2024/04/01

関東関西有名中学入試分析【神奈川県の私立中学校 大きく変わった学校】

個別指導学院フリーステップは2024年1月、神奈川県に初めて教室を開校しました(鹿島田教室〔川崎市幸区〕、大倉山教室〔横浜市港北区〕、鶴見教室〔横浜市鶴見区〕、中川教室〔横浜市都筑区〕)。今回は神奈川県の私立中学校のなかで、ここ20年から30年の間で大きく変化した中学校を、男子校(から共学校に変わった学校)、女子校、それぞれからピックアップをして述べていきたいと思います。神奈川県在住の方はもちろん、他都府県在住の方も、初めての中学受験の方は受験校・併願校選びの参考となれば幸いです。

その前にまずは、神奈川県の中学受験事情を簡単にお話したいと思います。

 

神奈川県の中学受験事情...東京と同じ入試開始日 私鉄沿線での違い 交通アクセス変遷により変化した中学校も

 神奈川県の中学受験のポイントとして、①東京と同じ入試開始日(2月1日)、②私鉄沿線での中学受験熱の違い、③交通アクセスの変遷により大きく変化した中学校、の3点を挙げることができます。

① 神奈川県の私立中学校の一般入試開始日は、東京都の私立中学校と同様に毎年2月1日です。東京都と隣接している埼玉県や千葉県は1月中から入試を実施していますが、神奈川県下のほとんどの私立中学校が2月1日から5日の5日間のなかで入試を実施しています。東京と同様に、神奈川県にある中学校を志望校とする受験生は入試日程の早い埼玉県や千葉県などの中学校を「前受け」として受験することが可能です。

② 東京都と隣接をしている神奈川県はJR・私鉄とも東京都内と直通運行をしている鉄道路線が数多くあります。私鉄の場合、南から京急、東急、小田急、京王(一部地域のみですが)、の各社になります。

個人的経験も踏まえた話にはなりますが、神奈川県内で運行されているJR・私鉄沿線のなかで、特に東急(東横線・田園都市線など)沿線では私立中学志向が強いと感じます。東急沿線のなかで、戦前から東京(渋谷)と横浜を結んでいる東横線は昔からの高級住宅地(東京都渋谷区〔代官山など〕、目黒区〔自由が丘、碑文谷など〕、大田区〔田園調布駅周辺〕、横浜市港北区〔慶應義塾大学のキャンパスもある日吉など〕)が沿線となっており、また昭和40年代以降に整備・延伸がされた田園都市線の沿線には新興住宅地も整備され、渋谷や二子玉川、たまプラーザなどのおしゃれなイメージの店舗が集まる繁華街も沿線にあるなど、所得層が高く、子どもの教育に熱心で、中学受験志向の高い家庭が集まりやすい住宅街となっていきました。

現在では廃止されましたが、神奈川県内の公立高校入試ではかつて、中学2年生時の内申書成績と中2の3学期に実技教科を合わせて実施されたアチーブメントテストの点数と合わせて、高校入試の4割から5割の点数が2年生時に決まる仕組みとなっていました。この「神奈川方式」と呼ばれた公立高校入試制度や細分化された学区制度(1990年~2004年は18学区制)による高校選択の幅の狭さもあって、特に学力上位層の公立高校離れ、ひいては公立中学校離れを加速させました。また、旧制中学校を前身とする評価の高い公立進学校が比較的県南部に集中していた(湘南高校〔藤沢市〕、横浜翠嵐高校〔横浜市神奈川区〕、横須賀高校〔横須賀市〕、小田原高校〔小田原市〕など)こともあり、東急のなかでも田園都市線沿線から通うことができる公立進学校の数が少なかったため、私立中学志向がより高まり、それは学区制廃止など公立高校入試が変革された今でも続いています。

