2020/07/02

首都圏中学入試問題分析【中学入試で求められる国語力"書く力"と"考える力"を養うために】

中学受験を考えている小学生のみなさん。フリーステップでの学習は順調ですか?小学5年生になれば、塾では「受験生」としてのモードに入ります。国語の授業も、次第にみなさんの志望校の入試に即したものとなっていきます。今回は『中学入試で求められる国語力「書く力」と「考える力」を養うために』と題して、中学入試の国語について、特に近年重視されてきている「書く力」と「考える力」について、お話をしていきたいと思います。

中学入試の国語において求められる力として、私は『フリステWalker』での連載において都度、四つの力を示してきました。「読む力」、「書く力」、「ことばの力」、そして「考える力」の四つの力です。四つの力のいずれもが大切なのですが、最近の中学入試では、特に「書く力」と「考える力」を問う問題が目立つようになってきました。その背景としては、現在進行中の大学入試制度改革、すなわち、思考力や表現力、発想力を重視した大学入試の変革があります。中学入試においても、それらの力を入試で問う学校が増えてきました。

今までも「書く力」を求める国語入試問題は数多く出題されていますが、それらは問題文を読み、理解し、その文章の記載内容に即した解答文の作成を求めるものです。最近では、問題文の理解は基本としながらも、受験生に考えや具体例の提示を求める「小論文型」の問題も、国語の中で出題される例が増えてきました。

■小論文型

小論文型問題.jpg

この問題は2019年の暁星中学校の国語入試の最後の設問となった問題です。字数制限のある問題ではありませんが、だいたい350字から400字が記載できる解答欄に文章を書くことが求められます。

この問題への解答のポイントは、①「楽しいこと」主題が思い浮かぶこと②「楽しくなってきた」理由を説明すること③「楽しい」エピソードを示す、以上の3点になります。いずれも「考える力」が必要になります。

「小論文型」の問題のなかでは、この問題のような自分自身のエピソードに基づくものも多いのですが、他には、「ディベート型」の問題や図やグラフなどの資料の分析を求める「分析型」の問題も出題されるようになってきています。

ポイント
「ディベート型」とは

教育における「ディベート」とは、あるテーマに対して、賛成か、反対かを論じたり、Aを選ぶか、Bを選ぶかを論じたりすることで、論理的思考力や実証能力、健全な批評能力を養うことを目的として、教育現場で活用されています。したがって、「ディベート型」の入試問題の解答文では、論理性や実証性がポイントになります。

■ディベート型①

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【問題1】は中学校の図書館にマンガを置くことへの賛否がテーマです。賛成であること、または反対であることの、どちらを選ぶことが高評価になるということではありません。賛成であればマンガを置くことによる中学生へのメリットを、反対であればマンガよりも図書館で充実させるべき本のジャンルを、など、賛成・反対を根拠立てて説明する論理性や具体例を示しながらの実証性があると、高得点につながります。

■ディベート型②

ディベート型問題2.jpg

【問題2】は自己主張をするのと、謙遜するのと、どちらがいいかを考えるかがテーマです。どちらを選ぶのが正解という訳ではありません。自己主張が大切と選ぶ場合も、謙遜が大切と選ぶ場合も、大切だと思う理由やメリットを論理的かつ実証的に書くことが重要です。あと、この問題では「自分の体験を用いて書きなさい」とあります。自分自身が行ったこと、または他人が行い、自分が受けたことについて、その自己主張が明確な態度、謙遜的な態度がどのような結果になったのか。エピソードの再現力もポイントになります。

ポイント
「分析型」とは

図やグラフ、数値を示した表を見せて答えさせる「分析型」の問題。このタイプの問題は社会や理科の入試問題の中でも出題されることがあります。国語の中で出題される場合でも、社会や理科を含む、小学校での学習内容や生活体験と関連した出題がされる傾向にあります。

■分析型①:2019年度春日部共栄中学校国語入試

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分析型①は、春日部共栄中の国語入試問題からの抜粋です。「世界遺産」に関するグラフと表を見て、その特徴や背景を答えさせる問題です。「世界遺産」は主に社会で学習をする内容です。加えて、表Bのなかには世界の国名があり、これも社会で学習をする内容です。社会で出題されてもおかしくはない問題ですが、国語で出題されているということは、知識よりも文章力や論理性が重視されると考えていいと思います。

