2025/10/31
関東関西有名中学入試分析【中学受験 理科の特性と勉強方法を確認しましょう!】
今回は中学受験における理科の特徴と理科の勉強方法について述べていきたいと思います。中長期的な学習姿勢が求められる算数、国語と比べると、理科は学習が完結できる単元・テーマが(算数・国語と比べて)まとまっており、勉強量と試験や模試での得点力が直結しやすい科目です。また、近年トレンドともなっている、中学校・高校における探究学習に直結する教科(科目)として、中学入試科目のなかでも近年特に重要度が高まっているものです。今回のコラムが、理科という教科の特性と、それに即した効果的な勉強方法を研究し、実践をするうえでの一助となれば幸いです。
■中学受験の理科の特性
教科としての理科は、自然科学の物体や事象、現象を対象としています。高校では生物・地学・物理・化学と細分化されますが、それぞれの基礎的内容を扱う教科が理科です。
中学受験の入試科目という視点から踏まえると、理科には以下の特性(特徴)があります。
①観察や実験が理科学習の根幹 
②単元やテーマごとの学習が程よい長さ・期間で完結できやすい
③算数と関連した問題も出題されやすい(特に物理分野、化学分野)
④理科に関連する時事問題
①観察や実験が理科学習の根幹
理科でも知識や公式など、授業や紙面で学習ができる項目も取り扱いますが、それ以上に、観察や実験を実際に行い、そこから様々なことを学ぶのが理科という教科の根幹となります。中学入試においても、理科の試験問題では観察や実験に関連した出題がほとんどの中学校でなされています。物質や現象の姿かたち・色、観察や実験に使用する器具の使い方・使用上の注意事項などです。なかには武蔵中(東京都練馬区)のように、入試本番で提示をするものに関して、観察や実験をしたうえで出題事項を答えさせる(通称 おみやげ問題)ケースもあります。
②単元やテーマごとの学習が程よい長さ・期間で完結できやすい
理科には、生物分野、地学分野、物理分野、化学分野と、大きく4つの分野から構成されています。生物分野は植物、動物、人体。地学分野は大地(地層、河川、海に関連 地震や津波も対象)、天体、天気・気象。物理分野は力のはたらき、電気・磁力、光・音。化学分野は水溶液(酸性・アルカリ性・中性)、燃焼と気体発生、物質の三態(固体・液体・気体)。算数、国語と比べて単元・テーマの完結性が高く、計画的に学習が進めやすい特性があります。
③算数と関連した問題も出題されやすい(特に物理分野、化学分野)
中学受験の理科入試問題では計算式を用いて数値を答えさせる問題も必ず出題されます。特に計算力が問われる問題が出題されやすい理科の分野としては物理分野と化学分野があげられます。物理分野では、ばね、天秤、滑車、輪軸などを用いて、重さと長さ、体積等を求めさせる問題や電気・電流に関して、電流や電気抵抗の大きさ(強さ)を、それぞれ計算を用いて求めさせる問題が出題されます。他方、化学分野では、水溶液、気体、燃焼(酸化)について、重さや体積などを計算によって求める問題が出題されます。水溶液のなかには食塩水も含まれ、食塩水に関連した問題は算数でも出題されることがあり、理科でも算数の問題と同様のものが出題されることが珍しくはありません。
【資料1】食塩水(水溶液)に関する問題
理科問題において
(1)水100gに食塩25gを溶かした水溶液の濃さは何%ですか。(江戸川女子中)
(2)(1)の食塩水の濃さを2倍にするには、水を何g蒸発させればよいですか。(江戸川女子中)
算数問題において 
(1)6%の食塩水から水を何g蒸発させると8%の食塩水になりますか。(昭和女子大昭和中)
(2)15%の食塩水120gに、あと何g食塩を加えたら20%の食塩水になりますか。(鷗友学園女子中)
