2022/01/24

Duranの留学記【第14話】

Hello there. What's up today?

Scene 14: The night before.

Characters

Duran:デュラン。留学生。17歳。飛び級を狙っている。足が速い。

Plant :プラント。化学教師。愛妻家系。奥さんは日本人。

Peter :ピーター。学内書庫の書士。腹話術の人形系。Dr.で博学。

Jeff :ジェフ。イケメン。アメリカ体育会系。アメフト副キャプテン。

化学のプラント先生はピーターから話を聞いていたらしく、推薦状の件を快諾してくれた。彼はひとしきり自分の妻(日本人)が、素晴らしい女性であるかを語った後、自分の家に夕食を食べに来るよう招待してくれた。先生は言う。

 

"I know you're missing Japanese foods." (Plant)
(日本食が恋しいだろう?)

"I would like to appreciate you. I'm getting tired of American food." (Duran)
(ありがとうございます。アメリカ食に飽きてきたところだったんです)

 

が、こう言ったものの、実はボクは無いものを欲しがるタイプではないのだ。寿司が食べたいだの、天ぷらが...、なんて一年間ずっと思ったことはなかった。無いものは無いから考えたってムダなのである。ボクが日本食を食べたいと思ったのは、日本に帰って来てからだった。日本にはそういったものが当たり前のようにあるので、強烈に食べたくなった。もっとも、ボクが食べたくなった日本食は前述のような高級和食ではなく、「うどん」だったが。

 

 

さて、3人の推薦人が決まった。校長も当然のように協力してくれた。大急ぎですべての書類を送付すると、驚いたことに一週間もせずに返事が返ってきた。

 

"You passed the District Exam in the document review,"
『地区試験は書類審査で合格しました』

 

と書いてある。拍子抜けである。が、まあ合格だ。いいではないか。それに、どうせ本番は最終試験なのだ。こいつは厄介に違いない。なんせ、どんな試験なのかが皆目解ってはいないのだ。ピーターが八方に聞いて回ってくれたが、雲を掴むようだったらしい。そんなこんなの中、先方からの連絡でボクの面接相手がはっきりとした。ボクの相手は「ペンシルバニア州知事」らしい。そして、試験日も通知された。移動は...、飛行機らしい。さすが、アメリカ!

 

───試験前日の夜。電話が鳴った。

 

"This is Jeff. Stay home, I'll be there!" (Jeff)
(ジェフだ。家にいろよ。今から行くからな)

 

ジェフだ。この好青年は試験前のボクの緊張をほぐしてやろうということなのか、今から来るという。要件を聞く前に電話を切られたので何をしに来るのかは分からないが、まあこちらもやることも特にないし...。

ジェフがいつもの陽気な笑顔で現れた。家にズカズカと入り込み、キッチンのテーブルに座った。大事そうにブリーフケースを抱えている。ボクの顔を見るなりこういった。

 

"I was in time. I have something I want to give you." (Jeff)
(間に合ったぞ。お前に渡したいものがあるんだ)

 

ジェフはケースから、なにやら書類の束をうやうやしく取り出し、ボクの方にズッと押し出した。

 

"What is it?" (Duran)
(なんだ、それ?)

"Well, well, well. Guess what?" (Jeff)
(さ~て、さて、さて。当ててみな)

"I said 'What is it?'" (Duran)
(ボクが聞いているんだ)

 

ジェフは「会心の一撃!」といった笑みをした。

 

"These're signature activity forms for you!" (Jeff)
(これはお前の為の署名活動の用紙だ)

"Signature?" (Duran)
(署名...?)

"Exactly." (Jeff)
(その通り)

 

確かにおびただしい数の名前が書いてある。全部手書きだ。

 

"Signature, for what?" (Duran)
(なんの署名なんだよ?)

"Oh, how good you are, how nice you are, how proud you are as a friend..." (Jeff)
(そうだな...、お前がいかに優秀か、いいヤツか、仲間として誇れるか...)
"How clever you are, how reliable you are, and how rare you are."
(いかに頭がいいか、頼りになるか、どれだけ希少価値があるか、についてだ)

"Please stop! This is embarrassing. (Duran)
(頼む、やめてくれ!こっちが恥ずかしい)

 

ジェフは嬉しそうに続けた。

 

"These are from football, basketball and baseball."  (Jeff)
(これはアメフト部から、こっちはバスケ部と野球部から)
"I tried so hard. This is from cheerleading, and girls swimming club."
(苦労したんだぜ。これはチアリーディング部に女子水泳部だ)
"I have a lot more. These are ...."
(まだまだあるんだぜ、こっちは...)

What in the world you've done that thing?"  (Duran)
(なんでまたこんなことを?)

