2023/06/05

関東関西有名中学入試分析 【中学受験 夏の過ごし方(計画編)】

中学受験を考えている小学生のみなさん、勉強は順調に進んでいますか?新学年がスタートして約2カ月がたちましたが、早いもので、もうすぐ夏休みになります。塾に通っていらっしゃる方の場合、塾から夏期講習の案内が届いているかと思います。

「夏休みは受験勉強の天王山」とか「夏を制する者は受験を制する」とか、聞いたことありませんか?来年入試がある受験生にとってはもちろん、再来年以降の受験となる小5生や小4生にとっても、夏休みはとても重要な期間になります。

今回は中学受験を目指す小学生の夏の過ごし方について、計画の作り方のポイントを中心に、受験学年(小6生)、非受験学年、それぞれのポイントを説明していきたいと思います。

 中学受験生の夏の過ごし方のポイントは、来年受験の小6生と再来年以降受験の小学生とでは変わってきます。小6生の場合は、約半年後にせまった入試本番までに残された期間から逆算をしながら、小学校での学習内容の総確認と弱点補強、そして志望校の入試内容の確認がポイントとなります。他方、小5生や小4生の場合は、今までの学習内容の確認と定着に加え、第一志望校のみならず、興味のある中学校の情報取集と受験の方向性の確立がポイントとなります。そして、どの学年であっても、家庭学習や夏期講習で学習する内容を具体化することが極めて重要になります。まずは小6生の夏の過ごし方のポイントについて述べたいと思います。

小6生のポイント その1 【小学校・塾の学習内容の総確認と弱点補強】


 中学受験の集団授業の塾の場合、ほとんどが小学6年生の夏までに小学校の学習範囲の授業を終え、夏期講習以降は過去の入試問題を使っての演習型の授業に入ります。国語、算数、理科、社会、いずれの科目も、中学受験に必要な重要事項を学習した前提で、塾でも受験生それぞれの志望校に応じた問題演習を進めていきます。

中学受験用の模試も、7月までは出題範囲が限定されたものが一般的ですが、9月以降の模試は「総合問題」として出題範囲の制限のないものとなります。

また、9月以降には「開成中」、「灘中」、「早稲田(大学)系中学・慶應(義塾大学)系中学」など、一部の有名中学校の入試傾向に沿った模試も実施されますが、それらも出題範囲も限定のないものとなります。

つまり、小6生の夏までには小学校で習う学習内容は完了させ、それ以降は入試問題演習に入るのが中学受験学習においては一般的であり、もし、夏までに小学校の学習内容で未習の単元が残ってしまうと、それだけ入試型演習の学習に入る時期が遅れてしまい、余裕のない状況となってしまいます。

 9月以降、余裕をもって志望校対策の学習を進めるためにも、7月に模試を受験したり、塾でのテキストのまとめ問題をあらかじめ解いたりして、ご自身の弱点分野を把握しておくことが大切になります。その「弱点分野」を克服するために、まだ学習ができていない小学校の学習分野が残っているのであれば、その未習分野を夏期講習までに学習を終えるカリキュラムを、塾の先生に組んでもらいましょう。

特に理科と社会については、以前に学習をした内容を忘れてしまい、模試や問題集のまとめ問題で得点ができない小6生をよく見かけます。また、個別指導塾や家庭教師を活用して受験勉強を進めている場合、通常授業で理科または社会を受講していない場合も要注意です。模試やテキストのまとめ問題によって理科・社会の現状を確認し、理科・社会の弱点や未習単元が多くみられる場合には、苦手分野の克服や未習分野をなくすためにも、塾の夏期講習の受講においては、理科や社会を強化するカリキュラムを考えていきましょう。

小6生のポイント その2 【入試問題の傾向から学習ポイントを決める】


 小6生の受験生、保護者の皆さん。志望校の過去問には目を通されていますか?私が書いた過去の中学受験に関するコラムでも述べてきましたが、中学入試の出題形式は学校によって大きく異なる場合があります。

一般的に中学入試は、選択肢で選ばせる問題や漢字、(算数・理科の計算問題の答えとして)数字、語句で答えさせる出題が中心にはなりますが、近年は文章で答えさせる論述問題を出題する学校が増えてきています。志望校の入試過去問で論述問題が多く出題される場合、当然ながら夏期でも論述問題対策の学習が必要になります。