【資料1】に示したのは、いずれも東京都内にある女子中学校で過去に理科、算数で出題をされた食塩水に関する計算問題の一例です。他にも、天秤(おもりと支点からの距離による釣り合い)に関する計算問題が算数でも出題されることもあります。
④理科に関する時事問題
中学校によって、2025年、または近年にあった理科に関する事象やニュースが、2026年に実施される中学入試の理科問題で出題されることがあり得ます。
【2026年中学入試理科で狙われる可能性のある時事問題】
・地震・津波について(能登半島地震、カムチャッカ半島地震など)
・皆既月食(9月8日)
・地球温暖化の影響(日本における最高気温の更新、米不足との関連性など)
・大阪・関西万博(パビリオンでの自然科学、科学技術関連の展示と絡めて)
・理科系のノーベル賞受賞者(※日本人が受賞をした場合) など
時事問題は社会科でも問われることがありますが、地名や人名などの知識面の問いに繋がることが多い社会に対して、理科入試においては(もちろん知識を問われることもありますが)地震、津波、月食・日食、地球温暖化など、自然現象のメカニズムや因果関係を問う問題に繋がるケースが多いです。
以上で示した理科の教科特性を踏まえて、中学受験に向けた理科の学習方法、学習アドバイスについて述べていきたいと思います。なお、今回の理科学習アドバイスは理科の受験勉強を今から進める方、小5生・小4生向けのものになります。入試本番まで残り2・3ヶ月となった小6生については受験予定の志望校によって異なってきます。志望校の入試過去問の傾向や特徴を踏まえて、そして、他科目の学習計画も踏まえて、塾の先生と相談しながら、独自のカリキュラムを策定していきましょう。
■中学受験理科の学習ポイント
①小学校での観察、実験、データに関する学習が特に重要
②カラー印刷の書籍やテキストを活用しよう
③理解系、知識系、計算系など、体調と学習内容に応じてメリハリのある学習時間を
④苦手分野・単元が生じた場合、無理に追わず、好き・得意な分野・単元をつくることに注力
①小学校での観察、実験、データに関する学習が特に重要
国語、算数などの他教科も同じですが、理科においても小学校の教科書や教室での授業などに基づく学習が中学受験の基礎基本にもなります。小学校での理科学習で特に重要となるのが、観察、実験、そしてデータ(収集、処理、作成編集)に関する学習です。
理科における観察は、植物、動物、昆虫などの生き物や地層、鉱石、天体などの自然事象や自然現象を肉眼または器具を使って見ることが基本となります。観察における実験器具、具体的には顕微鏡、虫眼鏡、望遠鏡などの使用方法や部品名称の確認も重要です。実験は特に化学分野(物質燃焼や物質同士の混合による化学変化など)と物理分野(てんびん、ばねなどを使った重力や浮力にまつわる実験など)に関する事項で、小学校の実験室を使って行われることがあります。もっとも、中学受験での出題範囲となるテーマの実験を全ての小学校で実施することは考えにくいのですが、実験の手順や安全面に関わる注意事項など、教科書やテキストなどの紙媒体の一読では理解しにくい事項について、実験結果の確認と合わせて特に理解を深めることが大切になります。
観察や実験そのものも重要なのですが、中学受験の理科の視点からすると、観察や実験から現れたデータの収集、処理、そして作成や編集が特に重要になります。ここで言うデータとは数値で現れる結果のことです。化学反応による物質や水溶液の重さ、体積、物理分野では重力に関する実験で、重力が釣り合う重さと(支点からの)長さ、生物分野では光合成による酸素、二酸化炭素の体積の変動、蒸散による水の量の変動、地学分野では太陽の日の出、南中、日の入りの時刻、月や(特に北方向にある)星の位置と日付、時刻の関係など、理科四分野とも、数値で現れるデータやその変動に関する項目やテーマがあります。
