2024/05/07

関東関西有名中学入試分析【関西圏人気中学最新入試問題からわかる中学受験社会の勉強法】

中学受験を考えているみなさん、勉強ははかどっていますか?受験科目が国語・算数の2科目の方、国語・算数・理科(または社会)の3科目の方、国語・算数・理科・社会の4科目の方、それぞれの受験に必要な科目の学習を進めているかと思います。国語と算数はほとんどの中学校で必須の受験科目であり、塾なども使われて勉強を進めている方が多数ではないでしょうか。他方、社会に関しては、志望校の入試に必要な科目である場合でも、国語や算数の学習を優先する、または国算の学習におわれてしまい、十分な学習時間が確保できてない方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 「社会は暗記中心だから、後々から学習を進めても何とかなる」と考え、社会の受験勉強を後手にしてもいいと考える受験生や保護者の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、中学入試の社会の範囲はとても広くかつ深く、他科目の学習も必要ななか、1~2ヶ月の短期間だけの学習で高得点をとれるほど甘いものではありません。むしろ、体系的な学習理解とそれから身につけていく(暗記も含めた)知識学習がポイントとなる社会科の特性を踏まえたうえでの中長期的な学習が、他科目の受験勉強とのバランスのうえでも極めて重要になります。

 今回は中学受験の社会の学習ポイントについて、関西圏にある人気私立中学校で今年1月に実施された最新の入試問題を分析しながら説明していきたいと思います。

なお、ここで記述をする社会の学習ポイントについては高校入試における社会の受験勉強が必要な中学生にも当てはまるところが多いはずです。中学入試と高校入試の社会では、地理分野でも歴史分野でも、高校入試の社会のほうが世界各地に関する範囲が多くなるなど学習内容や範囲の相違もありますが、これから述べる学習ポイントや学習法については共通するところや参考となるところが多いと考えます。社会学習に悩んでいる、高校受験を控えた中学生の参考にもなれば幸いです。

社会学習ポイント基本編 教科書やテキストを読み進めながら、基本用語をしっかりと押さえる

 「社会の学習はどのように進めていけばいいですか?」この質問に対して、私は「まずは教科書やテキスト、学習まんがを読み進める」ことを第一にあげます。中学入試の試験範囲は基本的には小学校で学習する内容が中心となります。現実には難関とされる中学校を中心に、小学校の教科書や授業では触れないような、ややもすればマニアックにも思われる細かな理解や知識がないと解けない出題がされているケースもあります。しかし、どの中学校でも社会の出題内容は小学校の教科書に記載された内容が軸となります。

近年の小学校の教科書は小学生でも読みやすいように、挿絵やまんが、色づかいなどに工夫が凝らされており、教科書や授業など、小学校での社会科学習は中学受験社会の受験勉強においても役立つものとなっています。教科書の通読が終わり、中学受験レベルの社会学習をより積極的に進めたい場合は塾に通われている場合は塾のテキストを、塾に通われていない場合は市販されている中学受験用のテキスト型の参考書を読み進めていくといいでしょう。中学受験勉強を開始したばかりで、いきなり活字中心の教科書やテキストを読み進めるのが苦手な場合は、小学校の図書室や公共の図書館の子どもコーナーで、「まんが日本史」や「まんがでみる都道府県」などのようなタイトルの学習まんがを見つけて、借りて、読んでいくといいでしょう。学習まんがを読んだ後で改めて教科書やテキストを読んでみると、理解度もかなり違ってくるはずですし、活字での説明も読みやすくなるはずです。

教科書、テキスト、学習まんがいずれも、最初はノートをとったり、重要な用語を書いて暗記するなどの作業は進めなくても構いません。まずは流し読みでも構いません。大まかな流れ、内容をつかむこと、そのなかでどのような用語が出てきたと感じることぐらいのリラックスした読み方で構いません。その意味では、算数や国語など、思考力を使った勉強のすきま時間を使ったリフレッシュタイムの感覚で、社会に関するテキストや学習まんがを読んでいくことがポイントです。