【資料1】

問7 都市部に人口が集中することにより、経済的・社会的負担が発生している事例を、「大規模な上下水道の整備が必要になる」以外に考えて、どのような負担があるかを含めて説明しなさい。

 【2023年 武蔵中 社会入試問題より抜粋・一部改編】

 【資料1】にあげたのは、今年2月に実施された武蔵中学校(東京都練馬区)の社会入試問題の一問です。武蔵中は大正時代に創設された旧制高等学校を前身とする男子校で、社会だけではなく、国語や理科でも文章読解力や資料分析力、発想力、解答文の表現力を問う論述問題を、毎年出題していることでも知られています。

【資料1】にあげた問題では、東京などの都市部の人口集中により生じている「経済的・社会的負担」の事例が思いつくことが最大のポイントになります。例えば、平日の朝・夕方の通勤通学時の鉄道など公共交通機関の混雑や不動産価格の上昇による都市部での居住費用の高額化、それに伴い(昨今の少子化傾向も合わさり)都市部の小中学校や幼稚園の維持・整備が困難になる、などの事例です。首都圏の中学入試の社会入試問題では、近年、少子化や災害、電力などのエネルギー問題などを踏まえて、首都圏や都市部に関する事例や問題点を扱う論述問題の出題も増えています。

 論述問題に答える力は一朝一夕で身につくものではありません。志望校が論述問題を出題する傾向にあるのであれば、文章表現力や論理的思考力、発想力を鍛える必要があります。とはいえ、志望校の過去問をいきなり解き進めても、解けない、書けない、と思われます。ひとまずは志望校入試の過去問を調べて、その傾向を把握し、受験生それぞれの状況に応じて、問題への取り組み方、解答にたどり着くための考え方、文章の書き方を身につけていく段階です。

夏は集中力が落ちやすく、特に記述問題や論述問題の自己学習は効率が悪くなりがちですが、暑くなる前の午前中やお昼寝からの起床後の時間帯など、頭の働く時間帯を意識して、効果的に学習を進めていきましょう。

他方、志望校の入試過去問では論述問題はあまり見受けられない場合は、例えば、5年生までに習った範囲の知識や理解の確認や入試問題を使った演習力強化など、塾の先生に相談をして、受験生本人の現状と志望校の入試傾向から夏期講習の強化ポイントを決めていきましょう。

非受験学年のポイント その1 【今までの学習範囲の確認と定着】


小学5年生までの非受験学年の夏の学習ポイントは今までの学習範囲の確認と定着です。今までの学習範囲がどれくらい身についているかを確認するためには、模試や学力診断テストをペースメーカーとして活用することが有効です。

 

【資料2】 首都圏模試小5合判模試 第1回出題範囲

国語:物語文・小説、論説・説明文、詩、かなの知識、漢字・熟語の知識、ことばのきまり、ことばの知識、ことわざ・慣用句など

算数:整数・小数・分数の仕組み・四則計算、約数・倍数、数の範囲(以上・以下・未満)
   周期を利用した問題、等差数列、三角形・四角形の面積、三角形・四角形の角度
   立方体・直方体の積み上げ・体積(角柱と円柱は除く)、つるかめ算、植木算

理科:種子のつくりと発芽、太陽の動き、温度による体積の変化、酸素・二酸化炭素

社会:地図の見方(地図記号、縮尺、経度や緯度など)、各地の人々のくらし、日本の国土(地形、気候、都道府県など)

 

【資料2】に示したのは、首都圏模試センター主催の小5生対象「小5合判模試」第1回(7月2日実施予定)の各教科の出題範囲です。特に算数と理科は、かなり具体的に出題単元が示されています。首都圏模試に限らず、中学受験向けの模試は小学校や塾で標準的に学習する進度に応じて、模試の出題範囲が決まっています。

