2021/06/21

Duranの留学記【第8話】

Hello there, Duran is talking to you!

Scene 8   Physical education

Characters

Duran=デュラン。日本からの留学生。17歳。4年制高校3年。詳細は不明。
Avril =アヴリル。7話に登場。女生徒。4年制高校3年。可愛い。ミュージシャン系。
Diana= ダイアナ。4・5話に登場。女生徒。年齢・学年不明。可愛い。優等生系。
Nicole= ニコール。6話に登場。女生徒。年齢・学年不明。可愛い。セクシー系。
Jeff = ジェフ。4年制高校3年。イケメン。アメリカ体育会系。

 

ボクは今、運動場にいる。普通の公立高校には考えられない、贅沢な天然芝のフィールドである。登校初日の語学力で、たった10分の移動時間で、ロッカールームからジャージを取り出し、更衣室までたどり着き、着替え終わってここに立っている。奇跡に近い所業である。だが、それと同時にボクは、得意の反芻から、美少女隊が何度もボクに伝えようとしていた言葉の真の意味を理解し終わっていた。

 

 

"Nobody thinks you are a Japanese."    (Nicole
(誰もあなたを日本人だとは思ってないの)

 

"You're an ordinary American to everyone."   (Avril
(あなたはみんなにとっては普通のアメリカ人なのよ)

 

 

これである。ボクは勝手に勘違いをしていたらしい。アメリカは『人種のるつぼ』と言われている。黒髪・黒目だろうと、ボクは彼らにとって「日本から来た転入生」ではなく単なる「アメリカ人の転入生」だったのだ。誰もボクが、「英語が話せない可哀そうなヤツ」とは思っていないのだった。そして、

 

 

"You are too expressionless, be willing to talk to someone. "  (Diana
(あなた無表情すぎるわ、自分から話しかけなさい)

 

"Talk to everyone a lot without trying to hear."  (Avril
(受け手になって聞こうとするよりも、みんなに沢山話しかけなさいな)

 

 

ここだ。ボクは「話したくても話せない、シャイないいヤツ」ではなく「話しかけて欲しくない、と他人を避けてるイヤなヤツ」だったのだ。ボクは他の生徒と目が合いそうになると素早く目を逸らしていた。アメリカは個人を尊重する国でもある。彼らは「あっ、こいつ今一人になりたいんだ」とボクのことを思うのである。放っとかれるワケだ。だた、もう分かった。あまり得意ではないが、そしてもちろん、まだ話せるわけではないが、ガンガンとコミュニケーションしてやろうじゃないの。

ちなみにアメリカのスケジュールは月曜日から金曜日まで同じである。したがって、ボクは体育がある限り、ずっと一時間目は体育なのだ。

さて、フィールドには30人ほどの生徒がいる。男子生徒ばかりだ。教師らしき男の姿も見える。その男の周りに数人、他の所に数人、とグループに分かれて始業を待っている。ボクはやはり一人である。しかし、目を伏せずに顔をあげて生徒たちをキョロキョロと見渡していたら、やはり向こうもこちらをチラチラと見ているのに気づく。ボクは目が合うたびに笑顔を返した。

(日本でコレやったら、絶対にヤバイ奴だと思われるよな...)

とは、思った。が、やはりその中の一人が話しかけてきた。作戦成功!である。

 

"Good day, isn't it?"
(いい天気だな)

"Yes, Yes, Yes. I think so, too."(最悪)
(うん、うん、うん。ボクもそう思うよ)

"Maybe, I've never seen you before. Stranger?"
(見知らぬ顔だね。転校生か?)

"Yes, right. But not exactly. I'm an exchange student from Japan. Duran"
(そうさ。でも、正確には留学生なんだ。日本から来た。デュランだ)

 

ボクは手を差し出した。

 

"Oh, really? That's great! Jeff."
(ほんとかい?すげえな。ジェフだ)

 

彼も手を出し、僕たちは握手をした。く~~、カッコいい~!映画みたいだ。

よく見るとこの男、かなりのイケメン。なんでボクが会話する生徒はこんなに顔がいいのだ?カールした髪もカッコいい。上半身がかなり鍛えられているのが分かる。

ボクは「英語が話せない」だの「友人がほしい」だの言いたいこともあったのだが、いきなりもなんだし、当面の質問をした。

 

"So, what'll be happened now?" (Duran)
(それで、今から何をするのかな?)

"Football, I mean American Football. You know it, do you?" (Jeff)
(フットボールさ。え~とアメフト。知ってるだろ?)

"I don't know.... I don't even know the rules at all." (Duran)
(いや、知らん...。ルールすらよく分かんないよ)

 

ジェフは驚きの目でボクを見た。そうなのだ。アメリカ三大スポーツ(野球・バスケ・アメフト)のひとつ、アメフトをボクはこの時ほとんど知らなかったのだ。

実はボクはスポーツにはちょっとばかり自信があった。それが、よりによってアメフトって...

 

"You said you didn't know Football, is that true?" (Jeff)
(アメフトを知らないって‥‥、マジかよ?)

