2022/03/22

Duranの留学記【第16話】

Hello there. This is the last gig!

Scene 16: Next door

Characters

Duran:デュラン。留学生。17歳。アメリカ高校4年生。

Peter:ピーター。学内書庫の書士。腹話術の人形系。Dr.で博学。

Jeffジェフ。イケメン。アメリカ体育会系。アメフト副キャプテン

Cindyシンディ。義妹、長女。17歳。日本大好き。品行方正系美少女。

Diana ダイアナ。17歳。勉強できる。優等生系美少女。

Nicoleニコール。17歳。セクシー系美少女。

Avrilアヴリル。17歳。ミュージシャン系美少女。

「飛び級試験」は終わった。今日から日常のルーティーンがまた始まるのだ。ボクは今、教室で朝礼放送が始まるのを待っている。あいかわらず誰も、ボクに話しかけてはこない。このクラスではまだ、友人らしき生徒が作れていないのだ。ここでは誰も、ボクが「飛び級試験」を受けたことすら知らない。だいたいこのクラス、ボクと同じ授業をとっている生徒がほとんどいないのだ。

 

───朝礼のクラスとはいえ、寂しいよな...

 

ボクはそんなことを考えていた。やはり、

「昨日の面接は...」とか「知事ってさ...」なんて、クラスメートと話がしたい気がする。

The Star-Spangled Banner(アメリカ国歌)が流れ、朝礼の放送が始まった。ボクは聞くとはなしに、ボーっと聞いていた。目の前で話してくれないと朝礼の英語は難しい。

 

"Duran! You made it!!" (メタル)
(デュラン。お前、受かったのか!)

 

突然、目の前のメタル系の生徒が振り向いてボクに大声で叫んだ。同時に数人が同じようなことを言った。

 

(なんだ、どうした? そういえば、なんかボクの名前が放送で流れていた様な、いなかった様な...?)

 

間違いない。今、朝礼放送で、全校生徒にボクの昨日のいきさつが告げられたのである。もう学校には、ボクが進級したという決定通知が届いていたらしい。

  

"Now, from this moment on, you can think you are in senior."
(今、この瞬間から君は4年生だと考えてよろしい)

 

という知事の言葉は嘘ではなかったのである。

 

"Congratulations!" "You did it!"  "I can't believe it!"
(「おめでとう!」  「やったな!」 「信じられん!」)

 

クラス中の生徒が、口々にお祝いの言葉を言ってくれた。当然、全種類は聞き取れていないが、まあ意味は分かる。ボクは次々に返答をした。

 

"Thank you."   "I did it"   "Believe it!"
(「ありがとう」 「やったよ!」 「信じろよ!」)

 

彼らの反応を見ると、どうやら多くの生徒はボクの試験のことを知っていたらしい。各クラスで教師たちが話をしていたのか、ジェフのおかげか...。そういえば、この中にはジェフの署名活動に協力してくれた生徒もいるのかもしれない。

  

(どこかで、なんとかして、みんなにお礼をしなきゃな)

  

ともかく、瞬間にして、ボクは朝のクラスの有名人になってしまった。これは嬉しい。すると、舞いあがってハイタッチを繰り返すボクにメタル系生徒が言った。

  

"You have to go to Mr. Peter when this morning view is over." (メタル)
(お前、放送が終わったらピーターさんの処へ行けってよ)

"Mr. Peter?" (Duran)
(ピーター?)

 

さすがにみんなとワイワイやりながら放送を聞くだけのヒアリング能力はまだ無かった。が、ボクは素早く考えた。

 

(そうか、ボクは今日から4年生だ。したがって、カリキュラムも今日から変更になるはずなのだ。ということは、この朝のクラスも変更になるんだ...。)

 

放送が終わるとボクはピーターのいる学校図書へと向かった。ピーターがいつもの表情でボクを迎えた。が、早口だ。

 

"Congratulation Duran. I knew you could do it." (Peter)
(おめでとう、デュラン。君なら、上手くやると思っていたよ)
"I had expected this to happen since I first organized your classes."
(最初に君の授業を組んだ時から、私はこうなることを予想していたのだ)

 

彼は明らかに興奮していた。そして、やはりこの言葉を言った。

 

"See, I'm right. And, I'm wise!" (Peter)
(思わないか、私は正しい。そして、私は賢い!)

