2022/02/21
Duranの留学記【第15話】
Hello there. I'm close to you.
Scene 15: I've just done it!
AM:08:30 空港。
「海外の試験は面接で決まる」といわれる。「書類審査」と「面接」で合否が決まるというのだ。筆記試験はあまり行われないらしい。ボクは留学前からずっとこのことを考え続けている。このことが本当なら、今回の「飛び級試験」もこれと似た運びとなるはずである。フィラデルフィアまでの飛行機の中でもボクは、まだこれを考えていた。
───面接試験ではなにを問われるのか?
これである。相手はボクの英語力を知っているはずである。難しい質問をしても、答えられないことは分かっていると想像できる。例えば、
"State your findings on the ethnic, geographical, and political ties between the United States and Japan." (知事)
(アメリカと日本の民族的、地理的、政治的なつながりについての所見を述べよ)
なんて聞かれたところで(日本語ならともかく)、答えられるわけはない。"フリーズ" 確実である。しかし、例えば、
"Good day, isn't it? By the way, do you like American chicks?" (知事)
(いい天気だね。ところで、アメリカン・ギャルは気に入ったかい?)
などと聞いてくるはずもない。やはりメインは、
"Why do you want to skip the class?" (知事)
(なぜ君は、飛び級をしたいのか?)
これであろう。これに尽きる。あと、これに付随した質問をされることになるはずだ(雑談は別として)。
この問いに、いろいろと答えることはできる。しかしボクの場合この質問は、
"Why do you want to graduate from school?" (知事)
(なぜ君は卒業したいのか?)
と、いう問いと同じである。まさか、
"Of course, I like a diploma rather than a certificate of completion." (Duran)
(そりゃあ、修了証書より卒業証書が欲しいっしょ!)
なんて答えるわけにはいかない。当たり前である。が、なんといえばいい?何処にポイントをおいて答えればいい?自問自答は続いていた。
AM:10:00。フィラデルフィア着。
「君の為に」と知事は面接場所をフィラデルフィアにしてくれたそうである。が、ペンシルバニア州は日本の面積の約1/3である。ボクが住む大阪府の約200倍!全然、便利な場所ではない。まだボクの自問自答は続いていた。
AM:11:00。フィラデルフィア美術館前。ロッキー・ステップ。
映画「ロッキー」をご存じだろうか?あの主人公はロードワークの最後にいつも、この美術館の広い正面階段を駆け上がり、飛び跳ね、両手を高々と挙げ、太陽に向かって吠えるのだ。いいシーンだ。ボクは同じ場所に立ってみた。しばらくすると、本当に力がみなぎってきた。ようやくボクの考えはまとまったのだ。ジェフの言葉が大きくこだましていた。
PM:01:00。シティーホール。
目の前に知事(Dick)が座っている。黒縁メガネをかけた、いかにも、という弁護士顔の50男(推定)である。朗らかだがメガネの奥は笑っていない、そんな感じだ。彼は簡単に自己紹介をした。ボクは知事に「忙しいのにボクの為に時間を割いてくれたこと」をバカ丁寧に感謝した。すると知事はボクに「アメリカの印象」と「学校は楽しいか?」と簡単に聞いた後、核心に触れてきた。
"I heard your request." (Dick)
(君の希望は聞いた)
"What are you dissatisfied with the situation now?"
(今の状況に、なにが不満なのかな?)
「学校は楽しいか?」と聞いといて、「何が不満?」ってね~。まあ、この程度はやってくるわな...。
(さ~て、主導権を取ってやるぞ)
"I have no complaints about the current situation." (Duran)
(ボクは現状になにも不満はありません)
"What I am dissatisfied with is the Japanese system."
(ボクが不満に思っているのは日本のシステムについてです)
"Governor, do you know the fact that I have a repeat grade?"
(知事さん、あなたはボクが留年が決まっているという事実をご存じですか?)
知事は怪訝な顔をしてボクに「もう一度言ってくれないか?」と言った。
"As many times as you like. I will repeat a year when I return to Japan." (Duran)
(何度でも。ボクは日本に帰ったら留年するのです)
"I have to start over in my second grade."
(もう一度日本の2年生をやり直さなければいけないのです)
これには説明がいる。当時、ボクたち留学生のシステムは以下のようなものだった。日本で高校の一学期までを終え、(アメリカは9月が始業式だから)、アメリカへ行く。一年間の留学期間を終える。日本に帰ると、再び高校の2学期から日本の高校生活をスタートさせる。つまりアメリカでの一年間は、ノー・カウントなのだ。ひどい話である(現在はシステムが変更されており、ちゃんとカウントしてくれます)。もちろん全ての留学生はその条件を知っていて、留学試験を受けている。留年(実際には休学扱い)のリスクを負ってでもメリットを見出したものだけが、受験しているわけだ。しかし、なぜ、アメリカでの一年間をカウントしないのか?ボクは日本での試験の時に尋ねると、日本の役員の答えはすこぶるシンプルだった。「日本の教育の方が進んでいるからです」。事実、当時の日本の世界ランキング(高校生)は第一位だった。進んでいる、といえなくもない。
───ボクはこのことを知事に訴えた。語気を強めず。笑顔で。相手を引きずり込むように。できるだけ笑わせるように...。そして続けた。
"I think that learning methods such as active learning and service learning in the United States are much superior to Japanese style." (Duran)
(ボクはアメリカのアクティブ・ラーニング、サービス・ラーニングといった学習方法は日本式よりも優れていると考えています)
"But the Bright Japanese don't admit it."