教科書、テキスト、学習まんがを読んだだけで、中学受験の社会対策はOK!ではもちろんありません。教科書やテキストに載っている重要な用語を理解し記憶していく必要があります。

中学受験における社会は地理分野、歴史分野、公民分野、国際・環境分野の大きく4つの分野から成り立ちますが、社会学習の最初は地理分野からスタートし、次第に歴史分野に入っていき、地理分野・歴史分野の学習が進んでから、公民分野や国際・環境分野に入っていくのが一般的です。地理分野、歴史分野とも幅広く学習をしていくことが必要ですが、用語学習の初歩においては地理分野は都道府県、歴史分野は人物名を軸として学習を進めるといいでしょう。

【資料1】

前期:広島県(原爆ドーム、2023年先進国首脳会議)、北海道(十勝地方、根室市)、岐阜県(輪中地帯)、福岡県(北九州工業地帯、久留米市)、福井県(鯖江市)

後期:青森県、福井県、奈良県、大分県の形

【資料2】

前期:東郷平八郎(日露戦争・日本海海戦)、小村寿太郎(関税自主権回復・日露戦争時の外相)、北条政子(尼将軍)、紫式部(源氏物語)、近松門左衛門(人形浄瑠璃)

後期:卑弥呼(邪馬台国)、鑑真(遣唐使)、本居宣長(古事記伝)、中大兄皇子(大化の改新・天智天皇)、平塚らいてう〔雷鳥〕(「もともと、女性は太陽であった」)、平清盛(武士初の太政大臣)、足利義政(応仁の乱)、徳川家康(関ヶ原の戦い)

【資料1・2】にあげたのは2024年に実施された近畿大学附属中学校(大阪府東大阪市:以下、近大附属中)の社会入試問題で出題された都道府県【資料1】や歴史上の人物名【資料2】の一覧です。近大附属中は名前の通り近畿大学の附属校であり、近大附属中と一貫教育を行っている近大附属高校からは毎年卒業生の6割から7割が近畿大学に進学をしています。近大附属中は今年、前期日程(1月13日)と後期日程(1月15日)の2回入試を実施しました。小学校の教科書や中学受験用の標準的なテキストを学習すれば合格点が十分に狙える作問となっています。

 地理分野においては(【資料1】参照)、前期日程では()内にあるキーワードが含まれた各都道府県の特色が書かれた文章をもとに、該当する当道府県名を漢字で答えさせる問題が出題されました。後期日程では奈良県、福井県、青森県、大分県の地形図から、それぞれの県名を選ばせる問題が出題されました。中学入試の社会の地理分野は日本地理が中心の出題になります。日本地理の中で基本単位になる47都道府県名をしっかりと覚え、各都道府県の位置、地形図、各都道府県庁のある都市名(特に都道府県名と市名が異なる場合)、各都道府県の産業や地形の特徴など、キーワードとなるものを覚えていきましょう。

 以下の【資料3】に示したのは北陸地方4県に関する、中学入試社会で問われることが多いキーワードを記したものです。今年は能登半島地震が元日に起き、3月16日に北陸新幹線が福井県敦賀市まで延伸されました。そのようなこともあり、例年に比べて北陸地方が注目されています。

【資料3】

福井県:北陸新幹線敦賀延伸、鯖江市(めがね)、若狭湾(リアス式海岸、原子力発電所)

石川県:能登半島(地震)、金沢市(加賀藩、兼六園)、加賀友禅、輪島塗、九谷焼

富山県:五箇山(合掌造)、神通川(イタイイタイ病)、米騒動

新潟県:信濃川(河口)、越後平野(米どころ)、燕市、三条市(金属食器)、佐渡島(トキ)、豪雪地帯

 他方、【資料2】で示したように、近大附属中の入試では前期日程、後期日程いずれにおいても、歴史上の人物に関する説明文を読んで、その人物名を漢字で答えさせる問題が出題されました。東郷平八郎は細かいかもしれませんが、いずれの人物も教科書や中学受験用のテキスト、参考書には記載されている人物です。ちなみに北条政子と紫式部と平塚らいてう、東郷平八郎と小村寿太郎については同志社香里中学校(大阪府寝屋川市)でも【資料4】にあるような問題が出題されました。中学受験のレベルでは乃木希典(日露戦争時の日本陸軍の指揮官)は細かい知識ですが、与謝野晶子(日露戦争時に「君死にたまうことなかれ」の詩をよむ)と陸奥宗光(領事裁判権撤廃・日清戦争時の外相)はともに入試にも頻出している歴史上の人物です。

