2021/06/07
関東関西有名中学入試分析【早稲田大学系列校に見る 有名私立大学系列中学校の特徴】
中学受験を目指す皆さん、志望校は決まっていますか?大学受験に実績のある中高一貫校を目指す人もいれば、スポーツやクラブ活動の実績で志望校を選ぶ人もいるかと思います。なかには、系列大学への進学を前提とした、私立大学系列の中学校を目指している人もいるかと思います。
有名私立大学の多くは、その大学への進学を前提とする系列の中学校・高校を設置しています。一般的にそのような大学系列の中学校・高校からは、無条件で"エスカレーター式"にその大学に進学できると思われがちですが、同じ大学の系列校でも、当該大学への進学条件や校風、カリキュラムが大きく異なることも珍しくありません。
今回はそのような有名私立大学の系列中学校のなかで、早稲田大学の系列中学校を取り上げ、特徴や違いを述べていきたいと思います。中学校選びの参考となれば幸いです。
早稲田大学の系列中学校:男子校、共学校、他大学受験が盛んなど、多種多様
早稲田大学の系列校のうち、2021年度現在、中学入試を実施している学校は4校あります。早稲田大学高等学院中学部(東京都練馬区・男子校)、早稲田実業学校中等部(東京都国分寺市・男女共学)、早稲田中学校(東京都新宿区・男子校)、早稲田佐賀中学校(佐賀県唐津市・男女共学)の4校です。 【注】早稲田摂陵中学校(大阪府茨木市)は2021年度以降中学校の生徒募集を停止しました。
早稲田大学高等学院中学部:早稲田大進学が前提の直属男子校
早稲田大学高等学院(以下:早大学院高)は早稲田大直属の附属高校であり、中学部はその早大学院高と一貫教育を行う中学校です。早大学院高の卒業生は原則、早稲田大への進学権が与えられ、早稲田大のなかでも看板学部とされている政治経済学部への進学率が、他の早稲田大の系列校よりも高い傾向にあります(【資料1】参照)。
【資料1】 早稲田大学系列校における早稲田大政治経済学部(以下:政経)推薦者数及びその割合
出典:各校ホームページより(いずれも2020年度)
中学部は制服(詰襟の黒い学ラン)がありますが、高等学院に進学すると制服着用は任意となり、私服着用者も多くなります。大学入試の受験を必要とせずに早稲田大学に進学できるため、早大学院高では受験勉強や入試科目にとらわれない、幅広い科目履修を前提としたカリキュラムとなっています。例えば、第一外国語(英語)のみならず、第二外国語(フランス語・ドイツ語・ロシア語・中国語)のいずれかを3年間履修することが必修となっていたり、志望進路が文系学部であっても、数学をⅠAとⅡBはもちろん、一般的な進学校では文系志望者には課さない数学Ⅲも必修科目としています。
早稲田実業学校中等部:初等部からの内部進学生と混合 スポーツも盛ん
早稲田実業学校(以下:早実)は早稲田大学とは別個の学校法人ですが、近年は学校理事長を早稲田大総長が、学校長を早稲田大教授が歴代務めており、早大学院同様、ほとんどの卒業生が早稲田大に推薦で進学します。
早実中が他の早稲田大系列中学校と大きく違うのは、初等部(小学校)からの内部進学者がいることです。中学入試を経ての入学者と初等部からの内部進学者は中学1年生から混合クラスで学ぶことになります。
早実中は男女共学ですが、入試募集定員は男子85名・女子40名(2021年度入試)と女子のほうが狭き門となっています。また早大学院中や慶應義塾普通部(横浜市港北区)が男子校で、早稲田大や慶應義塾大の系列中学校は男子募集総数より女子募集総数が少ないこともあり、中学入試用の模試における早実中の女子の入試偏差値は首都圏の私立中学校の中でもトップクラスのものとなっています。入試の合格最低点も、毎年男子よりも女子のほうが高いものとなっています(【資料2】参照)。女子の入試が狭き門という傾向は慶應義塾中等部(東京都港区)にも見られます(同校の入試募集定員 男子140名・女子50名〔2021年度入試〕)。
【資料2】 早稲田実業学校中等部 男女別入試合格最低点(300点満点中)
出典 早稲田実業中ホームページ及び同校配布資料より
