2024/09/02

関東関西有名中学入試分析【中学入試 社会を活かした中学受験と社会の学習法】

 中学受験を目指す小学生の皆さん、入試に必要な科目の勉強ははかどっていますか?国語・算数・理科・社会と4科目の学習を進めている方もいれば、国語と算数の2科目入試に向けて学習をしている方、英語も含めた学習を進めている方など、志望校の入試科目に応じて、それぞれ学習を進めているかと思います。

 今回は中学入試科目のなかでも社会をテーマにして述べていきたいと思います。受験生のなかには国語・算数の2科目入試、もしくは社会が入試科目から除外された国語・算数・理科の3科目入試を受験する予定のため、社会の学習は必要ないという方もいらっしゃるかもしれません。しかし、中学受験科目として塾や受験用教材で学習をしていなくても、小学校の社会の授業内容に関心を持っていたり、小学校のテストで常に高得点が取れているならば、社会の学習を追加することで、受験可能な中学校が増えてきます。また、国語または算数が極端に苦手で、現在小6生で、入試本番までに国語または算数の苦手克服ができるか不安な場合、社会で高得点をとることによって苦手科目をカバーするという合格への作戦も考えることができるようになります。ここでは、中学入試科目としての社会の特徴、社会を加えた場合の受験戦略、入試本番まで半年ほどとなった6年生の社会の学習法について、述べていきたいと思います。

中学入試科目としての社会の特徴

 中学入試科目としての社会は小学校で学習をする「社会」をベースに、地理分野、歴史分野、公民分野、国際・環境分野の4つの分野が学習内容となります。その特徴は、①初学からの学習のスタートがしやすいこと ②序盤は自己学習や独学でも進めやすいこと ③地域や学校によって入試科目としての重要度や配点が異なること、の3点が挙げられます。

①初学からの学習スタートがしやすいこと

 中学入試の基幹科目である算数において、例えば、6年生になったと同時に中学受験に向けた受験勉強をスタートする場合、5年生までに習う計算方法や公式をしっかりと身につけていることが6年生範囲の学習スタートの条件となります。分数の計算の約分や通分がマスターできていないままに、速さなどの文章問題や面積・体積・角度などを求める図形の問題を解くことはできません。分数に関する単元の学習をし直すことが必要となります。他方、社会という科目は単元やテーマごとの独立性が高く、すなわち、ある単元やテーマを学習するにあたって、過去に学習する単元やテーマの学習が前提条件となるケースが少ないため、地理分野であっても歴史分野であっても、学習が始めやすい科目といえます。

 小学校における社会は地理分野→歴史分野→公民分野の順番で学習を進めますが、地理分野をとばして歴史分野から中学受験の学習をスタートさせることも可能です。ただし、歴史分野は日本の地理の基礎知識の理解を前提としているため、歴史学習の前提として、47都道府県名や都道府県の位置・特徴、都道府県庁所在地の都市名などの日本地理の基礎知識の確認は進めておきましょう。

序盤は自己学習や独学でも進めやすいこと

 社会に限らず、国語、算数、理科ともに、中学受験に向けた勉強の第一歩は小学校で習う学習範囲の習得であり、そのための学習の基本は教科書や(塾に通っている場合)塾テキストを読むことです。しかし、算数の場合は教科書で示されている公式や解法を、実際に自分で鉛筆などの筆記用具を使って問題を解き進めていく作業が必要です。国語の場合は教科書で取り扱われる文章がそのまま中学入試の読解問題に使われることはほとんどなく、むしろ、教科書で取り扱われた文章を例題として、文章の読み方や問題の解き方を習い、問題集などを使って、他の文章でも、文章の読み方、問題の解き方を実践していくことが求められます。理科の場合も、計算が必要な問題では算数と同様の作業的学習が必要です。

 他方、社会の場合はどうでしょうか。もちろん、問題集を解き進めたり、論述問題などをノートなどに書き進めていく作業的学習が必要な段階もあります。しかし、地理分野でも歴史分野でも、社会の序盤の学習は教科書や塾テキストの内容を理解することが中心となります。最近の小学校の教科書や塾テキスト、市販の参考書はカラー刷り、挿絵や図表、マンガなども掲載され、小学生でも読みやすいように工夫されているものが多くなっています。また、歴史分野を中心に、カラー印刷の学習マンガやDVDYouTubeを使った学習動画など、活字書籍以外にも学習できるツールが他教科よりも充実しているのが社会という教科の特徴です。