 

ジェフは呆れた、というゼスチャーをした。ボクに何かを言おうとしたが、教師がそれより先に叫んだ。授業が始まるのだ。

 

"Jumping Jacks!!"
(ジャンピングジャックス!!(挙手跳躍運動!!))

 

生徒たちが一斉に、飛び跳ね始めた。どうやら準備体操らしい。うわさに聞いた、「ジャンピングジャックス」である。飛び跳ねながら、羽ばたいて、手を頭の上で打ち合わせる。なんとも奇妙な、体操である。

 

"Pushups"
(プッシュアップ(腕立て伏せ))

 

"Crunch"
(クランチ(上体起こし))

 

このローテーションが日本の「ラジオ体操」に相当するらしい。一年間、体育はこの準備体操から始まることとなる。

ローテーションが終わると教師がなにやら話している。よく分からんが、2チームに分かれて試合を始めるらしい。皆にベルトのようなものが配られた。ジェフが解説してくれる。

 

"Keep this on your waist."
(こいつを腰に巻いておくんだ)

"You shouldn't get hurt in a physical education class, right?"
(体育の授業でけがをしちゃまずいだろ?)

 

ベルトには30cmほどの左右二本のプラスティック・テープが、マジックテープで張り付けられている。どうやら本当にタックルすると危ないので、この工夫がされているらしい。タックルの時にはこのプラスティック・テープを掴むのだ。マジックテープが簡単にはがれ、はがされたヤツはタックルされたのと同じ扱いを受ける。

 

"Is it well done? So even girls can do it."
(よく出来ているだろう?女子でも安心さ)

 

とジェフ。なるほど、これならケガはないだろう。が、ボクにしてみれば、とりあえず、アメフトとはタックルのあるスポーツなことが分かった。束になった残りのベルトの横に、小型だがラグビーボール風のボールが見える。あれを使うのだろう。ボクは「ラグビーのようなものだろう」と考えをまとめて実戦に備えた。が、訃報がある。ボクはラグビーもよく分からないのだ。

 

(できれば、目立ちたいな......。いい意味で......。)

 

―――体育が終わった。ボク達は更衣室に帰ってきた。みなでシャワーを浴びるのだ。う~ん、アメリカン。見様見真似での実戦も終わった。結果はボクのいたチームの大勝利だった。で、ボクはというと...。

大活躍!!嘘ではない。2タッチダウン(6点×2)を取った上に、2インターセプト(敵チームのボールを横取りする)までやってしまっていた。実はボクは足がやたらと速いのだ。ジェフが興奮した感じでボクの処へとやってきた。

 

"Hey Duran, you did it!"  (Jeff)
(おい、デュラン、やったね!)

"I never thought you would be so rampage, I mean great."
(まさかお前があんなに大暴れと言うか、とにかくすげヤツだったとは)

"Because you gave me a good pass, Jeff." (Duran)
(君がいいパスをくれたからさ、ジェフ)

 

ジェフはクオーターバック(司令塔)のポジションだった。彼は試合中もやった、ハイ・タッチを再度ボクに振ってきた。そして、真顔で言った。

 

"Listen, Duran. I'm a vice captain of our team." (Jeff)
(聞いてくれ、デュラン。俺は俺たちの(学校の)チームの副キャプテンなんだ)

"So, why don't you join us?"
(だからさ、一緒にやらないか?)

 

いいシーンである。ここでボクは立ち上がり「もちろんさ!」ともう一度、固い握手をするはずなのだ。が.........、

 

 

(副キャプテンって、さっきの?いつ決まってたんだ?キャプテンは誰だったんだよ?チームって、次の体育で変わるんじゃないの?)

(Why don't you join us? ってなんだよ?「なぜ、お前は参加しないんだって?」ボクはさっき活躍してたじゃん?WhyにはBecauseで答えるのか?なんて?ジェフって顔はカッコいいけど、体育バカか?)

 

 

情けないがこの時、ボクはこう考えていたのだ。Why don't youが誘いのフレーズだとはつゆ知らず、困惑した顔でボクはこう言った。

 

"I'm sorry, I don't know."  (←最悪)
(ごめん。なんのことか分かんない)

 

ジェフは僕よりさらに混乱した。

 

"Why, Oh, don't worry you can learn the rules immediately." (Jeff)
(なぜだ?いや、心配するな。ルールなんかすぐに覚えられるから)

"No, it's not so easy to learn the rules by tomorrow." (Duran)
(いや、明日までにルールを覚えるなんて簡単じゃないよ)

"Who said you by tomorrow?" (Jeff)
(誰が明日までって言ったんだよ?)

"Cause we'll have another game tomorrow." (Duran)
(だって、明日また試合するじゃん)

"We have no plans for a game!" (Jeff)
(そんな予定なんかない!)

 

 

僕たちは不毛な会話を延々と続けることとなった。みなさん、英会話、勉強しておこうね。

See you next time!!

 

<文/開成教育グループ 個別指導部フリステウォーカー講師編集部:藤本憲一(Duran)>