2022/10/31
学部の違いって何?「生命・農学系学部」
大学の学部選びにおいて、その学部に入って何を学べるかというのは重要な要素です。 しかし、○○学部という名前からだけでは具体的な内容が分からないことも多く、一口に○○学部といっても大学ごとに学べる内容やカリキュラムが異なり、混乱する方が多いと思います。
そこでフリーステップでは、さまざまな大学の似た系統の学部に所属している講師による座談会を開催しています。今回は名前からは全く想像のつかない「生命・農学系学部」の様子をお届けします。
通われている学科ではどのようなことを学び、今後研究されていくのですか?
泉田)私が通っている学科は微生物について学び、研究する学科です。卒業研究で微生物について研究できるようになるために、高校生物から学び直し、細菌や真菌、ウイルスを含めた様々な微生物について、分類や生態を学び、授業でさまざまな実験を行いました。植物に影響を与える微生物や、食品を作るうえで関わる微生物について研究する研究室がありますが、私は微生物が動物に与える影響についてこれから研究したいと考えています。
大熊)私が所属している学科は緑地環境科学類という名前の学科です。「緑地」というのは海や川、森林などを含む言葉です。土や水、植物、昆虫、気候などの緑地に関わるもの全てを学問として学び、研究する学科です。サツマイモなどの品種を作る研究や、動植物の保全を行う研究室、都市の作り方や計画を行う研究室があります。それらの研究の基礎を学ぶために、構造力学や動植物の生態学など幅広く学びました。私は、水に関する研究室に所属し、そこでは灌漑についての研究や、農作物の水分不足を検知するシステムについて、研究がされています。
小野寺)私は獣医学科に通っています。大学1,2年生は動物の体について広く学ぶために、動物の構造について学ぶ解剖学や、少しミクロな視点で動物の器官や組織について学ぶ生理学、よりミクロな視点で細胞や分子の働きを学ぶ生化学について勉強しました。私は栄養学研究室という研究室に所属していて、そこでは動物が摂取した栄養が体内でどのように変化していくのか、動物の健康について、摂取した栄養がどのように影響するのかを研究しています。同じ研究室の中でも扱う動物が猫、豚、牛などさまざまですが、私は乳牛について、より牛乳の生産性を上げるための研究をしています。
吉野)大学1,2年生は農作物に関しての実習を多く行いました。その後、品種改良の方法や、植物の性質、植物に必要な栄養についてなど、農作物や園芸植物、雑草について幅広く学びました。農作物だけでなく、チューリップなどの園芸植物について研究する研究室がありますが、私は植物病理学研究室に所属しています。今はイチゴの病原菌について研究していて、イチゴの病原菌の中で、農薬が効かない病原菌がどれだけいるのかを調べています。
座学とは別に、皆さんがこれまで行った実験や実習はどのようなものがありますか?
泉田)微生物について研究する手段を身につけるために、さまざまな微生物の培養法を学ぶ実験や、クロマトグラフィー(※1)などの化学的な分離方法を学びました。どの実験も、実際に扱う物質の量がとても少なく、丁寧かつ迅速に行わないといけないため、実験の操作が難しいですが、一番面白かった実験は大腸菌のDNA組み換え実験です。生物学に興味がある人のほとんどにとって、遺伝子の組み換えはかなり興味のある分野だと思うので、興味をもって実験できました。
大熊)私は緑地について幅広く実験や実習を行いました。土壌について調べる実験や、気象観測の実習があります。例えばサツマイモの実習では、実際に農場でサツマイモを収穫し、葉の数や重さなどのデータを集め、例年のデータと比較しました。一番面白い実習として、山や池に入って捕まえた動植物の同定(※2)を行う実習があったのですが、私は昆虫が苦手なので大変でした。アウトドアが好きな人や、生物が好きな人は楽しめる実習だと思います。
小野寺)これまでに解剖学、生理学、生化学の実習と、微生物や寄生虫についての実習をしました。例えば寄生虫の実習では、動物の糞から取り出した寄生虫の卵を観察しました。一番大変だった実習は解剖学の実習が体力的にも、精神的にも大変でした。1か月以上かけてビーグル犬の解剖をするのですが、犬の体の器官を1つずつ確認しながら行うので、時間がかかり、辛かったです。一番興味深かった実習は、寄生虫のアニサキスについての実習です。アニサキスをいろいろな液体につけて、死ぬかどうか確かめる実習なのですが、アニサキスはなかなか死なないので、食中毒になる理由がよく分かり、興味深かったです。
吉野)1,2年生で田植えや落花生の収穫など、農業のような実習を行いました。実習のほかに、今後の研究に備えて、細胞の観察や昆虫の観察をして、スケッチをする実験や、大学内の植物を使って、病気の判断をする実験を行いました。植物について幅広く実習をしたため、土壌など、自分の興味の薄い分野の実習は大変でした。一番面白かったのは、PCR検査をする実験です。DNAを抽出して、PCR検査を使って種の同定(※2)をする実験だったのですが、高校生物で習った内容を実際に経験できることが面白かったです。
今の学部・学科を志望された理由は何ですか?
