2023/11/06
関東関西有名中学入試分析【11月から入試直前にかけての合格戦略と勉強法】
今年も残り少なくなってきました。中学受験に挑む小6生にとってはラストスパートの時期です。これからの時期は受験生のみなさん一人ひとりによって、志望校合格のための戦略や勉強法が大きく変わってきます。今回は中学受験を間近に控えた小6生の冬期・入試直前期の戦略や勉強法について述べていきたいと思います。
まずは入試までの日程や受験校確定などの「合格戦略」のポイントについてです。
志望校入試までに残された日数から冬期の学習内容を決める
【資料1】2024年首都圏・近畿圏 私立中学校入試開始日予定日(解禁日)
埼玉県 |
千葉県 |
東京都・神奈川県 |
近畿圏 |
1月10日~ |
1月20日~ |
2月1日~ |
1月13日~ |
※注意 一部の中学校では一般入試の開始日以前に、帰国生入試や推薦入試を実施する場合があります。
「志望校の入試まで、あと何日ですか?」この質問に対する答えは志望校のある都府県によって異なってきます。
例えば、埼玉県在住の受験生であっても、埼玉県内にある私立中学校を第一志望とする場合と、東京都内にある私立中学校を第一志望とする場合では、志望校入試までに残された日数は20日ほど異なってきます(【資料1】参照)。もっとも、埼玉県内の私立中のなかには2月にも入試を実施するところもありますが、2月入試は、1月入試による入学手続き状況による合格者数の絞り込みとなる可能性もあるため、第一志望とするのであれば、合格者数の絞り込みのない初回の入試を受験するのが鉄則となります。
埼玉県内の私立中学校を第一志望とする場合、1月10日から入試がスタートします。できれば12月初旬からは併願校を含めた過去問演習に入り、遅くとも学校の冬休みが始まる頃までには、模試の偏差値や合格可能性判定にかかわらず、第一志望校の過去問演習に入る必要があります。過去問演習を進め、過去問を解いて見つかった補強ポイントをその場で学習していくスタンスがいいでしょう。
この学習スタンスは、冬休み明けからいわゆる「前受験」とされる中学校の受験が始まる近畿圏の中学受験生にも当てはまると思います。受験校の中学の「プレテスト」を受験しているのであれば、あらかじめ「プレテスト」の見直しや弱点補強を進めたうえで過去問演習を進めていきましょう。
他方、2月1日から入試開始となる東京都や神奈川県にある私立中学校を第一志望校とする場合、埼玉県にある私立中学校の入試と比べて20日以上日数があります。模試の合格可能性判定が60%以上であれば、冬休み開始の頃から過去問演習を進めてもいいと思います。しかし、模試の合格可能性判定が60%未満であれば、志望校合格に必要な6年生までの学習事項のなかで理解・定着が不十分な単元やテーマが残っていると考えられます。今までの受験をした模試やテスト問題を見直し、以前、得点率が低かった単元やテーマの問題を解き直して、弱点の補強を塾の冬期講習のテーマとすることをお勧めします。
前受験や午後入試の情報収集を
私立中学入試は入試日や入試の時間帯が異なれば、第一志望校以外の中学校を併願受験することが可能です。近年の中学受験では、「前受験」や「午後入試」という入試で複数の中学校を受験する受験生が多くなっています。
「前受験」について
「前受験」というのは、第一志望校の入試より前の時期に実施をされる入試を受験することです。「前受け」とも呼ばれたりしています。入学・通学の可能性の有無によって、「前受験」も大きく二つに区分されます。
ひとつは第一志望校の入試日より前に、自宅から通学可能な地域にある中学校を受験するものです。例えば、東京都在住の受験生で、第一志望校の入試日が2月3日の場合、2月1日と2月2日に入試を実施する中学校を「前受験」として併願をすることが可能です。他方、第一志望校の入試日が2月1日で、同日より前に東京都の私立中学の入試がない場合でも、【資料1】にもあるように、東京都と隣接県とで入試開始日(解禁日)が異なるため、毎日の通学に支障のない場所であれば、東京都内の中学校よりも入試日の早い埼玉県や千葉県にある中学校を「前受験」することも可能です。