【資料4】 同志社香里中2024年前期 社会入試問題より抜粋、一部改変

・「尼」とは女性の僧のことだが、「尼将軍」として有名な歴史上の人物を下より選びなさい。

 あ.紫式部 い.北条政子 う.平塚らいてう え.与謝野晶子 (正解:い)

・日露戦争の指導者としてあてはまらない人物を下より選びなさい。

 あ.陸奥宗光 い.乃木希典 う.東郷平八郎 え.小村寿太郎 (正解:あ)

 中学受験の歴史分野は時代区分(縄文時代、弥生時代、飛鳥時代、奈良時代など)で学習をしていきますが、各時代の特色や政治、経済、社会などの流れや仕組みを学習したら、まずは教科書に太字で示される歴史上の人物の名前(漢字)とどのようなことをした人物かを、人物名が出る都度確認をしていきましょう。人名は漢字で、ノートや紙に何回も書いて覚えていきましょう。

社会学習ポイント発展編 時事やトレンドに対するアンテナを持とう

【資料5】 同志社香里中2024年前期および後期 社会入試問題より抜粋、一部改変・割愛

・前期入試より 「今年の7月からの新しいお札には、一万円札は《A》、五千円札は《B》、千円札は《C》になるんだ」とあるが、ABCの中に入る人名を書きなさい。(正解 A:渋沢栄一 B:津田梅子 C:北里柴三郎)

・後期入試より 「イギリスでは、〔 X 〕3世の戴冠式が首都ロンドンのウェストミンスター寺院でおこなわれました。戴冠式が行われるのは、1953年の〔 Y 〕2世以来、70年ぶりです。」とあるが、〔 X 〕・〔 Y 〕にあてはまる人名をカタカナで書きなさい。(正解 X:チャールズ Y:エリザベス)

 【資料5】も同志社香里中の今年の入試問題からの抜粋です。同志社香里中は同志社大学・同志社女子大学との一貫教育校で、例年、併設の同志社香里高の卒業生の9割強が同志社大(または同志社女子大)に進学しています。近大附属中同様、同志社香里中の社会入試問題も教科書や中学受験用の標準的なテキストに記載されている事項や用語中心の出題ですが、【資料5】のように今年や昨年のできごとに関連した時事問題も出題されています。

 新紙幣の人物については発表された2019年以降(中学入試としては2020年実施分以降)、多くの中学校の入試問題で取り上げられることが多くなりました。特に渋沢栄一に関しては2021年にNHKの大河ドラマ「青天を衝け」で渋沢栄一が主人公となったこともあり、入試出題頻度も高くなりました。NHKの大河ドラマというと、2022年に平安時代末期から鎌倉時代初期を取り扱った「鎌倉殿の13人」の影響か、特に北条政子が多くの中学校で出題されているように感じます。今回取り扱う近大附属中、同志社香里中、この後に取り扱う西大和学園中(奈良県河合町)の3校とも、尼将軍北条政子を答えさせる問題が出題されました。

 イギリスの国王交代(エリザベス2世の崩御→チャールズ3世の即位)は新聞やテレビ、インターネットのニュースにより知った方が多いと思います。今年は5月に台湾で総統が交代(蔡英文氏→頼清徳氏)し、11月にアメリカ大統領選挙が実施される予定です。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどの主要先進国及び中国や韓国、北朝鮮などの日本の近隣諸国の政治指導者の名前や顔写真、交代の有無などもチェックをしておくといいでしょう。

