2024/02/05
関東関西有名中学入試分析【中学受験の基本のキホンを確認しましょう!】
現小学6年生の中学入試がいよいよスタートしました。現小学5年生にとっては"受験生"としての1年がスタートすることになります。つまり、今まで以上に"受験生"となる生徒さんや保護者の方が主体的に動いていくことが求められます。今回は、はじめて中学受験を検討する生徒さんと保護者の方に向けて、中学受験の基本事項となるテーマについて述べていきたいと思います。
中学受験の基本確認 その1 学校選び
中学受験の第一歩は志望校を決めることです。入試を受けなくても進学できる近隣の公立中学校ではなく、受験勉強が必要となる、入試のある私立・国立の中学校(または公立中高一貫校)を志望するのには理由があるはずです。その理由の中でも、大学進学または高校進学に関わる理由をお持ちのご家庭が多いと思います。学校選びの基本として、私立中学校や国立中学校の分類について、まずはお話します。
私立中学校のなかで一番多いのが、系列大学を有しない、もしくは系列大学がある場合でも、その大学への内部進学よりは他大学への進学を前提としたカリキュラムを策定したうえで教育を実践している中高一貫校です。東京大学や京都大学などの難関国立大学への合格実績の高さで知名度の高い進学校(開成中、桜蔭中、灘中などが代表例)もあれば、生徒の個性や自由を尊重し、建学の精神、または学校の母体となっている宗教の精神に則った独自の教育を実践している学校もあります。今回はそれ以外の私立や国立の中学校の類型や特徴について述べていきます。
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中高大一貫教育校:系列大学進学を基本とする
一般的には大学附属校や"エスカレーター式"に大学に進学する学校とされている中学校です。首都圏では、早稲田大学の系列校である早稲田大高等学院中、早稲田実業中、早稲田中や慶應義塾大学の系列校である慶應義塾普通部、慶應義塾中等部、関西圏では同志社大学の系列校である同志社中、同志社女子中、同志社香里中などです。それらの学校では、系列大学に進学することを原則として、中学・高校とも、受験勉強にとらわれない教育活動を進めています。中高大一貫教育校の場合、余程の成績不振や素行不良がない限り、希望者全員が系列大学に進学できることを原則としていますが、他大学を受験する場合は系列大学への進学の権利を放棄する必要がある学校が多数です。【資料1】にまとめましたが、早稲田大、慶應義塾大、同志社大、関西学院大の系列中高などは、この場合にあたります。
しかし一方、国公立大学を受験する場合や、他の私立大学でも、系列大学にはない学部(よくある例としては医学部、歯学部、看護系学部)を受験する場合に、系列大学への進学の権利を保持できる学校もあります。なかには法政大学の系列校(法政大学中高、法政大学第二中・高など)のように、国公立大・私立大を問わず、どの大学を受験したとしても、系列大学への進学の権利を維持できる学校もあります(いずれも【資料1】参照)。
【資料1】他大学を受験する場合の系列大学への進学権利の扱い(抜粋)
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独立型中学校:外部高校受験のためのカリキュラム
私立中学の多くは高校を併設し、中学卒業後は併設高校に進学することを原則とした中高6年間一貫教育の体制を整えています。他方、少数ではありますが、併設高校を有しない、もしくは併設高校はあるが中学(コース)独立のカリキュラムを組んでいる私立中学校もあります(【資料2】参照)。地域トップとされる公立高校の大学合格実績の好調を受け、このような中学校では、私立高校のみならず、公立高校の入試対策にも力を入れてきている傾向にあります。
【資料2】 併設高校がない または併設高校進学を前提としないコースのある私立中学校(抜粋)
※注 履正社学園中、四条畷学園中、蒼開中には中高一貫コースもあり
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国立大学附属校:高校併設の有無 教育学研究の実践の場
中学受験の対象となる学校として、国立の中学校や中等教育学校も挙げることができます。国立の中学校・中等教育学校は国立大学の教育学部や教員養成部門の附属校として併設されているのがほとんどです。大学での教育学研究の成果や理論の実践、教師志望の大学生や大学院生の教育実習の場としての役割も、国立大学附属校は担っています。国公立の学校のため、義務教育期間である中学課程では、授業料や検定教科書の費用は、公立中学校同様に無償となります。ちなみに、国立大学附属校の高校・中等教育学校の場合、私立大学の附属校のような、母体となる大学への"エスカレーター式"の進学保証は原則としてありません。