仮に(6月末までに学習する予定の単元も含めて)模試の出題範囲の中でまだ学習をしていない単元があれば、今の段階からも学習を進め模試に間に合わせるか、夏に学習をすることをあらかじめ決めたうえでの夏期講習のカリキュラムを組む必要があります。他方、出題範囲は既に学習済み、もしくは6月末までには学習完了予定であれば、模試受験前には大まかな夏期講習のカリキュラムや受講予定日程を組んだうえで、模試終了後、あまりできていなかった単元や派生単元(例えば、理科で「酸素・二酸化炭素」の単元ができなかった場合、気体発生や化学反応など、化学に関する単元)を夏期講習のメインテーマとするといいでしょう。模試の結果が良かった場合には、今回の模試で出題されなかった単元や出題された単元の発展問題など、現状の学力や志望に応じて、夏期講習のカリキュラムを決めていきましょう。

非受験学年のポイント その2 【中学校を知り、受験勉強の方向性を決める】


 非受験学年の皆さんの場合、中学受験をすることは決めていても志望校が決まり切っていない、第一志望校は決まっているけれど併願校は決まっていない、というご家庭もいらっしゃるかと思います。そのようなご家庭にとって、夏休みは中学校に関する情報収集の重要な時期となります。

 例年夏休みの時期には、私立中学校の多くはオープンスクールや学校説明会・入試説明会を実施します。大規模なホール会場や大学キャンパスなどで、多くの私立中学校が集まっての個別相談会も実施されたりします。新型コロナウイルス(コロナウイルス2019)感染拡大の影響で、ここ数年はこのような説明会や相談会の開催も少なくなっていましたが、今年の夏は例年どおり行われると思われます。ただし、事前予約制が必要なケースがほとんどになります。

 一方、インターネットによって中学校を知る、相談できる機会も増えてきています。数多く私立中学校がYouTube上に公式ページを設けて、学校紹介や入試説明、在校生や卒業生のインタビューなどの動画を掲載しています。また、動画中継によるオンライン学校・入試説明会やZoomによるオンライン個別相談の実施をしたり、企画をしている中学校もあります。各都道府県には全ての私立中学校が加盟する協会・連合会があり、そちらのホームページでオンラインを含めての、各学校のイベントや説明会の日時などを紹介しています(【資料3】のホームページ参照)。

【資料3】首都圏・近畿圏の私立中学校団体情報ホームページ(抜粋)

東京都:東京私学ドットコム中学校版(東京私立中学高等学校協会)
 https://j.tokyoshigaku.com

埼玉県:埼玉私学ドットコム(埼玉私立中学高等学校協会)
 http://saitamashigaku.com

千葉県:千葉県の私立中学・高等学校情報サイト(千葉県私立中学高等学校協会)
 https://chibashigaku.jp

神奈川県:神奈川県私立中学高等学校案内(神奈川県私立中学高等学校協会)
 https://phsk.or.jp

大阪府:大阪の私立中学校(大阪私立中学校高等学校連合会)
 https://www.osaka-shigaku.gr.jp/jrhighschool/index.php

京都府:京都府私立中学高等学校連合会
 https://www.kyotoshigaku.gr.jp

兵庫県:兵庫県私立中学高等学校連合会
 https://www.hyogo-shigaku.or.jp/chukoren/index.html

滋賀県:滋賀県私立中学高等学校連合会
 https://shiga-shigaku.com

奈良県:奈良県私立中学高等学校連合会
 http://nara-shigaku.net

このようなイベントや説明会、個別相談などを通じて、志望校や受験を考える学校が、より具体的に見えてくると思います。志望校が具体化したら、志望校合格のために必要なことを逆算して考えることができます。「合格のため、偏差値はどれくらい必要なのか」、「国語、算数、理科、社会。入試の配点はどうなのか」、「記述問題や論述問題の対策が必要なのか」など。志望校合格に必要なことを踏まえて、この夏の課題や強化ポイントも具体化して、夏休み期間の学習に活かしていきましょう。

 今回は「中学受験 夏の過ごし方(計画編)」と題して、夏休みのすごし方や計画の立て方のポイントをお話しました。計画は実際に行う時期に変更することもあるかもしれません。しかし、計画を立てることにより、今現在にするべきことも決まります。夏休みや夏期講習の計画を早めに組み立てて、今勉強すべき内容も確認をしてきましょう。

次回は「中学受験 夏休み過ごし方(実践編)」として、各科目の勉強内容や朝・昼・夜などの時間帯ごとの学習アドバイスなど、具体的かつ実践的なお話をしていきたいと思います。

<文/開成教育グループ フリーステップ修学院教室チーフ 住本正之>