このような「前受験」の学校選びのポイントは、①毎日の通学が可能な場所にあること、②この学校の合格によって、2月の受験負担が軽減されること(第一志望校のみの受験になる等)の2点です。例えば、立教新座中学校(埼玉県新座市)は立教大学の系列校ですが、同中学校の1月中の入試に合格をした後も受験を続ける受験生には、早稲田大学または慶應義塾大学の系列の中学校に受験校を絞るケースも多く見受けられます。
もうひとつの「前受験」は、志望校入試の前にリアルな「中学入試」を経験し、合格を勝ち取ることで志望校入試に弾みをつけるためとするものです。このような「前受験」の受験校としては、受験生の自宅から通学可能な地域外にある学生寮を併設した、首都圏や近畿圏以外の地域にある中学校も選ばれる傾向にあります。例えば、愛光中学校(愛媛県松山市)は男子学生寮を併設した、四国地方屈指の共学の進学校(女子は自宅または親類宅からの通学生のみ入学可)ですが、学校のある松山市以外に、東京都内や大阪市、福岡市でも1月前半(2024年は1月9日予定)に入試を実施していて、それぞれの地域の難関進学校を第一志望とする受験生の「前受験」校としても人気を集めています。
「前受験」のポイントとしては、①確実に「合格」が見込める学校を選ぶ、②第一志望校入試の疑似体験となる会場設定、の2点になります。
①については、上述した愛光中学校は四国・中国地方ではトップクラスの難易度(偏差値)のある入試であり、そのような難関校を「前受験」と考えることができるのは、開成中学校や灘中学校などの首都圏・近畿圏の最難関中学校の合格可能性が高い受験生に限られます。「前受験」の目的はリアルな入試を体験することと「合格」という成功体験を得ることです。最難関校志望ではない受験生は、「前受験」先として難関校にこだわる必要はなく、受験生ご自身の目的やニースにあった学校を選びましょう。
②については、第一志望校と同じ試験会場、または類似の試験会場での「入試」をあらかじめ経験することを意図したものです。首都圏外・近畿圏外の中学校の首都圏や近畿圏での入試は貸し会議場や貸しホールが会場とされる場合が多いのですが、大学のキャンパスや関係の深い中学校・高校の敷地内で入試を実施する中学校もあります。
例えば、佐久長聖中学校(長野県佐久市)は2024年入試(1月8日)の東京入試で慶應義塾大学三田キャンパス(東京都港区)で実施することを予定しています。慶應義塾大学系列の中学校のうち、同大学三田キャンパス近くにある慶應義塾中等部(同港区)の入試(一次試験:筆記試験)も同大学三田キャンパスで実施されているため、慶應中等部第一志望の受験生のなかには佐久長聖中の東京入試を「前受験」として活用する方も少なくありません。
他方、キリスト教カトリック系の女子校である盛岡白百合学園中学校(岩手県盛岡市)の2024年首都圏入試(1月7日)は、同校の姉妹校でもある白百合学園中学校や白百合学園小学校(ともに東京都千代田区)の敷地内で実施される予定です。白百合学園中学校志望の受験生はもちろん、雙葉中学校(同千代田区)や浦和明の星女子中学校(埼玉県さいたま市)などのカトリック系の女子校を志望校とされる受験生にとっては、同じ雰囲気の校舎、女子だけの受験生での「受験」を事前体験するメリットは大きいと思います。
「午後入試」について
「午後入試」とは、お昼過ぎの午後の時間帯に実施される中学入試のことです。旧来からの中学入試は午前中からお昼にかけて入試を実施するのが一般的です。今では「午前入試」とも呼ばれるようになりましたが、そのような「午前入試」の終了後の時間帯に実施される入試が「午後入試」です。
「午後入試」のポイントとしては、①入試科目が算数と国語(または算数のみ)のところが多い、②同じ中学校であれば「午前入試」のほうが合格しやすい傾向にある、③受験チャンスが増えるメリットと心身の疲労のリスクを慎重に考える、の3点があります。