(しかし、日本のお偉い方々はそれを認めようとはしません)
"Above all, is this meaningful year for me nothing?"
(なによりも、ボクのこの有意義な一年間は無駄なものなんでしょうか?)
"It is irresistible to be forced to repeat a year for that reason."
(そんな理由で留年させられるのはたまりません)
"So, I need your help."
(ですので、貴方の力が必要なのです)
つまり、ボクはアメリカ留学という「またとない就学機会」を得ることができたが、「留年」という無駄な一年も得ることとなった。ボクは、「ボクは全然そんなこと思ってないけど、アメリカ人は遅れた教育をやっていると日本人は思っているんですよ」と告げたのである。知事のアメリカ人としてのプライドを刺激してみたのだ。案の定、知事は言葉に力を入れた。
"You mean you don't want to go back to Japan?" (Dick)
(君は日本には戻りたくないと言うのかね?)
"Yes, I will. But I won't go back to Japanese high school." (Duran)
(いいえ、帰ります。でも、日本の高校には戻らないつもりです)
"If I can graduate from American high school, I will take American university entrance exam with that qualification,"
(もしアメリカの高校が卒業できれば、その資格でアメリカの大学を受験します)
"What are you going to study at an American university?" (Dick)
(アメリカの大学で君は何を学ぶ気なのかな?)
"I would like to see and learn with the eyes of young parson in a historic country how a country without history became the champion of the world." (Duran)
(歴史のない国がいかにして世界の覇者になったのか、を歴史のある国の若者の目で見て学びたいと思っています)
これも説明がいる。ボクが留学した当時、アメリカは間違いなく世界の覇者だった。が、そのアメリカに無いものがあった。それは「歴史」である。アメリカは、建国してまだ200年とチョットの国だったのである。それがアメリカ人の潜在的な恥部となっていることを、ボクはアメリカ到着以来感じていた。そのことを「厩戸皇子(聖徳太子)」風に言ってみたのだ。知事が厩戸皇子を知っているとは思えないが、こういった言い方が良いととっさに思ったのである。西洋の学問面接は「現時点」よりも「期待値」なのである。将来、こいつはどこまで化けるのかを観るのだ(と、ボクはあたりを付けていた)。
ボクはカバンからジェフの集めてくれた署名の用紙の束を取り出して知事に差し出した。
"This is a collection of my American friends who agreed with my thought." (Duran)
(これは僕のアメリカの友人が僕の意見に賛同してくれて、集めてくれたものです)
"He said he saw an American frontier spirit in me."
(彼は僕の中にアメリカのフロンティア・スピリットを見たと言いました)
"Next, your turn. Please help me."
(次はあなたの番です。お願いです、力を貸してください)
ボクはこれだけを言い切ると、じっと知事を見つめた。
───もうこれ以上は、無理だ.........。
面接試験。いくらなんでもボクの語学力で突破できるほど甘くはない。欧米は試験に厳しいのだ。普通に質疑応答されれば、必ず答えられなくなる。こちらが主導権を取って、必要なことを伝えてしまい、相手の反応を待つ。これ以外に手はない。実際、これだけ言い切ったものの、知事にはボクの意図が伝わったのかどうかすら解かりゃしない。そうだ、最後に一言、伝えておこう。
"Governor, sorry about my poor English." (Duran)
(知事、ボクの拙い英語を謝っておきます)
"I thought I received an advanced education for four years."
(4年間も「進んだ教育」を受けたハズなんですが)
"That's all I can talk."
(こんだけしか話せません)
"I hate Japanese English education."
(日本の英語教育なんか、大っ嫌いだ)
知事がついに笑い出した。そして、ボクの手を取って、大きく振った。
"Well, historic young man, Duran." (Dick)
(え~と、歴史ある若者、デュラン君)
"Congratulation, you have passed the interview test right now."
(おめでとう。君はたった今面接試験に合格した)
"Now, from this moment on, you can think you are in senior."
(今、この瞬間から君は4年生だと考えてよろしい)
───おいおい、即答かよ...。
"Oh, really. Thank you, thank you very much!" (Duran)
(ホントですか。あ、ありがとうございます!)
"As long as your wards were correct, yes." (Dick)
(君が私に嘘さえ付いていなければね)
"I found an interesting young man, for today."
(久しぶりに面白い若者に会ったな)
"I promise to do as much as I can,"
(私もできるだけのことをする、と約束しよう)
こうして、ボクの「飛び級奮闘記」は終わった。あっけなかったともいえるし、よく頑張ったという気もする。ちなみにこの知事が最後に言った一言は本当で、後にボクの処へ10を超す大学の、学長のサイン入りの「招待状」が届いた。これは「入学許可書」ともいえるわけで、テストは免除である。この中には世界ランキングBEST10の常連校も入っており、少なくとも入学はさせてくれるそうだ(西洋の大学は、卒業が難しいのだ)。
アメリカに来てひと月ちょいが過ぎた。一つ目の山を越した気がした。
See you next time.
<文/開成教育グループ 個別指導統括部フリステウォーカー講師編集部:藤本憲一(Duran)>