 

(相変わらずだ、このオヤジ...。)

彼は続けた。

  

"From the beginning." (Peter)
(最初から)
"All of your classes are programed for senior. Am I wise?
(君の全授業は4年生用のプログラムにしてある。私は賢いだろ?)
"Well, I've made up grade one for you."
(さて、これが君の一ランク上のプログラムだ)

 

あいかわらず、話に淀みが無い。日本でこんな教師(教師といっていいのか?)は本当に見たことがない。ボクが呆気にとられているのを見て、それでもピーターは止まらなかった

 

"Physical education remains the same. It seems like you're having a good relationship with Jeff." (Peter)
(体育はそのままだ。ジェフとはいい関係なようだからね)
"And actually. The morning assembly room was also a room of senior's."
(そして、実はね。朝礼の部屋の生徒たちは、みんな4年生だったのだよ)

 

(予知能力かよ...)

 

全てが理解できた。この人、確かにすごいわ。自分の判断力に、ここまで自信が持てるとは!

 

───暇を見つけて、ちょいちょいココに来よう。この能力はぜひ学ばなければ。

 

この後ボクは校長、その後カウンセラーと話をした。二人とも喜んでくれた。校内放送を企画したのはカウンセラーらしい。彼らと話しながら、ボクは自分の英語力が確実に向上しているのを感じた。入学当初とはエライ違いだ。

 

───あとひと月もすれば、ネイティブになってんじゃね?

 

なんて、思う。まあそれは甘いのだが、国費留学は赤点(ランクF)を一度でも取れば、日本に強制送還である。4年生に進級したからと言って、喜んではいられない。

 

(キチンと頑張らないとな~)

 

いちおう、肝に銘じた。いちおう、ね。

 

午前の時間は、そんなこんなで終わってしまった。ボクはカフェテリアへと向かった。昼食である。フロアに足を踏みいれると、見慣れたフロアが今までと違う風景に見えた。理由は分かっている。ボクの気持ちが変化したからなのだ。大きな、大きな何かが始まろうとしている予感がある。

アヴリルが目ざとくボクを見つけ、ボクに隣に来い、というサインを送ってきた。そばにシンディや、ダイアナ、ニコールもいる。この4人、相変わらず仲がいい。そして可愛い...。特にアヴリルの今日のファッションはステージ衣装のようだ。ボクは先に「今日のセット」のトレイをカフェのおばさんから受け取って、ニコニコしながら彼女たちのテーブルに向かった。そりゃあ、顔もほころぶ。

 

(そういえばアヴリルはボクに「話がある」って言ってたな。なんだろう?)

 

テーブルに着いてみると、アヴリルが指さしていた席に、ジェフがしっかりと座っていた。ジェフは顔をくしゃくしゃにしながらボクに言った。

 

"You did it, Duran." (Jeff)
(やったな、デュラン)

"Thank you, Jeff. It's all thanks to you." (Duran)
(ありがとう、ジェフよ。全部君のおかげだ)

"Oh yes. All thanks to me." (Jeff)
(ああそうだ。全部オレのおかげだ)

ボクたちはニヤっと笑いながら、ハイタッチをした。そして、思いっきり笑いながらハグをした。

 

"Now, you can have a club. Running back in American football, Point guard in basketball, and Short-stop in baseball. I've decided that for a long time." (Jeff)
(さあ、これでクラブが出来るな。アメフトではランニング・バックだ。バスケではポイント・ガード、野球ではショートだな。俺はだいぶ前からそう決めていたんだ)

 

(相変わらずスポーツ一色だな、こいつ)

 

ボクは「とことん付き合ってやるよ!」と返事をしようとした。ところが...、ここまでじっと黙っていたアヴリルが突然、怒りの表情でジェフに吠え掛かった。

 

"Don't say such kinds of selfish words, stupid brain muscle!" (Avril)
(勝手なことばっかり言ってんじゃないわよ、この脳筋男!)
"Duran is going to play in the band with me."
(デュランはこれから私とバンドやるのよ)

"What?!" (Duran&Jeff)
(なんだって?)

"Hey, I told you I have something to talk to you before. You're good at playing the guitar, are't you? I heard from Cindy that you can make songs too. (Avril)
(ねえ、私は前からあなたに話があるって言ってたわよね。あなたギター、上手いんでしょう?曲も作れるって、シンディから聞いたわ)
"My band's guitarist is totally useless. And I also want to play original songs. Please!"
(私のバンドのギターって全然だめなのよ。オリジナル・ソングもやりたいし。お願い!)
"We're making our debut on Virgin Records!"
(ヴァージン・レコードからデビューするのよ!)

