2021/04/19

Duranの留学記【第6話】

Hello there. Duran is ready.

Scene 6 "This is America"

Characters

Duran =日本からの留学生。17歳。詳細は不明。
Nicole =女生徒。年齢・学年不明。可愛い。セクシー系。
Man  =腹話術の人形系。学内書庫の書士。
Diana =4・5話に登場。女生徒。年齢・学年不明。可愛い。優等生系。



ボクは学内書庫の扉を閉めた。ふと、思い出した。

(あっ、どこに行けばいいんだっけ?)

うっかりと次の場所を聞き漏らしていのだ。ボクは部屋に戻ろうとした。すると、



"Hi, where are you going?"
(ハ~イ、何処に行くの?)



と、ソプラノの声がボクを覆うように降ってきた。



"Come on Stranger. I'll take you wherever you want. I'm Nicole"
(おいでよ、異国の人。私が何処へでも連れて行ってあげるわ。ニコールよ。)



(なんだ?誰だ?)

また違う女生徒がボクの前に現れた。しかも.........、この娘も可愛い!どうなっているんだこの学園?ダイアナもそうだが、美少女が多すぎないか?ボクはすぐに声が出なかった。



"Well? I heard you have no time."(Nicole)
(あらっ、あなたには時間が無いって聞いていたんだけど?)



彼女はボクから書付を取り上げた。



"Oh, you have to go to the Security Room. Okay, I'll go with you."(Nicole)
(ふ~ん、警備室ね。いいわ、一緒にいってあげる。)



彼女はボクの腕を取ると、強引に腕を組むようにして歩き出した。



"OOO, Nice to meet you. But, www...、who are you? "(Duran) (最悪!)
(あああーと、初めまして。いや、あの、君は誰?)

"Didn't you hear me? I'm Nicole."(Nicole)
(聞いてなかったの?ニコールよ。)

"I don't want your name" (Duran)(もっと最悪)
(いや、名前が欲しいんじゃなくてさ。)

"Well then, what do you want?"(Nicole)
(あら。じゃあ、なにが欲しいの?)



だめだ!意思の疎通などできやしない。だいたいこの娘、絶対にボクをからかって楽しんでいる。今日のボクには女難の相でも出ているのか?購買部の女生徒、ダイアナ、そしてこのニコール。みんなすっごく可愛いのに、一緒にいてもからかわれるばかりである。

ニコールがじっとボクの目を見ながら小声で言った。



"Be a good boy in the security room, Duran."(Nicole)
(警備室ではいい子でいなさいよ、デュラン。)
"They have guns."
(銃を持っているわよ。)



なるほど銃ね...って、オイッ!そうか、ここはアメリカなのだ。学校であろうが警備員が銃を持つのはあたり前なのである。でも、なんか違う...



"Here we are. Get the No, right away, I'll wait here for you."(Nicole)
(着いたわ。さっさとナンバーを貰っておいでよ。私はここで待ってるわ。)



警備室には二人の警備員がいた(他は学校の見回りに出払っているらしい)。二人とも、それはそれは強そうなガタイをしている。生徒が何の用だ、というキツイ目付きだ。確かにホルスターから拳銃が見えている。学校で、銃...。ボクは急いで学内図書でもらった書付を渡した。二人の目が和らいだ。



"Good morning, boy. This is your No."
(おはよう、少年よ。これがきみの番号だ)

"The place is in the aisle opposite Room 105 in the West Wing"
(場所は 西棟の105号室の向かいの通路だね)

"Hurry up boy, you don't have enough time to the classes."
(少年よ、急げ。遅れるぜ)



言われなくても分かっている。ボクは"Thank you"とだけ告げて、部屋から出た。ニコールがちゃんと待っていてくれた。

彼女はまたボクと腕を組んだ。歩き出した。廊下は生徒でごった返していた。もう、すべてのスクールバスも到着しているはずだし、車やバイク、自転車や徒歩組も登校し終わった時間だろう。ニコールは彼女の友人たちからであろう、声をかけられる。



"Hi, Nicole. Who is he?"
(よう、ニコール。誰だい、そいつ?)



彼女は適当に返事をしているようだ。それにしてもカップルが多い。どのペアたちも人目を気にせず、イチャツキまくりやがっております。日本では考えられない風景だ。日本なら風紀指導の教員がすぐさま飛んできて、「まあ、なんざましょう!」と、どやしつけるに決まっている。ニコールがボクに聞いた。



"Is Japanese high school like this?"(Nicole)
(日本の高校もこんな感じ?)

"No, it's completely different."(Duran)
(いや、まったく違うね。)

"Oh, really? But, this is U.S, and you should know it."(Nicole)
(あら、そうなの。でもこれがアメリカよ。あなたはこれを知っておかなきゃ。)

"What do you mean?"(Duran)
(どういう意味だい?)

"Well, I think it's very hard to tell you about it right now."
(う~ん、今あなたにそれを伝えるのは難しいわね。)
"And I don't have the exact words."(Nicole)
(私にはいい言葉の持ち合わせが無いしね)



???...。まただ。この美少女隊はたまに訳の分からないことを言う...