地域や学校によって入試科目としての重要度が異なること

 中学入試における社会は理科とともに、首都圏と近畿圏において、入試科目に含まれるか否か、そして(入試科目に含まれる場合の)配点が異なってきます。

 中学入試の入試科目数は、1科目(算数の場合が多く、国語の場合もあり)、2科目(算数・国語がほとんど。算数・英語、国語・英語のケースも有)、3科目(算数・国語・理科、算数・国語・社会、算数・国語・英語など)、4科目(算数・国語・理科・社会)の1科目から4科目までありますが、標準的な午前中から実施の入試では、首都圏の場合は2科目または4科目が多く、近畿圏の場合は2科目または3科目・4科目からの選択が多くなります。1科目入試は午後入試において採用している中学校が多く見られます。

 首都圏でも近畿圏でも、2科目入試の中学校のみ受験の場合は社会の学習は不要となります。首都圏における4科目入試の場合、算数・国語以外に社会も理科も、原則学習が必要になります。後述する、近畿圏ではよく行われている3科目入試は首都圏においてはほとんど見受けられません。

 他方、近畿圏の場合、国立大学附属中学校(中等教育学校)や公立中高一貫校と神戸女学院中学部(兵庫県西宮市)などの一部の私立中学校で4科目必須の入試が実施されている以外、多くの中学校では3科目固定の入試か3科目・4科目選択の入試を実施しています。以前は、3科目入試は算数・国語・理科(社会除外)、4科目入試は算数・国語・理科・社会とする中学校がほとんどでした。しかし、最近では一部の共学校(同志社国際中など)や女子校(京都女子中、帝塚山学院中など)で、3科目入試において算数・国語の必須科目と理科・社会の選択という、算数・国語・社会(理科除外)で受験可能な中学校も増えてきました。また、同志社香里中(大阪府寝屋川市)のように、入試では4科目受験必須であっても、合否判定において算数・国語・社会(理科除外)の合計点で判定可能とする中学校もあります。

中学受験社会 夏から秋にかけての学習法(基礎固め編)

ここからは小6生社会の秋季の学習方法を述べていきたいと思います。まずは基礎固め編です。

【資料1】 2024年開成中 社会 歴史分野出題内容より

関東大震災 北条泰時(御成敗式目) 豊臣秀吉(太閤)小野妹子(遣隋使)

徳川吉宗(米将軍) 鑑真 松尾芭蕉(奥の細道) 北条政子(尼将軍)

卑弥呼(邪馬台国) 徳川慶喜(大政奉還) 天草四郎(島原の乱) 遣唐使

阿倍仲麻呂 犬上御田鍬 空海 菅原道真 土佐日記 枕草子 日清戦争(臥薪嘗胆)

日露戦争 ベルサイユ条約 新渡戸稲造 杉原千畝 鈴木貫太郎 貝塚

 【資料1】に示したのは、今年2月に実施された開成中学校(東京都荒川区)の社会入試問題のなかで、歴史分野の出題において、問題の正解そのものや正解につながるキーワードとなった人物や事項を書き表したものです。

 灰色印をつけたものは小学校の教科書や塾テキストの本文やコラムに記載されていないケースもあり難しいかもしれませんが、太字のものは教科書や塾テキストの本文やコラムに、原則として掲載があるものです。首都圏でも最難関の男子校とされている開成中であっても、基礎・基本の事項をしっかりと固めていけば8割以上の得点確保が可能なのです。

 では、社会の基礎・基本を固めるにはどのような学習が必要だと思いますか?まずは教科書や塾テキストの本文を通読することです。教科書やテキストの内容をノートにまとめる勉強法もありますが、本文見開き1ページのノートまとめに1時間も2時間も時間を費やすことは、効率的な学習とは言えません。ノートに書いたり、メモ書きをしながらにしても、110分から15分と時間を決めて進めていき、むしろ読む回数を増やしたほうが記憶に残りやすくなります。

 教科書やテキストの内容理解の確認と定着のためには、一問一答問題の活用もおすすめです。フリーステップの中学受験指導で使用している社会用テキスト(『小学実力錬成エフォート社会』、『マイ・ジュック社会』、『予習シリーズ社会』など)には、必ず一問一答問題が掲載されています(【資料2】参照)。