 

言葉が、出ない。ボクは何かを言わなきゃと、頭を巡らした。すると、その前にダイアナがテーブルを叩いて立ち上がった。

 

"Wait a moment. Don't let Duran in such an uncountable business." (Diana)
(ちょっと待ちなさいよ。そんな勝算のないビジネスにデュランを巻き込まないでよ)

 

ダイアナは真正面からボクを見た。自分の番だ、という顔だ。

 

"Well, I saw a Japanese animation 'Space Cruiser Yamato' recently." (Diana)
(ねえ、私、日本のアニメの『宇宙戦艦ヤマト』っていうのを見たの)
"All Japanese animations are very detailed and wonderful."
(日本のアニメって全部、すごく緻密で素敵だわ)
"It's definitely will make a big boom in the U.S."
(絶対にアメリカで、これから大ブームになるわ)

"What are you talking about?" (Avril)
(あなた、いったい何の話してるのよ?)

"I and Duran will build a trading company for Japanese animation goods." (Diana)
(私とデュランで、日本アニメグッズの貿易会社を作るのよ)
"Of course I am the boss. It's definitely profitable!"
(私が社長でね。絶対に儲かるわ!)

 

ボクはしばし、ボーゼンとした。

 

───コノコタチハ、ナニヲイッテイルノダ?

 

すると、悩ましい目でボクを見ながら、ゆっくりとニコールが両手で頬杖をついた。

 

"Talking about money, Ha? Duran, you want to enjoy America, don't you?" (Nicole)
(嫌~ね、お金の話なんかして。デュランはアメリカを楽しみたいわよね)

"What are you planning? (Avril&Diana)
(あなた、何を企んでるのよ?)

"Nothing. But I'm interested in what called Japanese Idols." (Nicole)
(なにも。でもね、私は日本のアイドルってのに興味があるの)
"I need Japanese for to be an Idol, right? Teach me young Japanese, Duran"
(アイドルになるのに日本語がいるでしょ?デュラン、私に若者の日本語を教えてよ)
"Anyway, you can teach me while dating every day."
(なんなら、毎日デートしながら教えてくれても、いいのよ)

 

(な、なんと魅惑的なお誘いを...) (デュラン)

 

しかし、ボクは返事が出来なかった。ボクのちょうど真正面にお座りになっているお方が、凄まじい怒気を発しているのを、ボクはだいぶ前から気付いていた。シンディだ。シンディは、最高裁判事が最も上品に、最も残酷な判決を告げるように話し始めた。

 

"What are you all talking about from a while ago? (Cindy)
(みなさん、さっきからなにを宣(のたま)っていらっしゃるのかしら?)
>"Do you all know where Duran is staying in?
(あなた方、何処にデュランが寝泊まりしているのか解ってらっしゃる?)

 

そして、上品はここまでだった。

 

"You all aren't just saying stupid things!" (Cindy)
(くだらないことばっかり言ってんじゃないわよ!)
"Duran will finish a dissertation on Japan for me."
(デュランは私の日本についての論文を仕上げてくれるのよ)
"I'm going to Harvard with it!!"
(ああ、ハーバードへの夢が広がるわ!)

 

ボクはあきれた。

 

(みんな~...、勝手だね...。)

 

"Do that by yourself!!!" (Jeff、Avril、Diana&Nicole)
(そんなこと一人でやりなさいよ!!!)
 

ボクはこみ上げてくる笑いを抑えるのに必死だった。なんかコメディ映画の1シーンのようだ。いいね~、最高だ。留学なんてこうでなければ面白くない!

 

"All right, all, right. I'll do everything you want!" (Duran)
(いいよ、いいよ。君たちの望みは、ぜ~んぶ叶えるさ!)

 

ボクは力強く言い放った。な~に、寝るのは3日に一回でよろしい。たった一年間の留学さ。

───留学なんてこうでなければ面白くない!

ボクはもう一度そう思った。

そして、もう一度この素晴らしい仲間たちの一人一人を見た。

ジェフ

アヴリル

ダイアナ

ニコール

シンディ

(ボクの方こそ、最後まで付き合ってもらうぜ)

血が、逆流するかのように身体を巡るのを感じる。震えた。そうさ、最後の一日まで、君たちと一緒にトップスピードで駆け抜けてやる。ボクの留学は、まだ始まったばかりなのだ。

この時、ボクはまさに、未来へのもう一枚のトビラを開こうとしていたのだった。

See you sometime. Bye Duran.

<文/開成教育グループ 個別指導統括部フリステウォーカー講師編集部:藤本憲一(Duran)>