早稲田実業または早実という名前、多くの方は高校野球で聞いたことがあるのではないでしょうか。王貞治氏や荒木大輔氏、斎藤佑樹選手などを輩出し、早実高の硬式野球部は高校野球の甲子園大会に数多くの出場経験がある強豪として知られていますが、野球以外でもバレーボールやラグビーなど、数多くの競技で全国大会に出場し、早稲田大の系列校のなかでもスポーツ各部が特に盛んな学校です。
早稲田中学校:大学系列校と受験進学校の両面を備えたハイブリッド完全一貫校
早稲田中学校(早稲田高校)は地理的には最も早稲田大に近い系列校です。もちろん、早稲田大への推薦入学枠もありますが、他の系列校に比べて、他大学(特に国公立大学や医学部)の一般入試を目指す生徒が多いのが特徴です。2021年度の大学入試では東京大学に33名、京都大学に5名、一橋大学・東京工業大学に合わせて14名の合格者を輩出しています(いずれも浪人合格者含む)。ちなみに他大学を受験する場合、早稲田大への推薦進学の権利は辞退をすることになります(このことは早大学院高、早実高、早稲田佐賀高などでも共通です)。
他大学を受験する生徒が多い理由は2つあります。1つは早稲田大への推薦入学枠が、早大学院高や早実高と比べると少ないためです。早大学院高や早実高は卒業者数相当、または卒業者数を超える早稲田大への推薦入学枠を有していますが、早稲田高は学年定員300名に対して各学部合計167名分(2020年度)の推薦入学枠となっています(学年定員の約55%)。2020年度の場合、早稲田大にある13の学部の早稲田高における推薦入学枠のうち、早稲田大入学者が推薦入学枠より少なかった学部は1つだけでした。進学を希望する学部の枠から漏れてしまった場合、早稲田大進学希望の場合も、希望する学部に進学するには一般入試などの選抜試験を受験する必要があります。
もう1つの理由は2月3日にも入試日を設定しているためです。早稲田中は例年、2月1日に200名、2月3日100名それぞれ募集する入試を設定しています。早大学院中や早実中なども入試を実施する2月1日の入試では、早稲田中の場合は早稲田中を第一志望校とする受験生が主に受験をします。他方、2月3日の入試では、2月1日に早稲田中を受験して不合格となってしまった受験生はもちろん、2月1日や2日に他の中学校を受験した受験生も多数受験をします。そのなかには、早大学院中、早実中など、他の早稲田大系列の中学校を受験した受験生もいれば、大学系列校、進学校、様々な中学校の併願者が受験をします。
近年では、東京大学などの難関国立大学への早稲田高の合格実績への評価などから、開成中や麻布中など、難関国立大や医学部の受験生の多い進学校の中高一貫校の受験生の併願先としても人気があります。そのため、3日の入試の合格者は1日の入試合格者に比べて、難関国立大や医学部受験志向者の割合が多く、また、1日受験生で、当初は早稲田大への進学を希望していた生徒のなかにも、中高での学習への手ごたえから難関国立大に挑戦してみようと考えるようになり、東大や京大に合格をするというケースも少なくありません。もちろん、東大に合格可能な実力を身に着け、模試の東大合格判定が高い生徒であっても、早稲田大志望を変えることなく、早稲田大の希望する学部に推薦入学をする生徒もいます。
早稲田中のもうひとつの特徴は、高校入試がない中学入学者のみの中高一貫校であるということです。今回紹介をしている他の早稲田大系列中学・高校(早大学院、早実、早稲田佐賀)はいずれも高校入試も実施していますが、早稲田中高は高校入試を実施せず、転居や帰国などによる編入学を除いては中学入学からの6年間中高一貫教育を実施しています。従って、他の早稲田大系列の中高よりも、数学や理科系科目などでは授業進度の速い先取り学習が可能となり、高校3年生では、大学入試演習が可能なカリキュラムとなっています。
早稲田佐賀中学校:ハイブリッド型 寮生活 東京・名古屋でも受験可能
早稲田佐賀中高は2010年に、早稲田大学創立125周年記念事業の一環として、早稲田大創立者の大隈重信の出身地である現在の佐賀県(唐津市)に創設された学校です。早稲田大への推薦入学枠は学年定員240名の50%(120名)を上限としていますが、近年は卒業者数が200名弱であり、早大推薦者は卒業者数の50%を超えることも珍しくありません(【資料3】参照)。