これらのポイントから、4科目(国算理社)または3科目(国算理)の受験勉強を進めてきた受験生と2科目(国算)に絞って受験勉強を進めてきた受験生とで、「午後入試」の考え方が異なってくると思います。4科目・3科目の受験勉強を進めてきた受験生は、「午前入試」の学校では4科目・3科目の入試を受験する前提だと思います。今まで、4科目や3科目で受験をしてきた模試やプレテスト直後の受験生ご本人の体調を見て、受験会場への移動もあわせて、その2・3時間後に「午後入試」で実力を発揮できる体調にあるか、翌日にも「午前入試」を控える場合、翌日の入試までに体調を整えることが可能か、慎重な検討が必要です。
他方、2科目の受験勉強を進めた受験生にとっては、「午前入試」は4科目・3科目の受験生よりも入試時間は短く、「午前入試」・「午後入試」の中学校が自宅から近いのであれば、「午前入試」後にいったん帰宅をして、食事や休息をとってから「午後入試」に向かうことも可能です。そのため、4科目・3科目の受験生より、2科目受験生は「午後入試」を無理なく活用しやすいとも言えます。もっとも、2科目入試であっても、入試本番ということもあり、模試やプレテストでは経験をしなかったような緊張や疲労を感じるかもしれません。自宅からの学校や入試会場への所要時間や交通アクセス、入試難易度や問題傾向などを確認して、無理のない範囲で「午後入試」という選択肢を検討してください。
早寝早起き・朝学習の習慣を
「戦略編その2」でも述べましたが、中学入試は「午前入試」が中心となります。「午前入試」は午前8時台または午前9時台に入試が開始されるのが一般的です。午前8時台・9時台から実力が100%発揮できるように準備を進めることが大切です。そこで重要になるのが早寝早起きの習慣です。
大脳生理学において、脳を活発に働かせるためには、起床から3時間から4時間必要であるとされています。例えば、午前9時に入試開始だとすると、遅くとも午前6時に起床をしていないと脳は活発に働くことはできない、ということになります。冬の寒い早朝、早起きはつらい季節にはなりますが、受験が終わるまでの辛抱、できれば、午前5時台には起床をしておきたいものです。もちろん、睡眠時間は充分に確保してください。できれば午後9時台には、遅くとも午後10時には就寝できるように、塾を含めた、夜の学習計画を考えていきましょう。
早起きとともに重要になるのが「朝学習」です。起床をした午前5時台から朝食や(平日)小学校へ行く準備をする午前7時台までの2時間ほどの時間帯に進める「朝学習」をどのように進めるかを考えていきましょう。
「朝学習」の時間帯は約2時間と述べましたが、「朝学習」は2時間みっちりと勉強をしなければならない、というものではありません。入試直前期の「朝学習」の目的は、脳の活性化を促進することと入試への実戦力を養うことの2点です。脳の活性化のためには脳が疲れない程度の、思考力を"適度に"使う問題を使うこと。入試への実戦力強化のためには入試同様、制限時間内に解き進める練習を進めること。これら2点を踏まえた素材を「朝学習」で使います。
【資料2 入試直前期の朝学習 具体例】
5:15 起床
5:15~5:30 着替え 軽い飲食
5:30~5:45 算数一行問題(制限時間設定あり)
5:45~6:00 算数問題答え合わせと間違えた問題の類題練習
6:00~6:10 休憩
6:10~6:25 国語記述問題(制限時間設定あり)
6:30~6:45 ラジオ体操(軽い飲食)
6:45~7:00 理科計算問題練習(制限時間設定あり)
7:00~7:15 理科問題答え合わせと間違えた問題の類題練習
7:15 朝学習終了
【資料2】に「朝学習」の具体例を示してみました。算数、国語、理科、いずれも15分間の制限時間を設定した問題演習を進めたうえで、算数と理科は答え合わせと類題演習の時間を設けています。
