2021/12/20
Duranの留学記【第13話】
Hello there. I'm here!
Scene 13: Get ready!
さて、3人の教師からの推薦である。一人目はすぐに決まった。数学(Algebra・代数)担当のMcDonald先生だ。現在「微積分」を教えてくれている。この教師、マジで「マクドナルド」さんなのだ。ウケた! 彼は最初の授業で、笑いながらボクにこういった。
"I'm not a hamburger chain store enthusiast somewhere." (McDonald)
(私はどっかのハンバーガーチェーン店の回し者ではないんだよ)
そして、こうも言った。
"You're amazing. I have nothing to tell you!" (McDonald)
(キミ、すごいね。私に教えることなんかないじゃないか!)
もちろんこれにはカラクリがある。ボクが凄いんじゃなくて、「日本の数学教育」が凄いのだ。簡単に言うと、日本の学生は「とんでもなく難しいことをやらされている」のだ。アメリカの数学の問題なんぞ、それこそ鼻歌交じりでできるランクだった。おまけに授業もテストも「電卓」の持ち込みが可。できないワケがない。
マクドナルドさんは二つ返事で引き受けてくれた。
"It may be the first skipping class from our high school. It's an honor."(McDonald)
(わが校から初の飛び級が出るぞ。名誉なことだ)
ちなみに彼のこの名前、『McDonald』の『Mc』、は「子ども・子孫」という意味である。したがってこの人の苗字は「ドナルドの子ども」という意味になる。これはMcCartney(マッカートニー:カートニーの子ども)、 McArthur(マッカーサー:アーサーの子ども)や McQueen(マックイーン:クイーンの子ども)と同じでけっこう種類があるらしい。この「子ども」という苗字には最後に付くバージョンもある。Son(息子)が最後に付くのだ。Johnson(ジョンソン;ジョンの子ども)、Davidson (ダビットソン:ダビデの子ども)、Jackson(ジャクソン:ジャックの子ども)などである。苗字に国情と歴史を感じる。
二人目の教師を悩んでいると、カフェテリアでアヴリルが話しかけてきた。
"You have to ask Peter about it. He's an expert of that kind." (Avril)
(ピーターのところへ行くべきよ。彼はこんなことのエキスパートよ)
確かにあの腹話術の人形顔、アヴリルにそんなことを言っていたような...。顔に似合わず、やり手なのかもしれない。
"I think that's a good idea. I will. Thank you so much." (Duran)
(それ、いいね。そうするよ。感謝感激!)
アヴリルは笑った。やっぱ、可愛い。今日もアイコニックな服装だ。
"You're welcome. I also have something to say to you." (Avril)
(どういたしまして。ついでに私にもあなたに話したいことがあるのよ)
"Oh, yeah? What?" (Duran)
(ふ~ん、なにかな?)
"It's okay after this series of things would be over." (Avril)
(この一連の出来事が終わってからでいいわ)
"I'm sure you're not in the mood like that right now."
(今はそんなムード(気分)じゃないだろうし)
そんなムードってなんだよ?はは~ん、ついに告白される日が来たか...。いや、アヴリルは確かに可愛いが、ニコールも捨てがたいし...、ダイアナも、やっぱりシンディも。いや、まだ会ってはいないが学校にはもっとすごい美女が...。
"You have to in a hurry, the time will be running out." (Avril)
(急いだほうがいいわよ、時間って有効に使わなきゃ)
アヴリルが冷たく言い放った。ボクは心の中の独白を読まれているような気がして、ややうろたえた。
"Yes, sir. I'll on my way."
(分かりました。今すぐ行きますです、はい)
しかし、なんやかんやと他人が自分のために動いてくれている。情報を提供してくれたり意見を言ってくれたりする。なんて、ありがたいことだろう。自分が頼りにならないこんなシチュエーションでは、なおさらの様に感じる。
"Come to me as soon as possible. (Peter)
ピーターは彼女にそう言ったはずだ。彼もボクを助けてくれるのだろうか。
ボクは学内書庫を訪ねた。
"Oh, Duran. What can I do for you?" (Peter)
(やあ、デュラン。今日はどうしたんだい?)
"How are you doing Mr. Peter? I have something to talk about." (Duran)
(こんにちは、ピーターさん。相談したいことがあって)
相変わらずの腹話術の人形顔である。彼は笑顔を絶やさない。どう見てもやり手には見えないのだが、机のネームプレートには『Dr. Peter Wolf』と刻んである。博士号を持っているのだ。う~ん、侮れん...。彼はおもむろに目を輝かせてボクに迫った。声が上ずっている。
"I knew you would come. What you want to hear is a skipping grade, right? (Peter)
(来ると思っていたよ。「飛び級」の件なんだよね?)
"Well, yes." (Duran)
(ああっ、そうです)
―――(来ると思ってたって?読まれてたのか?そもそも、いったいどうして?)
