2020/07/08

首都圏中学入試問題分析【2020年首都圏中学入試からわかる2つのこと】

中学受験を考えているみなさん、勉強は進んでいますか?小学校の休校のため、学習が思うように進んでいない方も少なくないのではと思います。塾での学習内容にかかわらず、中学受験に関して気になることがあれば、お気軽に教室チーフや講師にご相談ください。

今回は今年1月・2月に実施された首都圏中学入試から、ポイントになることを2点、説明していきたいと思います。

ポイント①
大学一貫教育校の人気上昇

中学受験を実施する私立中学校のほとんどが、併設している高校との六年間中高一貫教育を実施しています。いわゆる"早慶"や"MARCH"などと称される、首都圏にある有名私立大学も、そのほとんどが、大学の附属校、または系列校としての高校や中学校を有しています。中学を有しない大学系列の高校(例:早稲田大学本庄高等学院、中央大学杉並高校など)もありますが、中学校から一貫教育を実施しているところが多くなっています。そのような中高大一貫教育を実施している大学系列の中学校の人気が近年高くなっています。【資料①】に示したのは、東京都と神奈川県の私立中学入試初日となる2月1日実施の入試における、有名私立大学の附属校・系列校の中学入試の合格実質倍率を、2020年入試と2016年入試で、抜粋してまとめたものです。

■資料① 2月1日大学系列の中学校の入試倍率

資料1.jpg

早稲田大学高等学院(中等部)、慶應義塾普通部のほとんどの卒業生が進学する慶應義塾高校、中央大学附属からは、希望者のほとんどがそれぞれの系列大学に進学が可能です。立教女学院と香蘭女学校はともに立教大学の関係校で、ともに定員の6割程度の人数が立教大学に推薦入学が可能となっています。2016年と比べて、どの学校も倍率は高くなっています。

有名私立大学の関係中学の人気が高くなっているのは、それらの大学の一般入試が激戦となっていることが影響しています。【資料②】では有名私立大学の商学部・経営学部の2019年実施の、3教科型一般入試の実質合格倍率をまとめたものです。

■資料② 2019年私立大学(商学部経営学部)一般入試(3教科型)

資料2.jpg

商学部に限らず、私立大学の中では第一志望率の高い早稲田大学の各学部の倍率や偏差値が高いことは知られていますが、例えば、立教大学の経営学部は2006年創設(経済学部から独立)と歴史は浅いながら、カリキュラムや卒業生への高い評価から、現在では立教大の中でも特に、入試倍率や偏差値の高い学部として知られています。明治大学は女優やアイドルタレントなど、知名度の高い若い芸能人が入学・卒業し、旧来の男っぽい"バンカラ"なイメージからのイメージチェンジをはかったこと、青山学院大学は箱根駅伝優勝による知名度強化や4年間渋谷・青山キャンパスで学生生活を過ごせるようになったことで、それぞれ、近年人気が高まっています。

有名私立大学自体の人気やブランドイメージの上昇もありますが、各大学共通の事項として、入試倍率上昇の大きな要因となっているのが、文部科学省による大学の「定員厳格化政策」です。「定員厳格化政策」の影響で、首都圏や関西圏などの都市圏の私立大学が軒並み、2017年以降の入試で、それまでよりも一般入試やセンター試験利用入試の合格者数を抑制するようになりました。加えて、AO入試や自己推薦入試、指定校、協定校からの入学など、一般入試以外の方法による入学者が増える一方で、一般入試の定員は少なくなる傾向にあります。

例えば、早稲田大学もMARCH各大学も、公立高校からも数多く合格者を輩出していますが、公立高校からの2020年合格者数1位が、早稲田大の場合は東京都立日比谷高校、明治大の場合は埼玉県立浦和高校と、ともに東京・埼玉の公立最難関高校となっており、両校とも東京大学の合格者数は、例年全国の公立高校のなかでトップクラスとなっています(東京大学合格者数2020年実績日比谷高40名浦和高33名)。

もちろん、日比谷高校や浦和高校からの受験生が、早稲田大や明治大に全員合格できるという保証はありません。公立高校入試においては、どの都道府県においても、難関とされる公立高校ほど中学校の成績を高く揃えておく必要もあります。公立高校入試を経験された保護者の方には、わが子には中学・高校時代はのびのびと過ごしてほしいと、中学進学の段階で大学の関係校にと考えるケースもあるでしょう。

ポイント②
英語で受験可能な中学校が急増

中学受験に関する私のコラムをお読み下さっている保護者の方のなかには、公立中学校への進学を前提に算数(数学)、国語、または英語の学習をフリーステップで進めているというお考えの方もいらっしゃるかと思います。

首都圏の場合、多くの私立中学校が入試科目を国語・算数・理科・社会の4教科を設定しています。国語と算数の2教科を入試科目としている中学校も多くあります。関西地方の場合は国語・算数・理科の3教科入試(または4教科入試との選択制)としている中学校もあります。一方で、ここ最近増えてきているのが、英語を入試の選択科目とする中学校、または英語のみの入試方式を導入する中学校です。

【資料③】に示したのは、中学入試において英語を入試科目(の一部)としている中学校、または英語の検定資格を受験要件としている中学校の数です。

■資料③ 首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城・栃木)における入試で英語受験が可能な国立・私立中学校の数(帰国生入試は除く)

資料3.jpg

帰国生や海外居住経験者を対象とした入試では、英語を入試科目としている中学校はもともと多いのですが、【資料③】に示したのは帰国生や海外居住経験を出願要件としていない入試を前提としたものです。なかには英語のみを入試科目としている中学校もあります。

【資料④】と【資料⑤】に示したのは英語のみの入試方式も実施している中学校の英語入試問題からの抜粋です。【資料④】が桐朋女子中(東京・調布市)、【資料⑤】が聖ドミニコ学園中(東京・世田谷区)の英語入試問題の一部です。

■資料④ 出典:桐朋女子中学校(東京)英語入試問題

資料4.jpg

■資料⑤ 出典:聖ドミニコ学園中学校(東京)英語入試問題

資料5.jpg

こちらでは筆記問題の一部を掲載していますが、両校ともリスニングやスピーキング(面接)などを組み合わせ、英語力を総合的に測る入試としています。学校によって求める英語力は違ってはきますが、英語単独の入試の場合は英検3級から準2級以上、算数や国語との組み合わせの入試の場合は英検4級以上が目安となるでしょう。

私立中学における英語入試が増加している理由は、帰国生や海外居住経験者以外でも、小さいころから英語を学び、英語が得意で好きな小学生が増えていることが挙げられます。4教科学習の中学受験勉強を進めてこなかった小学生にも、中学受験のチャンスを設けたいという、中学校側の考えもあります。

英語が得意であっても、志望する私立中学の入試科目が英語以外の国算理社であれば、その入試のために4教科の学習を着実に進める必要があります。しかし、国語と算数の学習は小学校ベースに進めるとしても、他の習い事などで理科や社会の学習の時間がない、今が小学6年生で、理科や社会の中学入試の全範囲を学習するには時間がない、というご家庭もあるかと思います。もし、英語の学習は進めてきて、英語をより勉強したい、英語を活かした将来を考えたい、というお子さまの場合、英語を入試科目としている中学受験は進路選択の幅を広げるものになると思います。

<文/開成教育グループ フリーステップ修学院教室チーフ 住本正之>

【フリステWalker 第141号(2020.7月)掲載】