模試を夏休みまでの時期にも積極的に受験することをお勧めします。受験を検討している中学校の入試過去問を今の時期でも解いてみるのもいいでしょう。具体的には、学力診断テストや直近で受験した模試、入試過去問などから、出来のよくなかった地理単元の学習からスタートし、その単元からリンクできる事項の学習へと進めていきます。

【資料1】2020年青山学院中等部 社会入試問題より抜粋・一部改変
 1993年、やませの影響を受けてコメが不作となり、日本はタイからコメを緊急輸入しました。この年の東北地方のコメの生産状況について正しいものを選びなさい(選択肢は割愛)。

 【資料1】は青山学院中等部の2020年社会入試問題の一例になります。実際の入試問題では東北地方の6つの県(青森・秋田・岩手・山形・宮城・福島)を地図で示し、例年の生産量を100としたうえでの1993年の各県の生産量の数値を示して、4つの選択肢のなかから正解を選ばせています。

 「やませ」とは東北地方の太平洋側で、寒流である千島海流(親潮)を起因として春から夏にかけて吹く低温の季節風のことです。「やませ」が発生すると、東北地方で太平洋に接する県、特に青森県・岩手県・宮城県の農作物に影響が出やすくなります。他方、東北地方でも日本海側の県(秋田県・山形県)では、「やませ」が発生しても、奥羽山脈で「やませ」がせき止められて、太平洋側の県よりは農業への影響は抑えられることが一般的です。また太平洋側の県ですが、福島県の場合は、千島海流の影響が弱まることもあり、宮城県以北の三県よりは影響が抑えられています。【資料1】の問題を解くにあたっては、上記のような「やませ」に関する体系的な理解が必要となります。そのうえで、青森、岩手、宮城の三県の数値が他県(秋田、山形、福島)に比べて小さい数値となっている選択肢が正解となります。

 【資料1】は「やませ」に関する問題ですが、このような東北地方に関する問題を解くには、この問題とは直接関係がない事項を含めて、テキストや問題集の東北地方のページを解き進めて、東北地方に関する知識の定着・強化をはかるといいでしょう。

歴史分野:絵やマンガでイメージをつかむ

 歴史分野は、歴史に興味がある受験生とそうでない受験生とで、学習の進度や深さに大きく差があらわれやすい分野です。当然ながら、歴史に興味のある受験生のほうが歴史分野の問題で高得点をとりやすい傾向にありますが、歴史に興味のない受験生にとっては、歴史学習は人物名やできごとの名称、できごとの年号をただ暗記するものという苦痛を感じやすいイメージを持ちがちです。しかし、小学校の教科書にも掲載される人物名(例:鑑真、親鸞)やできごと、事象の名称(例:倭寇、下剋上)は、漢字単独では小学校では習わないものであっても、漢字で書けることも必要です。

 歴史に興味がある受験生にとっても、そうではない受験生にとっても、重要なのは時代の大きな流れや特徴やイメージをつかむことです。例えば、江戸時代であれば、江戸幕府の征夷大将軍15人全員の名前を覚える必要はなく、創成期(徳川家康・家光)、元禄期(綱吉)、改革期(吉宗)、幕末期(慶喜)の5人以外の名前を聞かれることは、中学入試ではほとんどありません。5人の将軍については、それぞれの時期背景や特徴を理解しながら、政策などの事柄や関連人物の名前を覚えていくといいでしょう。

 また、各時代のイメージをつかむためには、日本の歴史に関する学習マンガや中学生用の日本史図録(図説 写真や図表が多く掲載されているカラー版の書籍)を活用することも有効です。中学校によっては写真や絵を用いた出題がなされるところもあります。

 日清戦争前の日本と清、ロシア、朝鮮を描いたものや、日露戦争前の日本、ロシア、イギリス、アメリカを描いたものなど、有名な風刺画などが過去東京女学館中や中央大学附属横浜中で、それぞれ出題されました。日本史図録には必ずといっていいほど掲載される風刺画です。学習マンガでも、この風刺絵をモチーフにしたマンガも描かれています。

 これは歴史のみならず地理や公民についても言えることですが、視覚的にイメージがつかめていると、その後の細かい事項の理解や記憶もスムーズにいきやすくなります。また、算数や国語などの他科目の学習からのリフレッシュとしても、歴史の関する学習マンガや図録は読みやすいと思います。

公民分野:今年の政治・経済・海外の流れに関心を持つ

 憲法、政治、経済、国際情勢などに関わる公民分野については、まだ学習をしていない方もいらっしゃるかもしれません。地理分野と歴史分野に比べて学習のスタート時期は遅くなりがちになる公民分野ですが、ほとんどの中学校の社会入試問題には必ず出題されます。

 公民分野はもちろんのこと、社会科全体でも時事問題がよく出題されます。

 昨年は新型コロナウイルス感染症が世界中に大きな影響をあたえました。本来であれば昨年実施される予定であった、オリンピック・パラリンピック東京大会が今年に順延となりました。

 今までに日本で開催されたオリンピックは3回です(【資料3】参照)。中止となった1940年を含めると4回になりますが、それぞれの年に起こったことや東京、札幌、長野の地図上の場所、地理的特徴についても確認をしましょう。

【資料3】

日本で開催されたオリンピック
夏季大会 1940年:東京(中止)1964年:東京
冬季大会 1972年:札幌 1998年:長野

日本でのオリンピック開催(予定)年のできごと
1940年 日独伊三国同盟締結 大政翼賛会発足
1964年 東海道新幹線開通
1972年 沖縄返還 日中共同声明
1998年 (経済不況やデフレ経済が深刻化)

 今年10月で、現在の衆議院議員の任期が満了となります。年内に衆議院の解散があればもちろんですが、衆議院の解散がない場合でも、今年は衆議院議員の総選挙が実施されます。与党・野党の政党名、総選挙前後の内閣総理大臣の氏名、衆議院議員・参議院議員の選挙の仕組みや違い(任期、解散の有無、選挙区・比例代表の要件、投票方法、総定員数など)を確認しましょう。また、衆議院議員総選挙と同時に、最高裁判所裁判官の国民審査も実施されます。裁判所や司法権に関するテーマの学習も進めていきましょう。

 新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、選挙の投票時は有権者のみしか投票所に行けないという規制が今年は出る可能性もありますが、もしそのようなことがないのであれば、ぜひ、保護者の方が投票に行かれる際、受験生本人も同伴して、選挙や国民審査の仕組みや投票方法を教えてあげてください。

 夏休みや冬休みに比べると、入試まで時間があると感じやすい今の時期は、模試やプレテストも少なく、中学受験生も比較的のんびりしがちになります。受験勉強を進めるにしても、算数や国語は塾の授業を受講しても、社会は受講されないケースも見受けられます。しかし、学校によっては社会の入試科目の配点が算数や国語と同じという場合もあります(慶應義塾普通部や女子学院中など)。また、最近の社会入試は短期間の付け焼刃的な暗記では対処できない、継続的で着実な学習が実を結ぶ作問となっている傾向にあります

 社会も受験科目とする場合、塾で授業をとる場合もそうではない場合も、模試や学力テスト、過去問を定期的に解き進めて、常に課題を見つけ出し、目標を立てながら、学習を進めてください

<文/開成教育グループ フリーステップ修学院教室チーフ 住本正之>