「朝学習」で使用する具体的な教材ですが、第一志望校よりも難易度が易しいとされる、受験予定のない中学校の過去問題集のなかから、第一志望校の入試傾向やカテゴリーが近いところの過去問を選ばれるといいと思います。ここでいう「カテゴリー」とは、例えば、同志社大学系列の中学校を第一志望校とした際、"関関同立"と称される、関西地方の難関私立大学の系列中学校の中で、同志社大学系列以外の、関西大学・関西学院大学・立命館大学の系列中学校のように、「早慶」、「MARCH」、「関関同立」など、志望校や志望校の系列大学が称されているグループのことです。特にグループ名称がない場合は、例えば、カトリック系の男子進学校を第一志望校とする場合、首都圏の場合は暁星中学校(東京都千代田区)、サレジオ学院中学校(神奈川県川崎市)など、近畿圏の場合は明星中学校(大阪市)、六甲学院中学校(神戸市)、淳心学院中学校(兵庫県姫路市)など、「カトリック系男子校」という志望校と同じカテゴリーに当てはまる中学校入試の過去問から問題を選んでもいいでしょう。
「朝学習」は一日の良いスタート、ひいては入試のための脳の活性化を目的とするため、難しい問題に取り掛かる必要はありません。算数であれば入試問題の前半によく出題される計算問題や一行問題、国語であれば字数制限(40字~100字)のある記述問題一問、理科であれば化学分野や物理分野でよく出題される、計算が必要な問題を事前にセレクトして、15分間という制限時間で「はやく」、「正確に」解く実戦力を養うことを意識してもらいたいと思います。
ランダム出題に慣れていく
フリーステップのみで学習をしてきた方も、集団塾でも学習をしてきた方も、今までの中学受験の学習では、授業ごとに学習をする単元やテーマを決めて学習を進めてきたと思います。テストや模試も、その時期に学習をした単元やテーマを中心とした出題となっていたはずです。しかし、中学入試の問題は、今までに学習をしてきた単元やテーマの全範囲のなかから"ランダム"に出題されることが一般的です。単元やテーマの範囲が決まったテストでは得点ができても、過去に学習をした単元やテーマも含めて"ランダム"に出題をされると思うような得点がとれない受験生も珍しくはありません。冬期の受験勉強では、過去問を含めた"ランダム出題"の問題に慣れていくことも重要なテーマとなります。
"ランダム出題"対策に最適な問題集は志望校の過去問題集です。しかし、志望校の過去問だけでは数が足りない可能性もあります。その場合は「勉強法編その1」でも述べたような、志望校と類似をするカテゴリーの中学校から、志望校の出題形式や傾向が似ているところの過去問も組み合わせていくといいでしょう。
具体的な学習方法ですが、過去問全問を制限時間内に解く、というシンプルなものです。ポイントとしては、
- 解答用紙を原寸大にコピーしてそれに解答を書く
- 解けなかったり、間違えたりした問題の解きなおしや単元・テーマの再学習は当日中に進める
- 平日は算数のみ、理科のみなど、1科目のみで可能
- 土日や学校休み期間など、午前中に時間がとれる日は、午前中から入試全科目を通して解く
の4点です。入試直前期になりますので、解答用紙の原寸大コピーを使ったり、午前中から学習できる日には入試全科目を解くなど、入試本番のシュミレーション体験であることも意識しましょう。また、このランダム学習によって、忘れかけていた単元・テーマや入試に出題されやすい単元・テーマを洗い出して、効率的に復習や補強を進めることが可能です。
ランダム学習に使う過去問を使う順番ですが、最初に第一志望校の過去問の最新ではないものを2回分、その次に志望順位の下位または受験をしない中学校の過去問、次第に志望順位が上位の学校となっていき、入試の1週間前には第一志望校または第一志望の準じた中学校の過去問という順番をお勧めいたします。いきなり第一志望校の過去問に取り掛かる理由は、第一志望校の入試傾向や合格に必要な課題を最初に把握しておくことで、これからの受験勉強のテーマや強化ポイントを明確にできること、入試直前期に取り組む第一志望校の過去問の目標得点が設定しやすくなり、目的意識を持った受験勉強を進めることができること、です。
受験直前期は受験生個々の志望校入試に合わせた学習と心身の調整が重要になります。今まで述べてきた朝学習や過去問演習、ランダム学習を取り入れながら、志望校合格を勝ち取りましょう!
<文/開成教育グループ フリーステップ修学院教室チーフ 住本正之>