2021/05/24
Duranの留学記【第7話】
Hello there, Duran is talking to you.
Scene 7 Am I an American?
(これが日本の場合だったら...)
自分を鏡に映しながらボクは空想した。日本ならこんな感じだろう。
朝の騒がしい教室。担任教師と入ってくる外国人転入生。わざと厳かに教師が言う。
「は~い。みんな、静かに!今日は珍しい転入生を連れてきたぞ。アメリカから来た、ジョン・レノン君だ。みんな、仲良くするように。ジョン君、みんなに一言挨拶を」
「こんにちは。ボク、ジョンだよ。よろしくね!」
うん。こんな感じだ。が、さすがはアメリカ。今、僕は一人である。生徒を甘やかしてはくれないのである。これまでもさんざん校内を歩き回らされた。多少、美少女隊に助けられたとはいえ、ボクは見事にここまでしのいできた。
(さて、本番だ!)
ボクはトイレから出るとドアノブを強く握り、大きく開いて中へと飛び込んだ。
「えっ!!!んっ???」
禁断の日本語が出た。我と我が目を疑った。
――― 教室には、誰もいなかったのである。
一瞬、時間が止まった。が、すぐに、
(しまった!!教室を間違えた!?)
と、思った。ボクはすぐさま外へ出でドアのナンバーを調べた。
(NO、115...、合ってる!)
そりゃそうだ。ニコールがここまで連れてきてくれたんだ。
ボクは時計を見た。ホームルームの時間まであと少しなのに誰もいないって...?
(どういうこと?)
もう一度廊下に出た。もう一度ルーム・ナンバーを見た。折りたたんであった、ボクのスケジュールの紙(カウンセラーがくれたヤツね)を見た。全部が、ボクは正しい時間に正しい場所に居ることを示している。ボクは混乱した。で.........、
(ふて寝してやる!!)
気合を思いっきりスカされた感じがした。
(記述ミスかなんかは知らないが、部屋番号なんか間違えるんじゃないよ、まったく)
それ以外考えられない。当然、ボクは悪くないのだ。
ボクはもう一度部屋に入り、隅の後ろから2番目の席に陣取った。いちおう、一番後ろは避けた。一番後ろの席がラスボスのような奴の指定席だったら、後々厄介である。日本人の気配りだよね。
(きっと、誰かがボクが何処にもいないのに気が付いて、迎えに来てくれるだろう)
そうも思った。が、まさか本気で寝るわけではない。椅子と一体型になった机に突っ伏しての狸寝入りである。だってさ、仮にカウンセラーやほかの先生の処に引き返して、他の部屋に行ってたとしても、もう遅刻確定である。そんな登場の仕方をするくらいなら、初日はいないほうがよろしい。だいたい、あっちこっちを彷徨い歩かせて、最後に部屋番号を間違えるとは何事かい!ボクは怒ってもいたのだ。が、その時、
"Do you want to know something?"
(いいこと教えてあげようか?)
"No one has come yet."
(まだ誰も来ないわよ)
と、甘い声音が聞こえてきた。
顔を上げると、見慣れぬ美少女がドアのところに立っている。ダイアナともニコールとも違う。ミュージシャン系美少女だ。今日、初めてオシャレな女の子を見た。
(いいことって?誰もこないって?)
"Who are you? I, Oh, Hello. I mean, what do you mean by that?" (Duran)(←最悪)
(君はだれ?いや、こんにちは。それって、どういうこと?)
"Hi, I'm Avril. No one will be in this room until the last minute. So." (Avril)
(ハ~イ、アヴリルよ。誰も時間ギリギリまでこの部屋には来ないわ。だから...)
(だから、なんだよ?なんかするのか?早いよ、話が。もう、なんでこの美少女隊、みんな訳の分からん事ばっか言うんだよ~!)
"Oh, I forgot I had to speak slowly."
(あっ、ゆっくりと話さなきゃいけないの忘れてたわ)
彼女はクスっと笑って、小さく舌を出した。う~ん、可愛い!
"Listen. You and I have to do a lot in this room."
(聞いて。私とあなたはこの部屋でいろいろやることがあるの)
(部屋はここで合ってたんだ。しかし、いろいろって、なんだよ?聞き間違いか?よく分からん!期待していいのか?まあ、とにかくこの娘は同じクラスのようではある)
ボクがあまりにも複雑な表情をしていたのだろう、彼女は吹き出した。
"Ha-ha. Oh, sorry about that. But, your face is so so...."
(アハハ。ごめんなさい。でも、あなたの顔って、そのぉ...)
彼女は時計を見ると真顔になった。時間が無いと思ったのだろう。
"We're going to have a Morning Messages on the air here from now."
(私たちはこれから放送で朝礼を聞くの)
"It's okay cause they say nothing much.
(大丈夫。大したことは言わないから)
(朝礼が放送?教師は来ないのか?ボクの紹介は?いや、そんなことよりボクのクラスメイトへのスピーチは?)
疑問はあれこれ浮かぶのだが、聞いている時間なんか無いことは分かる。ボクはもう、ひたすら黙って彼女の次の言葉を待った。彼女は矢継ぎ早にボクに注意点を伝えた。
"Classes will start as soon as the broadcast is over." (Avril)
(放送が終わったらすぐに授業が始まるの)
"You have to start moving immediately. You have just 3 minutes."
(すぐに移動を始めてね。3分以内よ)
"Move? 3 minutes?" (Duran)
(移動?3分?)
"That's right. Unlike Japan, students move from one classroom to another." (Avril)
(その通り。日本と違って生徒が教室を移動するのよ)
"You should be careful, if you're late you won't be able to enter the room."
