2021/03/22
Duranの留学記【第5話】
Hello there! Duran is back!
ボクは購買部にいる。生徒たちがなんやら買い物をしているのを眺めながら、奥へ引っ込んだ女生徒を待っているのだ。店の中は店員(女生徒)が二人、客(男女混合)が10人ほどいる。誰もボクには関心を払わない。Diana(=以下ダイアナとする)は店員の娘と何やら笑い合っている。ボクはずっと無表情でいた。平静を装っていたが、初めてのことばかりで緊張状態が続いているうえに、実は話しかけられるのを恐れてもいたのだ。
(ボクのことを話してんのかな...?)
と、気にはなるのだが、いかんせん何言ってんのかさっぱり分からん。ネイティブの友人同士の雑談の速度はハンパないよ、うん。
奥へ行っていた娘が戻ってきた。笑顔が可愛い。じっとボクの目を見ながら奥から持ってきた紙袋を、やさしい声でボクに手渡した。
"Here you are." (女生徒)
(はい、どうぞ)
"These're just for you."
(あなただけに、ね)
"If you agree with them, sign it."
(これでよかったらサインくれるかなぁ)
(あなただけって...。Duran、ひょっとしてモテてる?)
ボクは大急ぎで中を見た。ノート一冊(便箋風。わら半紙。横線入り)、えんぴつ2本(HB。消しゴム付き)、正体不明の申込書と写真カタログ.........。
(なんじゃ、こりゃ?あなただけって、なに?これをどうしたら?)
質問すらできない。ボクは「説明を求める目線」を、女生徒に送った。彼女は軽く頭を振った。そして、いたずらっぽく笑いながらノートとえんぴつを取り上げて、自分の顔の横に持ってきた。ブラブラと振った。
"Well, these are present for you from school." (女生徒)
(これは学校からのプレゼントよ)
"For free."
(ただよ)
笑った。
(ココ、笑うトコか?なんだ?バカにされてる?なら可愛いと思ったの撤回!)
"What..." (Duran)
(???)
彼女は突然、不機嫌な表情になった。そして溜息をついて一気に、説明を始めた。声が尖っている。
"Ahhh, you know compulsory education is free." (女生徒)
(ふうっ、義務教育は無償って知ってるわよね)
"Compulsory education won't demand you any money."
(義務教育はお金の請求はしません)
"Then, compulsory education gave you a notebook and pencils for free."
(で、義務教育はあなたにノートとエンピツをただでくれたワケ)
"Do you understand?"
(分かった?)
" ( 絶句 ) " (Duran)
"These application forms are for the School Jacket and for the Class Ring." (女生徒)
(この申込書はスクール・ジャケットとクラスリング(指輪)用よ)
"The deadline is about 2 weeks for jackets and about 1 week for rings."
(締め切りはジャケットが約2週間後、リングが約一週間後)
"And the catalogs are for them."
(カタログもそれ用よ)
"Do you understand?"
(分かったの?)
"Yes,........." (Duran)
(はい.........)
ボクは十分に恐れをなして後ずさりしながら退室しようとした。Yesと言ったものの何を言われたのか、いや、何が何だかさっぱり分からん。
"Just a minute! You don't have enough time, do you?" (女生徒)
(チョット、待った! あんた時間がないんでしょ? )
"Yes!" (←ビクついている。 Duran)
(イエス!)
"You need to take this!
You have to go to the school archive." (女生徒)
(コレを持っていかなきゃ! 学内書庫に行きなさい)
"Thank you,......very much" (Duran)
(ありがとう、ございます)
(なにが悲しゅうて、あんなに怒られにゃいかんのだ?しかし...)
ボクはこの時点ではcompulsory education(義務教育)の意味が聞きとれても理解できてもいなかったのだが、いかに無償とはいえ、ノートやエンピツまで配布とは思わなかった。アメリカは無償と言ったら、本当に無償なのだ。スクールバスも家の真ん前までくるはずである。しかし、これは後で分かったことだが、アメリカの生徒たちは誰も、シャープペンシル・プラスチック消しゴム・白い紙のノートなどは持っていなかった。少なくともペンシルバニアの高校では、勉強事にお金をかけるという習慣を持ち合わせていないということらしいのだ。
(こんなんで、どうして日本人は大学では世界の大学にぼろ負けなんだろう?)
が、まあそのことは後程ゆっくり考えることにして...。とりあえず、なにが先程の女生徒の不興を買ったのか考えなくては。今日、ボクは数多くの女生徒と、いや男の生徒とも会うことになるはずである。先が思いやられる。あと、今からどこに行かなければならないのかも知る必要がある。
(え~っと、またどっか行かなきゃならんのか...。ま~た渡されたよ、紙。え~と、どこに行きゃあいいんだっけ?聞き取れる訳ないじゃん、あんな早い英語。どうしよう?う~む、仕方がない)
"Well, Diana........." (Duran)
(ダイアナ、さん.........)