 

ジェフは不思議そうな顔をした。

 

"You asking me why? Didn't I say that 'Leave it to me'?" (Jeff)
(なんでって...。言っただろ、『オレに任せとけって』)

"That's not what I meant." (Duran)
(そういう意味じゃないんだ)

 

(どうもジェフとは話がいつもこんがらがる。落ち着こう)

 

"What do you want to do with it?" (Duran)
(それをボクにどうしろと?)

"Hand them to the examiner. There is no doubt you will pass." (Jeff)
(試験官に提出するんだよ。合格、間違いなしだぜ)

 

ボクはジェフの陽気さにあきれた。

 

"Thank you, Jeff. You're a good guy. I mean it." (Duran)
(ありがとう、ジェフ。君はいいヤツだな。本当にいいヤツだ)
"But then it won't be a real test."
(でもさ、それじゃあテストにならないだろ)

"Why?" (Jeff)
(なぜ?)

"Think about it, Jeff."  (Duran)
(考えてもみろよ,ジェフ)
"A guy who hasn't been in America for a month can't get this many people."
(アメリカに来てひと月もたたないヤツが、これだけの人数を集められるわけがない)
"Anyone can see that I depended on others."
(他人に頼った、ということが見え見えじゃないか)

"What's wrong with that?" (Jeff)
(それのどこが悪いんだ?)

"Don't you know it? This is your power, not mine." (Duran)
(分からないかな?これは君の力でボクの力ではない)
"I don't think it doesn't work my pass."
(そんなことで合格になんか、なりゃしないよ)

"You don't know it. I like you." (Jeff)
(分かってないのはお前だ。オレはお前が気に入ったんだ)

"Thank you, but..." (Duran)
(ありがとう。でもね...)

"Listen. You're a great guy."  (Jeff)
(聞けよ。お前は大したヤツだ)
"You came to America alone, even though you couldn't speak English at all."
(たった1人で、英語すら全くしゃべれないのにアメリカにやってきた)

 

ジェフの声音がいつもと違う。

 

"And now, with just one brain, you're fighting with 'skipping'." (Jeff)
(そして今、頭脳1つで『飛び級』なんてものに挑んでいる)
"Remember the spirit of challenge is the American spirit."
(覚えとけよ、チャレンジ精神がアメリカンスピリットさ)
"And that leads to the American dream."
(そしてそれがアメリカンドリームにつながるんだ)

"American dream..." (Duran)
(アメリカンドリーム...)

"Yes, American dream. And that's how our ancestors made America. (Jeff)
(そうだ。俺たちの先祖はそうやってアメリカを作ったんだ)
"America was created by non-Americans."
(アメリカはアメリカ人ではない者たちが創ったんだ)
"I witnessed it, watching you just in front of me."
(俺はお前を見ることでそれを目の当たりにしたよ)
"You are not an American, but you developed it right in front of me."
(お前はアメリカ人ではないが、オレの目の前でそれを展開してくれた)
"I couldn't help but be impressed."
(俺はさ、感動せずにはいられなかったんだ)

 

───なんか恥ずかしい。

(それって、買いかぶりすぎなんじゃあ...)

 

"You moved me. I moved by my own will and wanted to help you." (Jeff)
(お前は俺を動かした。俺は自分の意志で動き、お前を助けたいと思ったってことなんだ)
"And all the students thought I was right and cooperated."
(そして生徒のみんなは俺の言うことをもっともだと思い協力したんだ)
"I never forced anyone, I swear."
(俺は一度だって、誰にも強制はしなかったぜ)
"How is it? It wouldn't be strange to say that you did it."
(どうだ?署名活動は、お前がやったと言ってもいいだろう?)

 

なんかアオハル映画の会話シーンみたいだ。

どうしたんだ、ジェフ? 別人だぜ? しかし...、

熱いぜ、ジェフ。お前の魂、確かに受け取った!

 

"I really got it, Jeff, thank you."  (Duran)
(分かったよ、ジェフ。ありがとう)

 

ボクは手を差し伸べた。ボクたちは親指を握り合うような握手を交わした。ジェフは満足した表情で言った。

 

"Then I'm going home. Good luck tomorrow." (Jeff)
(じゃあ、俺は帰る。明日は頑張って来いよ)

"I will, leave it to me!"  (Duran)
(もちろんだ。任せとけって)

 

これは強がりではない。ボクはさっきのジェフの話の中に、大きな突破口を見つけたのだ。探しあぐねていた、パズルの最後の1ピースを見つけた気分だ。ジェフ、お前は本当にいいヤツだ。

 

(明日はこれで攻めてやる!)

 

ボクの胸は高鳴った

See you next time.

<文/開成教育グループ 個別指導統括部フリステウォーカー講師編集部:藤本憲一(Duran)>