ピーターはそんなボクを無視して、しきりに頷いている。明らかに興奮している。
"Oh, yes. I'm right! I'm wise." (Peter)
(よし。当たったぞ。やっぱり私は賢い)
(な、なんなんだ、このオヤジ)
彼は矢継ぎ早に話し始めた。
"The fields of psychology and statistics are my specialty." (Peter)
(心理学や統計学は私の専門分野でね)
"I read your profile in Japan and thought it would be."
(君の日本のプロフィールを読んで、きっとそうだろうと思ったのさ)
満足そうである。明らかにボクの行動を読んでいたのだ。しかし、ボクのプロフィールまでさかのぼって考察しているとは...?「そうだ」ってなんだよ?ボクが「飛び級」を狙うだろうと考えていたってことか?
ピーターは力強い声で、手を降りまわしながら早口で続けた。
ピーター、そんなに早くしゃべるでない。聞き取れるワケ、ないじゃん!
"I have studied the Japanese system so I understand your position well."(Peter)
(私は日本のシステムを研究したので、君が置かれている立場をよく理解しているのだよ)
"I want to talk to you for a long enough but we don't have much time"
(キミとはゆっくりと話をしたいのだが、時間が無い。惜しいな~)
"Okay, let me help you. And let's process in order from the immediate future"
(いいだろう。力を貸そうじゃないか。目先のことから片づけていこう)
"But promise me. You have to take enough time to talk with me,"
(だが、約束するのだ。私と話す十分な時間を取るのだ)
"Now, you are worried about the teacher who will recommend you."
(いま、君は推薦してくれる教師の件で悩んでいるね)
ボクはピーターの勢いに飲まれて、激しくうなずいた。
"Oh, yes. I'm right! I'm wise." (Peter)
(よし。当たったぞ。やっぱり私は賢い)
"And, you have already chosen Mr. McDonald's. Am I right?"
(そして君はすでにマクドナルドさんを選んでいる。そうだろ)
ボクは無言で頷いた。
"Ahhh. I'm so wise!" (Peter)
(アハ~ッ!やっぱり私はすごい!)
"Okay Duran, I'll be the second one"
(OK デュラン。私が二人目になろう)
ボクは驚いた。
"You? But you don't teach me any subject, do you?" (Duran)
(でもあなたは何の教科も担当していませんが?)
"There is no problem at all!" (Peter)
(そんなことは全く問題などない)
"I am in a position to manage all subjects of all students!"
(私は全生徒の全教科を監督する立場にいるのだ!)
"Besides, one of the recommenders should have Dr."
(それに、推薦者に一人はDr.(博士号)がいたほうがいい)
これにも驚いた。このおじさん、後で分かったのだが数人の部下もいて、お偉いお人だったのだ。テキパキとした口調といい、まるで映画の中の影のフィクサーのようだ。う~ん、恐るべし。
"Another recommender would be Mr. Plant. Your chemistry teacher." (Peter)
(もう一人の推薦者はMr.プラントにしよう。君の化学の教師だ)
ガンガン決めてくる。淀みがない。
"Why is he? I mean is he also a Dr. or something?" (Duran)
(どうして彼なんですか?彼も博士かなんかなのですか?)
"No, definitely not. " (Peter)
(いいや、まったく違う)
"Then what?" (Duran)
(じゃあ、なんなんですか?)
"It because his wife is a Japanese." (Peter)
(彼の妻が日本人だからだ)
"――What?" (Duran)
(なんですと?)
"He loves his Japanese wife." (Peter)
(彼は自分の妻をこよなく愛している)
"Yes......" (Duran)
(はあ.........)
"So he should write good things in your testimonials" (Peter)
(だから君の推薦状にいいことばっかりを書くハズだ)
"・・・・・・."(Duran)
(おいおい、そんな理由かよ?)
"And your chemistry performance in Japan is perfect." (Peter)
(キミの日本での科学の成績は申し分ない)
"You should be a science student."
(キミは理系だろう)
初めて外した...。ボクはやがて、法学部へ進むことになる。
"No, I'm a humanities student." (Duran)
(いえ、ボクは文系です)
"What? Ummm. You are really interesting parson." (Peter)
(なんだって?う~む。君は実に興味深い)
"Make sure to have time to me."
(いいかい、私との時間を取ることを忘れずに)
ボクは書庫を後にした。
日本の学校には、彼のような役職は無い。やはり学校のシステムは日本のそれとは全然違うようだ。とにかく教育に多大な税金が投与されている。なんとなくうらやましい。
しかし、これで3人の推薦者は決まりそうだ。光が見えてきたぜいっ!
ボクは、意気揚々と次の教室へと足を速めた。
See you next time.
<文/開成教育グループ 個別指導統括部フリステウォーカー講師編集部:藤本憲一(Duran)>