【資料3】早稲田佐賀高の卒業者数、早稲田大推薦者数とその割合
出典 早稲田佐賀中高ホームページより
早稲田佐賀中の特徴として、寮生活が可能なこと、九州・東京・名古屋で受験可能なことと地域ごとの入学者のカラーの違い、があります。
早稲田佐賀中には寮(八太郎館)が併設されていて、男女とも中学生・高校生とも入寮が可能です。2020年5月のデータでは、早稲田佐賀中在学の約6割の生徒が八太郎館で寮生活を送っているとのことです。九州にある私立中学・高校には寮を併設しているところは珍しくなく、進学校としても知られるラ・サール中高(鹿児島市)や久留米大学附設中高(福岡県久留米市)にも寮が併設されています。ちなみに早稲田大学の系列校では、中学入試は行っていませんが、早稲田大学本庄高等学院(埼玉県本庄市)にも寮が併設されています。
寮が併設されていることとも関係していますが、早稲田佐賀中は唐津市にある本校だけでなく、東京(早稲田大構内)、名古屋、福岡、北九州、熊本の計6か所で1月中に中学入試を実施しています(2021年度)。また、本校と東京では2月(5日)にも入試を実施しています。もちろん、本校を第一志望に、将来、早稲田大への進学を見据えている受験生や保護者も少なくはないのですが、東京(首都圏)からの受験生と九州各地からの受験生とでは、本校や併願校などで考え方が異なる傾向にあります。
首都圏からの受験生の場合は、今までに述べてきた他の早稲田大系列の中学校(早大学院中、早実中、早稲田中)を第一志望とし、その前哨戦として受験をする、もしくはそれらの中学校と早稲田佐賀中の入試難易度を比較して、それらの中学校よりは入試難易度が抑えられている本校を第一志望校とするという考え方です。いずれの場合も、将来は早稲田大学に進学したい、(保護者として)進学させたいという、早稲田大へのこだわりのある受験生や保護者です。
近年は愛知県名古屋市にも試験会場を設けていますが、愛知県の私立中学校は寮を設置していない、自宅からの通学を前提とするのが大半であることもあり、愛知県及びその近隣県からの本校受験生は首都圏の受験生同様、本校を第一志望校、もしくは首都圏にある早稲田大系列の中学校との併願を志向する受験生や保護者が大半だと思われます。
他方、九州各地の受験生の場合は、本校や早稲田大への魅力を感じている受験生や保護者ももちろんですが、ラ・サール中や久留米大附設中など、寮のある進学校との併願校として受験するケースも目立ちます。そのような受験生の場合、大学進学の目標は早稲田大よりは、東京大や京都大、九州大などの難関国立大学や国公立大学の医学部(医学科)に置いている傾向にあります。そのため、早稲田佐賀中高は早稲田中高に似た、大学一貫教育校と受験進学校の両面性を持ったハイブリッドな学校だと言えるでしょう。
今回は早稲田大学の系列中学校4校を取り上げ、それぞれの特徴や早稲田大への進学状況を述べてきました。早稲田大の系列校の場合は早稲田大以外の大学を受験する場合、早稲田大への推薦進学の権利を辞退する必要がありますが、他の大学系列の中高のなかには、推薦進学の権利を保持しながら他大学を受験できるところもあります(例:法政大学中高〔東京都杉並区〕、法政大学第二中高〔川崎市中原区〕など)。
系列大学への進学を前提として、大学受験勉強にとらわれない学びや課外活動が展開している学校もあれば、系列大学への進学も、他大学への進学も、どちらも選択できるシステムやカリキュラムを提供している学校もあります。系列校ではない中高でも、特定の大学への進学を保証したコースを設けているところもあります(例:平安女学院中高〔京都市上京区〕の立命館コース、帝塚山学院中高〔大阪市住吉区〕の関学コースなど)。憧れている大学が既にある受験生である場合、その大学に系列校や提携校の有無を確認し、系列校・提携校について、入試についてはもちろんですが、カリキュラム、学部ごとの進学状況なども確認しながら、志望校選びを進めていきましょう。
<文/開成教育グループ フリーステップ修学院教室チーフ 住本正之>