社会学習ポイント記述論述問題編 体系的知識を掘り起こしつつ、説明の根拠を意識しながら書く

【資料6】 西大和学園中 2024年社会入試問題より抜粋、一部改変・割愛

  • 日本はこの金属製品(筆者注:アルミニウム)について、かつては国内供給量の100%を自給する国でしたが、現在ではすべての地金を輸入しています。この金属製品の国内生産が衰退した理由を図(1955年以降国内精錬量が増え、1970年代前半までは自給率100%。しかし、1970年代から輸入量が増え、1980年代に入り国内精錬量が急落。1987年頃には国内精錬量がほぼゼロとなり輸入のみとなる、趣旨の図)を参考にして、40字以内で説明しなさい。
  • (前部分及び図省略)1990年~2010年にかけてニュータウンの老年人口割合が急速に上昇している理由を、「流入」と「流出」という語句を必ず使用して、50字以内で説明しなさい。
  • 「幕末の開港とともに、外国の安い砂糖が大量に輸入され、日本の製糖業は一時おとろました」が、このような事態がおこったのはなぜか、簡単に説明しなさい。

西大和学園中高は創立から40年未満(高校創立1986年、中学創立1988年)の比較的新しい学校ですが、授業時間数の充実やスーパーサイエンスハイスクール指定校ならではの理数科学教育、本校を合わせて全国8か所及びシンガポールでの入試による全国からの生徒募集などが功を奏し、東京大学に73名、京都大学に39名(ともに2023年)合格者を輩出するなど、全国屈指の私立進学校となっています。関西地方にある進学校にしては珍しく、京大よりも東大に合格者を多く輩出しています。

西大和学園中の社会入試問題は近大附属中や同志社香里中と比べ、応用力の問われる問題が多いのですが、正解を文章で答えさせる記述論述問題が必ず出題されているのも特徴です。

社会の記述論述問題は設問となっている事象についての背景知識を体系的に理解していることと、その体系的知識を設問の条件に沿って、論理的に記述できることの2点が重要ポイントとなります。【資料6】の問題においては、例えば①では、アルミニウムの精錬には大量の電気が必要であり、日本における1960年代から90年代にかけての電力発電の中心が火力発電であること、火力発電の燃料源が石炭から石油に変化し、1970年代に発生した石油危機(オイルショック)によって、石油価格、ひいては電力供給コストが高騰し、国内でのアルミニウム精錬も高コストとなったこと、をまとめて記述をすると正解(の一例)になります。電気が必要なアルミニウム精錬の特徴、電気に必要なエネルギー源(石油・原油)の特定、1970年代のできごと(石油危機)の3つのポイントを学習しているか、思いつくかが重要になります。

ご自身の志望校の社会の入試問題でこのような記述論述問題が毎年出題されているならば、地理分野、歴史分野、公民分野、国際・環境分野を問わず、まずは社会の基本事項(教科書に記載されている内容)をしっかりと理解するように努めましょう。小学6年生の夏以降は問題を解いて書いていく練習量が必要になりますが、まずは社会各分野の体系的理解が必要です。「なぜですか」、「理由を答えなさい」など、記述論述問題では因果関係の説明が求められることが多いのですが、教科書やテキストなどを読む際に、地理にしても、歴史にしても、政治や経済のできごとにしても、「なぜ」、「どうして」という疑問を常に感じながら、その事柄に関する原因や理由づけの確認をしたり、時には自分で原因や理由づけを考えながら学習をしていきましょう。

今回は中学受験の社会の学習ポイントについて、3つのポイントを述べていきました。思考力や読解力、つまり頭を働かせる力や時間が非常に求められる算数や国語と比べると、社会は理解や記憶、暗記といった活動も多く、頭が働かないなぁと感じる時間帯でも学習が進めることが比較的可能な科目です。国語、算数、理科と並行しての社会の受験勉強は、時には他科目との学習とのメリハリも意識しながら、今まで述べてきた3つのポイントも踏まえて進めていきましょう。

今回のコラムが皆さんの中学受験社会の受験勉強の参考やヒントとなればこの上ない幸いです。今後の社会の勉強も頑張っていきましょう!

<文/開成教育グループ フリーステップ修学院教室チーフ 住本正之>