③ ②において鉄道沿線と中学受験熱の話をしましたが、JR・私鉄とも、近年、神奈川県内と東京都、路線によっては埼玉県や千葉県との鉄道交通アクセスが著しく整備され、東京や埼玉などの他都県在住の中学受験生が神奈川県の中学校を受験し進学すること、逆に、神奈川県在住の中学受験が東京や埼玉、千葉などの他都県の中学校を受験し進学すること、双方が増えてきました。JRでは湘南新宿ライン(埼玉県や東京都内のうち山手線西方向の地域〔池袋、新宿、渋谷およびその周辺〕と川崎市、横浜市および横浜市以西〔藤沢市、小田原市など〕、以南〔鎌倉市、横須賀市など〕を結ぶ路線の総称)、上野東京ライン(埼玉県や栃木県と東京都内のうち山手線東方向〔台東区上野、東京駅、港区、品川区など〕、および神奈川県〔湘南新宿ラインとほぼ同じ地域〕を結ぶ路線の総称〕)の整備により、私鉄や地下鉄(東京メトロ・東京都営地下鉄)の場合は東急東横線(横浜みなとみらい線)と東京メトロ副都心線、西武池袋線、東武東上線との直通運転、東急田園都市線と東京メトロ半蔵門線、東武伊勢崎線などとの直通運転、京急線と都営地下鉄浅草線、京成線などとの直通運転、小田急線と東京メトロ千代田線などとの直通運転等があります。特にJRの湘南新宿ライン、上野東京ラインの整備・直通運転化は難関校(難関大学)志向の中学受験生の動向には大きく影響を与えています。神奈川県に関連した事象においては、男子の場合は毎年2月2日に入試を実施する栄光学園中(鎌倉市)や聖光学院中(横浜市中区)を志望校とする受験生が1日に開成中(荒川区)をチャレンジしたり、併願校として海城中や早稲田中(ともに新宿区)などを検討したりなど、JR線からのアクセスのいい東京都内の中学校を受験校として考えるケースが増えてきました。逆に東京や埼玉、千葉から、聖光学院中や浅野中(横浜市神奈川区)を受験する男子受験生も増えてきました。女子の場合、旧来であればフェリス女学院中(横浜市中区)に神奈川県内(特に横浜市内)の難関大学や医学部受験志向の女子中学受験生のトップ学力層が集中していたのですが、桜蔭中(文京区)、女子学院中(千代田区)、豊島岡女子中(豊島区)、渋谷教育学園渋谷中(渋谷区)などの東京都内にある進学校として評価の高い女子校、共学校を選ぶ女子受験生も増えてきました。

今まで述べてきた3つのポイントを踏まえて、神奈川県内にある私立中学校のなかで、受験生の保護者の皆さまの多くが小学生や中学生だった20年から30年前と比べて、男子校(から共学校)、女子校それぞれのなかで、大きく変化した学校について、これから述べていきたいと思います。

 神奈川の私立中学 変わった男子校...法政大学第二中学校(現在は共学校)

 神奈川県内にある男子中学校のなかで、栄光学園中、聖光学院中、浅野中、慶應義塾普通部(横浜市港北区)などの歴史のある伝統校は、時代の変遷に合わせながらも、昔も今も、教育方針や生徒の気質、大学進学志向など、大きく変わらないままのところが多いと感じています。強いて言えば、聖光学院の東大をはじめとする難関大学進学実績が近年好調で、以前は東大合格者数で栄光学園のほうが多かったのが、近年では聖光学院のほうが多い傾向が続いています。校風や生徒気質が変わらない神奈川県内の男子中学校のなかで、20年~30年前と大きく変化した学校として法政大学第二中(川崎市中原区)をあげることができます。

 法政大学第二中(以下法政二中)は名前の通り、法政大学直属の附属校であり、法政二中と一貫教育を進めている法政二高の卒業生の大半(例年約9割)が法政大に進学します。法政大といえば、いわゆるMARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)の一角の有名かつ人気のある私立大学であり、かつては男子学生数が極めて多いバンカラ(黒色の詰め襟の学生服の学生や応援団のイメージ)な大学と思われてきました。また大学野球「東京六大学野球」の加盟校(他の加盟校は東大、早稲田大、慶應義塾大、明治大、立教大)でもあり、野球好きな方や年配の方にはMARCHの法政というよりは六大学の法政というほうがわかりやすいかもしれません。野球以外にも様々な学生スポーツで、法政大は常に全国トップレベルの実績を出し、野球をはじめ、様々な競技で多くのプロ選手やオリンピックアスリートを輩出する、スポーツに強い大学というイメージも法政大にはあります。

 法政二中・二高は1939年の創立以来、男子校であり続けました。法政大同様にバンカラな校風でスポーツも強い(野球で甲子園優勝経験あり。他にもバレーボールやバスケットボール、アメフトなども強豪)男子校でしたが、2016年に中学・高校ともに男女共学化に踏みきりました。男女共学化の理由としては社会の男女それぞれに対する価値観の多様性とその尊重ももちろんありますが、母体である法政大が大学改革や学部新設、法政大OGの社会での活躍などにより、女子受験生そして女子入学生が急増し、中学・高校に対しても女子受験生のニーズに応えたい、早期から法政大を志望する意欲的な受験生を入学させたいという意図があったのではと思われます。