近年では中学校や高校において探究学習、すなわち生徒個々が学習テーマを設定し、それに関する調査、観察、実験を行い、そこから得られた数値を含めたデータを分析、検討して、学習テーマについての考察や所見を発表する学習体系が重視されてきています。観察や実験方法などの学習は従来からも進んでいますが、観察や実験の結果の収集、処理、そしてそれらのデータの作成、編集のプロセスについては中学・高校が特に重視をする流れとなっており、入試でそれらの素養を問われるケースが増えてきています。
②カラー印刷の書籍やテキストを活用しよう
①で述べたように小学校の理科学習は観察や実験が基本活動となります。その際、①で述べたデータ(数値)とともに重要となるのが、観察や実験の対象の色彩的特徴です。花、葉っぱ、昆虫の色、化学反応や物質に関する色(例えば、水溶液が白く濁る、青白い炎となる)など、色彩を確認することも重要であり、また色彩に関する事項も中学受験の理科入試でよく出題されています。
【資料2】色彩に関する中学受験理科の入試問題出題例
(1)ナズナとアブラナの花の色について、正しいものを記号ア~エのなかから選びなさい。
  ア:黄色 イ:白色 ウ:青色 エ:赤色  (巣鴨中)
(2)モンシロチョウのたまごの色は何色ですか、次のなかから選び、記号で答えなさい。
  ア:白色 イ:黄色 ウ:赤色 エ:茶色 (関西学院中)
※(1)、(2)とも実際の出題から文章表現は一部を改変しています。
【資料2】は巣鴨中(東京都豊島区 男子校)と関西学院中(兵庫県西宮市 男女共学校)の中学入試問題で過去に出題された問題の例になります。両方とも記号で答えさせていますが、記号ではなく色の名称を記述問題として問われるケースもあります。
国語、算数、社会と比べて、理科は色彩に関する出題も目立ち、色の理解や確認が極めて重要となる科目です。そのため、理科の学習では(他科目と比べて)具体的な色の理解や確認が数多く必要であり、学習を進める教材や参考書もカラー印刷のものを使うことを推奨いたします。問題集などの演習用教材は白黒印刷のもので構いませんが、カラー撮影の写真やカラー印刷の挿絵などが使われているもののほうが色彩についての理解や記憶が深まりやすくなることもあるため、事項の理解やインプットをするにあたっての教材や参考書はカラー印刷のもの、もしくはカラー印刷の理科図説や図表を参考資料とするといいでしょう。
③理解系、知識系、計算系など、体調と学習内容に応じてメリハリのある学習時間を
 理科を含めた教科科目の学習にあたっては、①事項を理解する学習活動②その理解した事項を記憶(暗記)定着する学習活動(および作業活動)③理解をした事項を使った演習を進める学習活動の大きくわけて三つの活動が必要となります。①の学習は小学校や塾での講義授業や教材テキストの読書による活動が中心です。②の学習は国語の漢字学習や社会科の用語学習などがそれにあたります。③の学習は問題演習中心の学習となり、4教科とも必要な学習事項になりますが、特に算数と国語の学習は③の活動が学習の中心となります。
 ①、②、③の学習活動のいずれも、思考力や集中力が高い状況で進めることが理想です。しかし、②の記憶や暗記に関する活動は思考力や集中力が減退している時間帯でも進めることが可能です。漢字や語句、用語を紙に何度も書きながら音楽を聞く、いわゆる"ながら勉強"も可能ではあります(もっとも、"ながら勉強"よりは音楽等を聞かずに進める勉強のほうが学習効果は高いはずです)。しかし、③の学習活動は集中力や思考力が高い水準が求められ、集中力や思考力が低い状態で演習学習を進めることは困難です。仮に集中力や思考力が低い状態、すなわち、食事後すぐや運動(習い事)の後、夜遅くに、算数の計算問題や国語の読解問題を解き進めても効果はありません。