(気を付けた方がいいわよ。遅れたら入れてくれないから)
"Be sure to get a 'pass' if the teacher made you late."
(教師があなたを遅れさせたら必ず「PASS」を貰うのよ)
「PASS」がなんなのかは分からんが、まあざっとは把握した。たしかスケジュールの紙に全て教室番号が書いてあった。そこに行って授業を受けろということなんだろう。彼女は強弱をはっきりとつけながら話してくれるので、言ってることが分かりやすい。スピードよりも強弱の重要性に気付かされる。彼女の熱心なアドバイスにお礼を言わなければ。
"Thank you for telling me various things, Avril." (Duran)
(いろいろ教えてくれてありがとう。アヴリル)
"You are a really kind girl." (←子供か?)
(君って優しいんだね)
"Oh, thank you. But I'll wait for your different word." (Avril)
(あら、ありがとう。でも、この次は違う言葉で褒めてね)
アヴリルはニッコリと笑った。そして時計を見ると両手を広げて言った。
"Now, all your friends are rushing into this room!" (Avril)
(さあ、友人たちがこの部屋にドッと押し寄せるわよ)
彼女が言い終わるのを待っていたかのように、ドアから生徒たちがなだれ込むように入ってきた。30秒前である。
(こいつら、教室で時間をつぶすということはしないのか?)
そういえば、ここに到着するまでに廊下やあちこちに屯(たむろ)している生徒たちを目撃していた。もちろんカップルたちも。
ようやく分かってきた。彼らは教室を待たないのだ。つまり〇年〇組、というものは存在せず、この部屋も朝礼を聞くために集まっただけなのであろう。だから朝礼が終わればさっさと移動してしまう、仮の居場所にすぎないのだ。
(これは面白い。どう管理しているのかは知らんが違うシステムがあるのだろう。それに生徒にとって、クラスに所属という概念や現実が無いのなら、いじめ問題なんかも日本に比べて著しく少ないのでは?)
なんてことを考えていると、「チャンカ・チャン・チャン・チャン・チャ-ン」とNational Anthem(アメリカの国歌)がけたたましく流れ始めた。全員が立ち上がり、心臓の処に手を当てる姿勢をとった。ガラの悪そうな、絶対にルールなんか守るもんか、との決意が顔に出ているヤツもそれをやっている。TVや映画で見ている通りである。これも考えさせられた。
(日本では、「君が代」だよな。う~ん...)
放送はなにを言っているのかさっぱり分からなかった。相手の顔が見えないと、こうも分からないのかと愕然(がくぜん)とした。ラジオの方がTVよりも分からない理屈である。アヴリルが言った。
"Now it's time to leave." (Avril)
(さあ、出発する時間よ)
どうやら終わったらしい。(←気づけよ)
"I know I should follow you." (Duran)
(ボクは君について行けばいいってワケだね)
アヴリルがまた微笑んだ。可愛い!うん、映画みたいだ。ボクは言った。
"I want to talk with you a little bit more." (←かなり頑張った)
(君ともう少しだけ話がしたいな)
彼女はじっとボクを見た。しかし、淡々と言った。
"Oh, really. I'm sorry, but my class is different from yours." (Avril)
(あら、そうなの。ごめんなさい、私はあなたとは違うクラスなの)
"What?" (Duran)
(なんですと?)
さっき考察したばかりじゃないか、クラスなんか存在しないと。授業なんか一緒とは限んないんだってば!
しかし、彼女はすぐに去ろうとはしなかった。ボクの手を取った。
"Duran, I'll give you one question." (Avril)
(デュラン、ひとつ質問していいかしら?)
"Anything, please." (←がんばった) (Duran)
(なんなりと)
"From your point of view, do I look American?" (Avril)
(あなたから見たら、私はアメリカ人?)
"?? Yes, of course." (Duran)
(??もちろん)
"I was just the same stranger as you last year." (Avril)
(私はね、去年まではあなたと同じ異邦人だったの)
"You are being seen now like I was last year."
(あなたは今、去年の私のように見られているのよ)
―――"Well, what are you talking about?" (Duran)
―――(え~と、なんのお話ですか~?)
こう言うのが精いっぱいだった。なんのことだか?アヴリルは続けた。
"It worked well for me, but how it works for you?
(私には良かったんだけど、あなたにはどうなのかしら?)
"Listen, you're an ordinary American to everyone."
(聞いてね、あなたはみんなにとっては普通のアメリカ人なのよ)
彼女はボクの手を力強く握った。
"Talk to everyone a lot without trying to hear."
(受け手になって聞こうとするよりも、みんなに沢山話しかけなさいな)
"Tell everyone about your current situation, Duran."
(今のあなたの現状を皆に話すのよ、デュラン)
彼女はボクの手を離すと、自分の手をひらひらと振った。
"―And, your first hour is Physical Education, so you should hurry up."
(―それと、あなたの一時間目、体育だから急いだほうがいいわよ)
ボクは思わず叫んだ。
"Avril!"
(アヴリル!)
しかし、彼女は可愛い笑顔と共に、ダイアナ達と同じようなことを言って去って行った。
"Don't worry. We can talk a lot the other day!"
(心配しないで。すぐにたくさん話せる日が来るから)
ボクは彼女の後姿に手を振り返した。
(せめて、どこに行って着替えたらいいのかを言ってから消えてくれ...)
See you next time.
<文/開成教育グループ 個別指導部フリステウォーカー講師編集部:藤本憲一(Duran)>