 21世紀になってからの有名大学の附属男子校の共学化は法政二中以外にも数多くあり、東京都三鷹市にある法政大学中(かつては法政大学第一中の名称)が2007年に、明治大学附属明治中(東京都調布市)が2008年に、西日本では同志社香里中(大阪府寝屋川市)が2002年に、関西学院中(兵庫県西宮市)が2012年に、それぞれ男子校から男女共学校となりました。

神奈川の私立中学 変わった女子校...フェリス女学院中学校と洗足学園中学校

神奈川県内には2024年現在、20校の私立女子中学校があります。法政二中が男子校から共学校になったのと同様に、以前は女子校であったのが共学校となった中学校も神奈川県内にいくつもあります。そのなかで女子校のままである私立中学校のなかで、変化が目立っていると感じるのは(交通アクセスの変化の際に言及をした)フェリス女学院中と洗足学園中(川崎市高津区)です。

 フェリス女学院中(以下フェリス)については、キリスト教(プロテスタント)に基づく教育理念や教育内容、人気の高い夏・冬のセーラー服の制服は変わっていません。"For Others(他人のために)"の教育理念に基づく教育活動は奉仕(ボランティア)活動や奉仕週間、毎朝の礼拝など、守られつつ、時代に合わせて深化をしていると思います。では、フェリスの何が変わったかというと、交通アクセスの変遷の記述でも述べた、フェリスの受験層そして入学者層にあると考えています。

 東京への交通アクセスの変遷や速達化、利便性の向上が進む前、そして、(これも先に述べた)神奈川県内の公立高校入試制度に特に学力の高い家庭が不満を多く持っていた時期においては、フェリスは同校の教育理念やそれに基づく教育活動、キリスト教プロテスタント主義に応じた自由かつリベラルな校風に憧れて受験をした受験生もいれば、神奈川県内最難関の女子校であること、東大や医学部への合格者数の多さを重視して受験をした受験生も少なからずいたのではないでしょうか。このような傾向は各地域で最難関とされている女子中学校ではフェリス以外でも生じていることで、東京都にある桜蔭中、愛知県(名古屋市昭和区)にある南山中女子部、兵庫県(西宮市)にある神戸女学院中などでも、学校の先生方などから聞かれる事象です。

それが、東京への交通アクセスの変遷が進み、大学進学実績や偏差値を重視する神奈川県内の女子受験生がフェリス以外の進学校を受験することが増え、他方フェリスには、フェリスの教育方針に共感したり、母親、祖母、姉などの近親者がフェリスOGまたは在校生であったり、セーラー服や(文化祭〔フェリス祭〕などを通じて見た)在校生に憧れたりなど、純粋にフェリスを熱望する受験生の割合がより増したのではと考えることができます。近年では神奈川県内の女子校で、東大合格者数や中学受験向けの模試の偏差値でフェリスを上回る数値となっている学校も現れるようになりましたが、それはむしろ、フェリス生が偏差値や数値にとらわれず多種多様な進路を選ぶことができるとも言えるのではないでしょうか(ちなみにフェリス女学院中・高の併設校としてフェリス女学院大学があり、同大学への同じ学校法人内での推薦入学制度がありますが、フェリス女学院中・高から同大学に進学する人は皆無な年もあれば、いる場合でも近年では1~2名程度とのことです)。

進路の多様化が進んだフェリスとは異なり、近年、東大や早稲田大、慶應義塾大などの難関大学、医学部(医学科)への合格者数が急増し(2023年度の東大合格者数は現役・浪人合わせて22名)、進学校化が進んだ神奈川県内の女子校として洗足学園中(以下洗足)を挙げることができます。

洗足(中高)を運営している学校法人洗足学園は、幼稚園、小学校、中学・高校、そして音楽大学と(幼児教育系)こども短大からなる総合学園です(中・高は女子校、それ以外は共学校)。洗足の前身校は学園創立者である前田若尾女史が設立した裁縫女学校です。裁縫や家政を教えた女学校を前身とする女子中学校・高校は神奈川県のみならず全国に数多くありますが、洗足が大学合格実績を飛躍的に伸ばした進学校となったのには様々な要因があります。