思考力や集中力が高い状態では③の学習活動を優先して進めて、集中力や思考力が低い状態でも学習を進めるべき事情のある場合は②に基づいた学習を進めましょう。理科においては植物、動物・昆虫、人体の器官、星座、火山石、実験器具(部品)などの名称の再学習や文体が読みやすいテキスト(教科書や参考書)の通読などです。現在ではインターネットの学習サイト(例えば、「NHK 小学理科」で検索をすると、「NHK for School」〔小学生・中学生の学習用動画・コンテンツをまとめたNHK(eテレ)のサイト〕の小学校の理科に関する動画やコンテンツがまとまったページを見ることができます)やYouTubeの理科動画もあり、気分転換を兼ねて、これらのコンテンツや動画を活用するのも一手だと思います。
もちろん、過度に疲れている時や睡魔が激しいときは睡眠を含めた休息を積極的にとって欲しいのですが、模試や塾内テストなどが近い時期、多少疲れていても勉強量を確保したい時は、このように体調に応じて可能な学習内容を、メリハリをつけながら進めるといいでしょう。
④苦手分野・単元が生じた場合、無理に追わず、好き・得意な分野・単元をつくることに注力
生物、地学、物理、化学と大きく4つの分野で構成される理科。生徒さんによっては分野ごとで得意・不得意や好き・嫌いが大きくあらわれることも珍しくはありません。花や動物(特に哺乳類)に興味を持つ子もいれば、天体・宇宙に関心が強い子もいるでしょうし、算数(数学)が得意で、物理分野や化学分野の計算が絡む問題が得意という子もいるでしょう。他方、理科全般に、そもそも興味や関心が薄かったり、面白さをあまり感じない、計算問題が苦手という子もいるかもしれません。好きではない、むしろ理科は苦手。でも、入試科目には理科も含まれており勉強が必要な場合、どうしたらいいでしょうか?その場合は全ての分野・単元を深く追うことはせず、取っ付きやすい分野や単元を「つまみ食い」をしながら学習を進めてみましょう。
4つの分野にわかれる理科は分野や単元の学習完結性が早く(短く)、個々の単元やテーマの学習が比較的短期間に進められやすい特性があります。理科に苦手意識やアレルギーを感じているのであれば、その苦手意識やアレルギーのない・少ない分野や単元の学習に的を絞って学習をすることも可能です。もちろん、苦手意識やアレルギーを感じる分野・単元の学習を置くことにはなりますが、理科の学習分野や国語・算数・社会などの他教科の学習状況で、学習が進まない理科分野・単元の穴埋めをする、という考え方です。学習がはかどる分野や単元をいわば「つまみ食い」をしていきながら、ご本人の興味や関心に応じて理科の学習カリキュラムを組み直すのも一手なのです。
今回は中学受験の理科について、教科科目としての特性と初学者向けの勉強方法について述べてきました。中学を経て高校進学後、高校で生物、地学、物理、化学の(基礎科目ではない)4科目を全て学習することはまずありません。多い場合でも3科目、大学理系学部の進路を選ばない場合には1科目、もしくは基礎科目(生物基礎、化学基礎など)のみの学習となる方も少なくありません。理科の生物、地学、物理、化学を満遍なく学習する機会は限られてはいますが、先述の探究学習の導入・展開もあり、中学受験において理科はますます重要視されている科目となっています。
理科全般に興味がある方はもちろんですが、苦手・好きにはなれない理科の特定分野がある方であっても、別の分野や単元であれば興味や関心が持てる、好奇心が湧くこととなり、理科の学習が効果的に進められることに繋がればと思います。そして、受験勉強の合間に興味や時間があれば、科学館や天文台などの理科に関連した施設、植物園や動物園、地層や化石、恐竜、天体観察などのスポットも訪問して、興味や知識探究もより深めて欲しいと思います。
<文/開成教育グループ フリーステップ修学院教室チーフ 住本正之>