【資料3】 首都圏(東京・埼玉・千葉・神奈川)にある国立の中学校・中等教育学校の類型
国立大学附属の中学は併設の高校(課程)の有無に応じて、中等教育学校、併設高校のある中学校、併設高校のない中学校に区分けができます。【資料3】に首都圏にある国立の中学校と中等教育学校の区分けを示しました。
中等教育学校とは中学校3年間と高校3年間の計6年間の中等教育課程を一つの学校で施す学校のことです。入学すると原則6年間通うことになります。もちろん高校入試を受験する必要はありません。例えば、東京大学は教育学部附属の中等教育学校を有していますが、同校には東大への独自の推薦入学制度や内部進学枠はありません。同校は双生児(双子・三つ子など)研究の場としても位置づけられていることから、入試では一般生徒とは別枠で双生児の入学枠を設けています。
併設高校がある国立中学校の場合は中学3年生の段階で、併設の国立の高校への進学を希望するか、他の高校を受験するかを決めることになります。併設高校への進学条件は学校によって異なりますが、次のうちの3つに分類されます。
①無試験で併設高校に進学できるところ
②一定の成績要件を満たしている場合に進学可能なところ
(成績が内部進学の基準を満たしていない場合は他の高校受験が必要となります)
③内部進学枠の定員内で高校入試を受験する必要のあるところ
※個々の中学校の併設高校進学要件については各中学校にご確認ください。
最後に、併設高校のない中学校の場合、公立中学校同様に高校受験が必要になります。国立の中学校の場合、学校として特定の高校の入試対策のカリキュラムを組んでいるわけではありませんが、例えば、埼玉大附属中であれば埼玉県立浦和高校、千葉大附属中であれば千葉県立千葉高校というように、中学校のある地域でトップ校とされる公立高校の受験者や合格者が比較的多くなる傾向にあります。また、お茶の水女子大附属中は男女共学ですが、お茶の水女子大附属高校は女子校のため、同中学に通う男子生徒は全員、外部の高校受験が必要となります。
中学受験の基本確認 その2 入試科目
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難関校は4科目・3科目入試が中心
志望校が決まったら、志望校の受験科目を確認しましょう。首都圏では国語・算数・理科・社会の4科目入試、関西圏では国語・算数・理科の3科目入試(国語・算数・理科・社会の4科目入試と選択できる学校もあり)を、多くの私立や国立の中学校が採用しています。志望校が4科目または3科目入試を採用している場合はもちろんですが、志望校が決まり切っていない場合でも、受験勉強に専念できる環境にあるならば、4科目または3科目の入試を念頭に置いて理科や社会の学習も進めることをおすすめいたします。
国公立大学の入試の第一関門はセンター試験から共通テストに移行しましたが、文系の学部も理系の学部も、国公立大の場合、英語・国語・数学・理科・社会の5教科を入試で課すケースが大半となります。私立大学進学を前提とする場合でも、先に述べた大学一貫教育校においては、5教科まんべんなく学習するカリキュラムとしている学校が多く、そのための基礎学力や素養をみるための中学入試となっています。
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受験科目に英語を考えることも可能
最近では理科・社会の代わりに、または国語の代わりに英語を入試科目とする方式を導入している中学校もあります。もしくは英検の取得級の証明書の提出を英語の入試の代わりとしている中学校もあります。英検3級から準2級の水準の入試問題としている学校が多いですが、難関とされている中学校の場合は英検2級以上のレベルの入試問題が課されることもあります。
例えば、慶應義塾湘南藤沢中(神奈川県藤沢市)は一般入試で、国・算・理・社の4科目入試または国・算・英の3科目入試を選択することが可能です。同中学校の英語入試問題の水準は英検準1級から2級と学校側が示しています。
※同中学校の英語入試問題内容については同校ホームページの「中等部入試 英語試験について」
https://www.sfc-js.keio.ac.jp/exam/jr-englishexam.html をご参照ください。
もっとも、中学入試で英語を導入している学校(日程)は中学入試全体の中ではまだ少数です。英語を中学受験の入試科目として考える場合は、志望校のみならず併願先として考える学校に英語入試があるか、英語入試がある場合、英語の入試問題が英検のどの級の水準なのか、受験生自身が英検でどの級を持っているのか、塾を含めてどのように受験勉強を進めるのか、など、慎重に検討する必要があると思います。「英語が好き」ということも大切ですが、志望校の英語入試問題が目安としている英検の級、またはそれ以上の級を持っていることがポイントとなります。