【資料2】社会一問一答集の例(歴史・奈良時代)

・710年に、現在の奈良県に置かれた都を何といいますか(答え 平城京)

・聖武天皇のころに栄えた、唐と仏教の影響を強く受けた文化を何といいますか
(答え 天平文化)

・山上憶良が詠んだ貧窮問答歌が掲載された歌集は何ですか(答え 万葉集)

 ある単元やテーマについて、教科書やテキストの本文を読み終えたり、塾での解説講義を終えたならば、その記憶があるうちに一問一答問題を解き進めましょう。1ページで20問前後の一問一答問題は、10分以内で全問について考えることができるはずです

 8割以上正解であれば、その単元やテーマの基本事項は覚えたと考えていいでしょう。他方、8割未満の正解率の場合は、教科書やテキストの本文に立ち戻り、正解の用語や設問のキーワードとなる用語(例 平城京であれば710年 天平文化であれば聖武天皇や正倉院など)に蛍光マーカーで印をつけたり、正解の用語をその場で5回、ノートに書いて覚える作業をしましょう。

中学受験社会 夏から秋にかけての学習法(演習編)

 教科書やテキスト本文の通読を終え、一問一答問題も概ね8割以上の得点率を確保できているのであれば、過去問学習によって実戦力を養っていきながら、知識を多角的に強化していきましょう。

 社会に限らず、国語も算数も理科も、出題範囲の学習や問題演習を一通り進めたのであれば、入試までの学習素材の中心は入試の過去問になります。掲載される中学校や出版社にもよって異なってきますが、市販の中学入試過去問集には、過去3年間から10年間の過去問が掲載されています。一部の難関中学の、算数や理科のみの過去問集だと過去20年以上の過去問が掲載されているものもあります。

 社会の場合、入試の時期によって出題内容や用語が大きく変わることの少ない歴史分野は古い過去問を使っての学習も有効です。しかし、時事的要素が大きく影響する地理分野と公民分野については、数年前に出題された過去問の内容が、現在では正解が異なることや学習する内容や統計資料が異なることがあり、古い過去問を学習することは、地理分野や公民分野についてはあまりお勧めができません。

 地理分野や公民分野の入試問題演習としては、今年2024年の入試問題を集めた問題集を活用することがお勧めです。2024年の入試問題について、教科別、社会、国語、算数、理科と教科ごとに出版されている問題集、難関校を中心に全4教科の入試問題を掲載している問題集、単元やテーマごとに編集をして出版されている問題集と、出版社によって内容やページ数も異なります。

 例えば、教科別の過去問題集のなかで、『2024年度受験用 中学入学試験問題集 社会』(みくに出版 通称「銀本」と呼ばれているぶ厚めの入試過去問題集)には、首都圏を中心に150以上の中学校の、2024年度の社会入試問題が掲載されています。他教科の学習も考えると、全ての中学校入試問題を解くことは現実的ではありません。志望校の問題傾向や出題形式、入試の難易度(偏差値帯)を踏まえて、併願受験をする(可能性のある)中学校や選択問題、語句記述問題、文章論述問題、資料分析問題など、志望校の入試形式と類似する問題を、塾に通っている場合は塾長や社会担当の塾の先生と相談しながら、例えば、1か月間で20校(半月で10校)のペースで、解く問題の中学校や問題番号を決めてもらうといいでしょう。

 

 今回は入試科目としての社会にスポットをあてて、社会を活かした入試や社会の勉強方法について述べてきました。歴史や公民(政治・経済)、国際などは興味関心があるかないかによって、社会という科目は勉強がはかどるか否かが分かれてくる科目です。
 無理矢理にでも社会に関心を持ちましょう、ということではありませんが、もし社会に関連した事項が好きであったり、興味や関心があるならば、社会を活かした受験勉強戦略を考えてみましょう。他方、社会はあまり好きではない、苦手、しかしながら入試科目に社会がある場合、社会は勉強量をこなせば、算数や国語よりも得点力や偏差値は上がりやすいケースが多く、他科目との学習バランスも考えながらも、無理なく、効率的に、深入りせずに、社会をサクサク学習していく、という受験勉強戦略を意識してみましょう。

 

<文/開成教育グループ フリーステップ修学院教室チーフ 住本正之>