泉田)中学生のころから生物学に興味があり、特に進化やDNAについて興味がありました。学校探しは母が手伝ってくれたのですが、自分が将来勉強したいことを母に詳しく伝えました。微生物は変異が起こる頻度が多く、進化をより学べると考えて今の学科に進学しました。今の学科は第2志望で、微生物以外の動物についても学びたいと考えていたのですが、入学後に全力で学んだ結果、「今の学科に通って良かった」と思っています。
大熊)私は元々経済工学部志望で、前期に経済工学部を受験し、後期に今の大学の学部を受験しました。入学前はあまり興味のない学科で、「本当にやっていけるか」と悩みましたが、大学の先生の授業を受けて、学生に対して熱意をもって教えてくれる先生に出会い、結果的に「今の大学に通って良かった」と思うようになりました。それがきっかけで、今はその先生の研究室に所属しています。
小野寺)将来の夢として獣医さんになりたいと考えていたので、獣医学部を志望しました。獣医学部は大学ごとに「何の動物に強いか」が決まっていて、獣医さんになった後、畜産や町の獣医さんなど、関わりたい分野によって志望校を決めることが多いです。私は、獣医さんになった後の進路に迷っていたので、幅広い動物を扱える大学を志望しました。私の大学の学部は、研究室の数が他の大学に比べて多く、将来の選択肢が広がると思って進学を決めました。
吉野)農学部に興味を持ったのは中学3年生です。工場で植物を育てる水耕栽培の特集をテレビで見て農業のイメージが変わり、農学部に興味が湧きました。関西圏で農場を持っている、農業ができる大学を探して、オープンキャンパスに行きました。当初は水耕栽培に興味があったものの、今通っている大学では水耕栽培は研究できませんでしたが、同業を実践的に経験することができます。大学選びをする中で、最も興味のある水耕栽培から派生した学科を受験することで、納得して大学に進学できました。
終わりに
一口に農学部といっても、実際に農業をする学科だけでなく、微生物や気候に至るまで本当にさまざまな分野について学ぶ学科があるなと感じました。どの学部も名前だけから判断することは難しいと思いますが、一人で調べることも大変だと思います。農学部に興味があるけど、どの学科に行けば何ができるのか分からないという人は、ぜひフリーステップのチーフや講師を頼って欲ほしいです!
もう一つ印象的だったのが、泉田先生や大熊先生の、第1志望ではなかったけど通ってみて、楽しさに気がついたという点です。入学してみて、思い描いていた大学とは違うと感じても、入学後に興味が移り変わることもあるし、入った環境で全力で頑張るのが正解なのかな、と感じました。
<解説>
※1 クロマトグラフィー
複数の物質を含む混合物から成分を分離する方法の一つ。化学基礎で学ぶペーパークロマトグラフィーの他に、カラム、ガス、液体クロマトグラフィーなどの種類がある。
※2 同定
正体が不明な生物を、写真や図鑑の情報と照合することでその正体を特定、または新たに分類すること。
<取材・文/開成教育グループ 個別指導部フリステウォーカー講師編集部:岡市 紗典>
▼その他の学部についても下記タグ【学部座談会】からご覧いただけます▼