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2科目入試(国語・算数)の場合
私立中学志望ではあるけれども、スポーツや習い事など受験勉強以外にも頑張っていることがあり、4科目・3科目の学習時間の確保が難しい場合や志望校が2科目入試のみである場合には、国語・算数の2科目の受験勉強となります。
国語も算数も、思考力や読解力、つまり"頭で考える力"が重要になる科目です。受験勉強においても、頭がはたらく時に学習することが重要です。スポーツや習い事などをしている場合、心身ともに疲れている、それらの活動後に国語や算数の勉強をするのは現実的ではありません。となると、スポーツや習い事の前の時間帯やそれらがない日の勉強が重要になってきます。塾はスポーツや習い事のない日、もしくはそれらの前の時間帯に通うことをお勧めします。スポーツや習い事の前の時間帯の学習としては、国語ならば短い文章を読み設問を解く問題、算数ならば計算問題や一行問題を、30分や20分といった短いスパンの時間内に解く習慣を身に着ける。"頭がはたらく時間"を意識した学習を進めていきましょう。
中学受験の基本確認 その3 小学校の成績(調査書)と模試について
高校受験の場合、中学校での成績や模試の結果が出願や合否に影響することが多くあります。特に公立高校の入試においては、点数化された中学校の成績と入試(科目試験)の点数の合計点で合否が決まることが一般的です。では、中学受験の場合、小学校での成績や模試の結果はどのように扱われるのでしょうか。
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小学校の成績(調査書)
中学入試の出願の際、ほとんどの中学校は受験生本人の小学校が作成した調査書または通知表のコピーの提出も求められます。しかし、一般的な学力入試において、調査書や通知表に記載された成績は「参考程度」に扱われ、入試の合否はあくまでも学力試験の合計点数で決定している中学校がほとんどです。筑波大駒場中(国立 東京都世田谷区)は学力検査の得点と報告書(小学校5年・6年の評定値記載欄あり)の合計点で合否を決定していますが、このように報告書を点数化して合否を決めるケースは珍しいほうです。
他方、中学入試においても近年増えてきた自己推薦型入試やAO型入試においては、その出願要件や合否の決定において調査書・通知表に記載された小学校の成績を点数化して判断材料にするところもあります。
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中学受験の模試
大学受験や高校受験にもあるように、中学受験にも模擬試験(模試)が存在します。中学受験生向けの模試は、中学受験大手進学塾(サピックス小学部、四谷大塚、日能研、浜学園、馬渕教室など)が主催して実施される模試(公開テスト)と進学塾とは別個のテスト会(首都圏模試センター、五ツ木書房など)が主催して実施される模試とに、大きく二分されます。
進学塾が主催する模試の場合は、その塾の入塾テストを兼ねることや塾生の学習到達度をはかることを目的とした色合いがある出題内容になります。各中学受験塾の塾生の学力層や塾それぞれのカラーに応じて、問題の難易度や出題範囲、記述問題・論述問題の質量などが変わってきます。例えば、偏差値の高い難関校とされる中学校を志望する塾生の多い進学塾主催の模試の場合、塾生に基礎・基本が身についている前提で、難関校の入試で問われる記述量の多い論述問題や思考力、発想力を問う内容が多くなります。当然ながら、主催をするその進学塾や提携塾の塾生の受験が大多数を占めます。
他方、テスト会主催の模試の場合は、大手進学塾の塾生の受験ももちろんありますが、地域密着型の進学塾や個別指導塾で勉強している受験生、そして、塾には通わず、家庭学習を中心にして受験勉強をしている小学生も多く受験します。難易度の高い問題よりは、基礎・基本をベースとしたオーソドックスな私立中学入試一般の出題内容が中心となります。
一般的な中学入試においては、模試の結果は受験校決定の判断材料にはなりますが、模試の結果や点数が入試の合否に直接影響することはありません。ただし、関西圏の一部の中学校の自己推薦入試では、模試の特定時期の成績を出願要 件や合否の判断材料としているところもあります。
今回は「中学受験の基本のキホンを確認しましょう!」と題して、中学受験の基本事項について述べてきました。生徒の全員が必要となり、中学校からの受験に関する指示や指導もある公立中学生の高校受験とは異なり、特に公立小学校からの中学受験は、ご家庭が主体的に、能動的に動く必要があります。すでに志望校を決めて受験勉強に取り組んでいるご家庭はもちろんですが、中学受験をするかしないか、迷っているご家庭においても、このコラムが次の一歩への判断材料となれば幸いです。
<文/開成教育グループ フリーステップ修学院教室チーフ 住本正之>