要因その1:交通アクセスの良さ・整備

洗足の最寄り駅はJR南武線の武蔵溝ノ口駅および東急大井町線・田園都市線の溝の口駅です。同校は元々東京都目黒区洗足にあった女学校でしたが、1947年に洗足の地に女子中学校を開校し、翌1948年に現在校舎のある川崎市に女子高校を開校しました。その後、洗足の地にも高校を、川崎の地にも中学校を開校し、2つの女子中学・高校を運営していました。その後洗足学園は音大や短大を併設する一方で、都内洗足の地にあった中高を閉校し、川崎市高津区のキャンパスに幼稚園から大学までを運営しています。東急溝の口駅は先述をした中学受験熱の高い田園都市線沿線であり、また田園都市線は東京都内から地下鉄線が直通運転をしており、大井町線は都内でも中学受験熱の高い目黒区や世田谷区(南部)を通る線です。他方、JR武蔵溝ノ口駅は同駅自体は南武線のみの駅ですが、川崎(駅)方向に3つ目にある武蔵小杉駅で東急東横線・目黒線やJR横須賀線・湘南新宿ラインとの乗り換えが可能であり、同駅で横須賀線・湘南新宿ラインとの乗り換えが可能となった2011年の中学入試以降、洗足にはそれまでは受験生が少なかった横須賀線や東海道線沿線および湘南新宿ライン沿線のなかでも渋谷(区)以北の都内23区からの受験生や入学者も増えてきました。

 要因その2:6年間数学必修のカリキュラム

 首都圏にある女子校の場合、首都圏に数多くある有名私立大学の文系学部志望者が多いため、私立大文系学部入試では必須科目とならないケースが多い数学について、高2もしくは高3では授業必修科目としていない(選択科目としている)ことが多いのですが、洗足は今から10年ほど前から、高3まで全員数学を必修科目とするカリキュラムを組んでいます。また、文系であっても理科系科目を、理系であっても地歴公民系科目を履修することを義務づけています。

 要因その3:帰国生の存在と帰国生教育ノウハウの蓄積

 洗足は他の女子校に先駆けて帰国生入試を実施し、帰国子女の受験生を積極的に受け入れてきました。帰国生の高い英語力をさらに鍛え、他方、帰国生が苦手とする国語や数学においては補習などのフォローアップ体制を整え、海外大学・国内大学それぞれ、生徒が希望する進路に向けてきめ細かな指導を進めてきました。その帰国生と一般入試合格者、併設小学校からの内部進学者それぞれが刺激を受け、個性を認めながら切磋琢磨できる環境になっているとのことです。

 要因その4:第一志望の受験生、他校との併願受験生、それぞれが受験しやすい入試

 2024年度、洗足は2月1日、2日、5日の3回、一般入試を実施しました(帰国生入試は1月13日)。ちなみに先述のフェリスは2月1日の1回のみの入試でした。募集人数はそれぞれ、2月1日は80名、2日は100名、5日は40名です。2月1日が入試初日の場合、どの中学校も第一志望者のほとんどは1日の入試を受験します。洗足の場合、洗足が第一志望の受験生は1日、2日、5日の3回とも出願するケースがほとんどだと思われます。ちなみに洗足では、複数回受験した受験生の場合、繰り上げ合格(補欠合格)の判定の際、国語・算数・理科・社会それぞれの、受験した中での最高得点を合計して判定の点数とするという優遇制度を実施しています。

他方、1日は他校(第一志望校)を受験し、2日または5日に(第一志望校および洗足以外の併願校の受験や合否発表を踏まえながら)洗足を併願受験する受験生も少なくありません。洗足を併願校とする場合、2月1日の第一志望校は神奈川県内だとフェリス、東京都内だと桜蔭、女子学院、渋谷教育学園渋谷など、いずれも入試難易度の高い学校を志望する受験生が多くなります。学力の高い併願受験生への配慮もあってか、洗足は併願受験生が多く集まる2日の入試で募集人数を最大にしています。

 今回は神奈川県の私立中学校に的を絞って、変化した男子校・女子校について述べてきました。今回取り上げた法政二中や洗足学園中以外にも、神奈川県の私立中学校のなかには(校名変更や共学化、校舎や制服の変更、大学合格実績などの数値面での変化など)目に見えやすい変革や改革を実施している学校、他方、フェリス女学院中のように、外面的な変化は目立たない、むしろ長年かけてつくりあげてきた校風や伝統を守りつつも、教育内容や教育設備などは時代に合わせてアップデートしている学校もあります。志望校がすでに決まっているご家庭はもちろん、これから受験をする中学校を見定めていくご家庭においても、興味がある中学校を調べ、オープンスクールや文化祭などの学校公開行事に参加し、様々な学校を実体験してみてください。

<文/開成教育グループ フリーステップ修学院教室チーフ 住本正之>