■分析型②:2019年度慶應義塾湘南藤沢中学校国語入試問題

分析型問題2.jpg

分析型②は、慶應義塾湘南藤沢中の国語入試問題からの抜粋です。日本のプロ野球選手の誕生月に関するグラフから「仮説」を考える問題です。同中等部の母体である慶應義塾大学は数多くのプロ野球選手を輩出し、昨年秋の明治神宮野球大会で優勝し大学日本一になるなど、野球が盛んな学校ではありますが、野球に詳しい人でないと解けない問題ではありません。

4月と7月に多い理由。例えば、4月は年度初めで、同じ学年であっても心身の成長が進み、遅い時期に生まれた同学年の選手より、野球という運動量の多いスポーツをするのに有利に働くから、7月はプロ野球のオールスター試合や高校野球の地方大会があり、野球が盛り上がる時期に生まれたわが子に野球(選手)にちなんだ名前をつけたり、野球に関する誕生祝いをもらいやすくなるなど、野球への動機づけをさせる傾向が強くなるから、といった「仮説」を考えて書くのです。その「仮説」を証明するための方策も求められていますが、その際に、例えば、フィギュアスケートであれば、冬季に集中するオリンピックなどのフィギュアスケートの大会の時期とフィギュアスケート選手の誕生月との関係など、野球とは開催時期の異なるスポーツとの比較を考えて述べるのも有効です。

ポイント
「小論文型」への対策

今まで述べてきたような「小論文型」の入試問題は公立中高一貫校や私立中学のなかでも公立中高一貫校との併願受験を意図した入試方式の中でよく出題されていますが、私立中学の国語一般入試の中での出題はまだ少数です。しかし、大学入試改革の流れを受けて、今後「小論文型」の入試問題を組み込む私立中学は増えていくものと思われます。

ポイント
入試説明会に行こう!

受験を考えている中学校で「小論文型」の問題が出題されるのかどうか。それを知るためには、中学校主催の入試説明会や個別を含めた入試相談会に参加することが大切になります。今までは出題していなかった「小論文型」の問題を次年度から出題をするなど、入試内容に大きな変更がある場合、多くの私立中学では事前の入試説明会でその変更についての説明をします。サンプル問題を提示して、どのような問題を出題するか、その出題意図や評価のポイントを説明する学校もあります。

ポイント
「週間日記」を書こう!

出題可能性を確認したら対策です。「書く力」と「考える力」を同時に養う方法として、私は「週間日記」を提案します。本来、日記は日々起きたことを書き記すものですが、毎日書くのは続かない、三日坊主になる、書くことが思いつかない、などの懸念が出てくるかもしれません。それならば、週末に、テーマを決めて、制限時間を決めて、「週間日記」とするのです。

「週間日記」のサンプルを書いてみました。

■「週間日記」サンプル

週間日記.jpg

書くにあたってのポイントは、

①テーマやエピソードに関する理由づけをする(麻婆豆腐が他のお店より辛い理由お客さんが多い理由)

②自分の考えや意見を書く(子ども向けのメニューがあるべき)

③テーマは身近なことを中心に、時にはニュースについても

④制限時間を設ける(はじめは20分程度で慣れてきたら10分程度で)30分以上はかけない

⑤書式は原則自由ただし、志望校が字数制限を設ける場合はその字数制限で書く

⑥「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書く

①や②については、最初はすぐには書けないかもしれません。その場合はエピソードや感想のみを書くだけでも大丈夫です。ただ、エピソードについて「なぜ?」や「だから」を考えようとしてください。今回の例に関しては「なぜ、麻婆豆腐が辛いのか?」、「だから、自分は子ども向けのメニューが欲しい」というように、理由づけとアイデアを考える習慣をつけましょう。考える習慣の有無、そして文章を書いた量によって鍛えた文章力が、特に「小論文型」の入試問題では大きな差となります。「週間日記」で「書く力」と「考える力」を身に着けて、入試に対する強い武器としましょう。

<文/開成教育グループ フリーステップ修学院教室チーフ 住本正之>

【フリステWalker 第137号(2020.3月)掲載】