ボクは明らかに行先を知っていて、そこに向かってさっそうと歩くダイアナに話しかけた。ダイアナは絶対に自分の順番が来ると待ち構えていた感じだった。可笑しくてたまらない、といった表情である。やがて笑い出して、ゆっくりと話し始めた。
"That's all your fault. (ダイアナ)
(ぜ~んぶ、あなたが悪いわ)
Are you a fool?
(あんたバカ?)
Why did you treat a girl like that?"
(どうして女の子をあんな風に扱ったのよ?)
"Treat like what? (Duran)
(扱いがなんだって?)
"My fault?"
(ボクが悪いの?)
What did I do?" (←英語が固いよ)
(ボクが何をしたっていうんだ?)
ダイアナはチラッと時計を見た。歩く速度は落とさない。
"I'm sorry, you don't have enough time any how" (ダイアナ)
(残念ね、やっぱりあなたには時間がないわ)
"I just give you a couple of advices"
(アドバイスだけするわね)
"The first, you are too expressionless"
(まず、あなた無表情すぎるわ)
"The second, you have to be willing to talk to someone."
(第2、自分から話しかけなさい)
"The third, you have to be kind to girls."
(3つめ、女の子には優しくね)
いや、そんなこと言われても...。無表情って、そうなのか?話しかけるって、何を?だいたい話せたら苦労しないワケで、聞き取りもままならんのに一足飛びに話せるワケが無いじゃん?そして、ボクは女性には優しいと定評があるのだが...。
"Here we are, this is the school archive."
(着いたわよ。ココが学内書庫よ)
ダイアナがそんなボクの考察を遮った。
"And this is all I can lead you this time."
(そして、今日私が案内してあげられるのもここまでよ)
"I need to get ready for my own lessons."
(私にも私の授業の準備があるからね)
ボクは素直に言った。
"Thank you very much. You've been a great help." (←ナイス!)
(ありがとう。すっごく助かったよ)
(なんか気の利いたセリフが言いたいな。この後、会えるかな。いや、そもそもこの娘は誰だ?何年生だ?何組だ?)
考えた末、ボクはこう言った。
"I..., I want know you more." (←最悪だ!)
(ボ、ボクは君のことをもっと知りたい)
ダイアナは大笑いした。
"Oh really? But, it's better than what you were in purchasing department."
(あら、本当?でも、それってあなたが購買部にいた時よりマシな感じよ)
"Don't worry we will meet soon, maybe."
(心配しないでも、たぶんすぐに会うことになるわよ)
彼女はそう言うと、階段を下りて行ってしまった。なんかいろいろと言われたのだが、これも例によってよく分かっていない。意味深な言葉もあったような気がするのだが、やはり家に帰って反芻(はんすう)が必要である。でも、いや~、なんか、イイね~。映画みたいだ。すれ違う生徒たちみんなが、すごく大人に見える。しかし、ボクにはゆっくり余韻に浸っている暇は無いかった。ここからは一人で行かなければいけないのだ。ボクは学内書庫の扉を開けた。
"Nice to meet you Duran-san. Can I have a sheet please?" (おじさん)
(こんにちはデュランさん。書き付けをもらえますか?)
腹話術の人形のような顔をしたおじさんがボクを迎えてくれた。「デュランさん」といわれたのが新鮮である。
"Let me see your schedule, Oh I mean the paper you got from counselor."
(スケジュールを見せてもらえるかな?カウンセラーからもらった紙なんだけど)
ボクは黙って手渡した。
"OK, you can get the textbooks here." (おじさん)
(ここでは教科書を受け取ってもらいます)
"I'll pick them up to suit your schedule."
(君のスケジュールに合わせて、本を用意しておいてあげるからね)
"So, you can go and get your locker's number"
(その間にロッカーナンバーをもらっておいでよ)
彼はボクに書付を渡そうとした。また違う場所である。なるほどみんなが「ボクには時間がない」と言い続けているはずで、だんだんとホームルームの時間が迫ってきている。なのにボクはまだ、学園迷路を言われるがままにさ迷っている。きっとホームルームではクラスのみんなに、なんか話さなきゃならないんだろう。ココはカッコよくキメたい。こういったものはどこの国でも最初が肝心なのだ。が、ボクはもうすでに脳の疲労を感じている。がんばれDuran!!君の学園生活が始まるのだ!!!
てなわけで、今回はここまで。 See you next time.
<文/開成教育グループ 個別指導部フリステウォーカー講師編集部:藤本憲一(Duran)>