気が付くともう、学内書庫に来ていた。ボクが扉を開くと彼女も中に入ってきた。腹話術の人形顔のおじさんがテキストを揃えて待っていた。



"Welcome back, Duran-san. Okay, well, here is your textbooks."(Man)
(おかえり、Duranさん。さて、と。これが君の教科書だ)
"Social Study, Literature survey, Chemistry, Algebra Ⅳ , and Journalism.
(社会学、文学研究、化学、代数Ⅳ、ジャーナリズム、だね)



B5のハードカバーの本が5冊、テーブルにうず高く積まれた。一冊一冊の分厚さに驚く。おじさんがさらに何か言おうとするのをニコールが遮った。彼女は二言三言おじさんに話しかけ、おじさんがにっこりと笑った。



"Okay, Duran-san. I'll leave the rest to her, then"(Man)
(それではデュランさん、あとは彼女に任せるよ。)
"Have a good stay and see you sometime"
(良い滞在を、そしてまた会いましょう。)



彼女はボクに本を持つように促すと、すぐに部屋から出た。

"He talks for a long time once he talks. OK, let's go!"(Nicole)
(彼は話し出すと長いのよ。これでいいわ。行きましょう!)



確かにホームルームまであと10分程である。急がなきゃ。歩きながら彼女はテキストについての説明を始めた。



"You are an academic course in liberal arts, right?"
(あなたは文系の大学進学コースなんでしょ?)
"He thought you should start from these on."
(彼はここら辺りから始めるといいと思ったようね)



(あのおじさんがボクのカリキュラムを決めたってことか...。)



"But you can change your subject at any time."
(でもね、あなたはいつでも教科の変更が出来るのよ)
"Talk well to your teacher and make changes."
(担当の教師とよく相談してから変更してね)



変更ってなんだよ?それに教科書が5冊だけって、よく考えると少なくね?でも問いかける雰囲気じゃないし、時間もない。そもそも疑問文が作れん!ボクはただ頷いた。彼女は噛んで含めるような口調で続けた。



"I'll tell you something what you shouldn't do."
(あなたに注意点を伝えておくね。やっちゃいけないことよ)
"All these books are for rent, I mean these are not yours."
(これらは全てレンタル。つまりあなたのものでは無いの)
"So, never scribble or underline on them."
(だから、落書したり、アンダーラインもしちゃだめだよ)
"All these books will be returned to me at the end of the class."
(すべての本は授業の終了と同時に、返却しなきゃいけないの)



教科書がレンタル!ここでも義務教育の無償化が...。しかしこれでは、ザビエルの顔に落書が出来ないじゃないか!ま、いいけど。でも彼女、日本はレンタルシステムではないことを知っているみたいだな...?



"Could you catch me? If you ruin, you have to buy a new one and donate."
(ちゃんと聞いてる?もし教科書になんかしたら新しいのを寄付しなきゃならないのよ。)



なるほど...。最後の単語が分からんが、まあ、意味は理解した。ボクは再び激しく頷き返した。



"Let's put all the books in your locker quickly and move to your room."
(さっさと教科書は全部ロッカーに仕舞い込んで、あなたの部屋に行きましょう)



ガシャン!と、ロッカーにテキストを放り込んだボクはニコールに向き直った。

「ふうっ!」と、日本語で言って、笑った。



"Oh, you have a perfect smile, you have to remember it!"(Nicole)
(あれっ、いい笑顔するじゃないの。それ忘れちゃだめよ。)



ん?なんか褒められたな。ニコールがじっとボクを見ている。う~ん、いいシーンだ。映画のようだ。ニコールがチラリと時計を見た。



"I'm sorry, I don't have time just as you don't."
(残念ね、あなたには時間が無いように私にも無いの)
"I just give you a couple of advices."
(アドバイスだけするわね)



あれっ?こんなこと前もあったな。そうだ、ダイアナも同じことを言ったよな?



"The First, feel America. America is a country of immigrants."
(第一、アメリカを感じなさい。アメリカは移民たちが作った国なのよ。)
"The second, nobody thinks you are Japanese."
(第2、誰もあなたを日本人だとは思ってないの。)
"The third, ...."(Nicole)
(第3.........。)



彼女はここまで言うと、言い淀んだ。



"You were insanely busy today, right?"(Nicole)
(あなたは今日、ここまで異様に忙しかったわよね?)

"Yes......???"(Duran)
(うん???)

"There was a reason for it."(Nicole)
(それには理由があるの。)

"えっ、Why? What?" (Duran)(←思わず日本語が出た。Whatでしょう、ここは)
(えっ、なぜ?なんの?)

"Ummmm, I can't say any more."(Nicole)
(う~ん...、これ以上は言えないわね。)



なんじゃそりゃ?言えないってなんだよ?理由ってなんだよ?確かに渡すモンがあるなら全部まとめて一か所でやらんかい、とは思ったが...。合理主義のアメリカらしくないとも思ったが...?



"Good luck, Duran. Bye now. I bet you we'll meet soon"(Nicole)
(幸運をあなたに。今はサヨナラ、ね。私たちはすぐ会うことになるから。)



ニコールはボクに強めのハグをすると、足早に去っていった。ボクは彼女の感触に、映画のワンシーンを感じながら、彼女の後姿に力なく手を振っていた。

彼女はまた、ダイアナと似たようなことを言った...。いつ会うんだよ?どこで会うってんだよ? 会いたいけど...Oh!Nicole──!!!!!!!!!

───ふと、現実に帰った。そうだ、これから僕はいよいよホームルームの部屋に入るのだ。ちょうど時計は5分前を指している。ボクは部屋の位置を確認するとトイレに向かった。鏡を覗き込む。

(うん、イケてる!)

前回も書いたが、やはりこういうものは最初が肝心なのだ。

英語が話せない? 関係ないね!

聞き取れない?  関係ないね!

パフォーマンスは即興・即演である。こう見えてもボクは、中学時代からライブハウスに出ていたのだ。緊張などとは無縁である。


さて、やる気に満ちたDuranのパフォーマンスはアメリカ人に通じるのか?Duranはなにを話すことになるのか...?

今回はここまで。 See you next time!

<文/開成教育グループ 個別指導部フリステウォーカー講師編集部:藤本憲一(Duran)>