2023/06/19

本当に空は《青い》のか?──夏休みの自由研究のやり方・考え方

科学(サイエンス)には三種類ある。自然科学、社会科学、そして人文科学である。

 

自然科学は、いわゆる「理科」だ。物理学、化学、生物学、天文学......など、理科の授業で習うだろう。これは文字通り、自然に目を向け、観察し、実験することで世界の謎を暴こうとする学問である。

 

社会科学は、人間が生きる社会に着目した学問だ。法学、経済学、政治学などがそれにあたる。社会構造を解き明かし、どういう社会にすべきか探求する学問でもある。

 

人文科学──人文学ともいうが──は、人間個人の営み、人間が生み出すものに重点を置き、人間とは何かをつねに問うている。言語学、芸術学、心理学などがあって、驚かれるかもしれないが、哲学すら科学だとされることがあるのだ(ただし、このあたりの境界はあいまいだ)。

 

さて、今年の夏休み。自由研究で、何の科学(サイエンス)に触れてみようか?

▼index

世界は謎に満ちている

自由研究で《サイエンス》をやってみよう!

おわりに

 

世界は謎に満ちている


そもそも自由研究とは、あなた自身が疑問に思ったことをそのまま研究すればいい。

疑問なしに生きている、なんてことはあるまい。

 

仮想生徒A :「いや、そんなことないですよ」

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では、空が青い理由を知っているだろうか?

 

仮想生徒A :「太陽の光は七色で、波長の関係で青の光だけが反射するってやつでしょう?」

 

では、それはなぜなのだろう?

そもそも本当に光(可視光線)は七色なのだろうか?

パプアニューギニアのダニ族にとっては、虹は二色であるという。なぜなら、色を表す言葉(基礎語)が二つ──明るい・暗い──しかないからである。だから彼らにとって、空は青くないと言える。

 

仮想生徒A :「かといって、虹が白黒に見えているわけじゃないんじゃ?」

 

なるほど。では、絵の具を売っている画材店か、化粧品売り場に行ってみよう。たくさんの色が並んでいるはずだ。そしてその色は、たとえ似ている色だろうと、すべて違う名前がついている。あなたはそのすべての色を区別できるだろうか......?

さて、空は何色に見える?

 

そもそも──

人間は青色をどうやって認識しているのだろう。

私が見ている「青色」と、あなたの見ている「青色」は本当に同じ色なんだろうか?

待てよ、「色」ってなんだ? 「光」ってなんだ? 「見える」ってなんだ......?

 

仮想生徒A :「たしかに知りません。知りませんが、知らなくても生きていけますよ」

 

ではお答えしよう。今まで生きていた世界は、「知らなくても生きていける世界」なのだ。子どもの世界、護られた世界、狭い世界。だが安心してほしい。大人もそういう世界にいる。大人だって、知らないことばかりだ。知らないくせに、「知らない」ということを忘れて、分かったような顔をしているのである。

 

世界は謎に満ちている。自由研究は、あなたが世界の謎に対して向き合える、絶好の機会である。学問や、学問への架け橋となる疑問は、あなたを外の世界に連れて行ってくれるだろう。そしてその疑問は、必ずしも理科の教科書にあるようなものでなくてもよい。

 

大切なのは、普段の生活のなかで、何を「当たり前」だと思っているかに気付けるかだ。当然のように受け入れていることを、「そういえばどうしてなんだろう?」と考えてみることで、「当たり前」は「当たり前」ではなく、「解き明かすべき謎」になるのだ。

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自由研究で《サイエンス》をやってみよう!


仮想生徒A :「でもね、自由研究って、結局どうしたらいいか分からないんですよ」

 

では今から、簡易的に自由研究をやってみよう。

 

まず、サイエンスの基本を確認しよう。サイエンスの基本は、「問題提起」「仮説」「検証」「結論」というプロセスである。

 

問題提起しよう

あなたの周りに無数に浮かぶ謎の中からひとつを手に取ったなら、それを短い文で問いにしてみよう──「○○とは何か?」「△△が□□なのはなぜか?」

今回は、「人間はどういう色を《青色》を認知するのか」という問いを立ててみよう。

 

仮説を立てよう

問いを見つけられたら、その問いを解決するような仮説を立てよう──「○○の正体は●●ではないか」「△△が□□なのは▲▲のせいではないか」

 

仮想生徒A :「何を《青色》と認識するかは、国や言語で決まる......というのは?」

 

いい感じだ。それでいこう。

 

検証しよう

次に、立てた仮説が正しいのか、正しくないのか、それを確かめよう。

検証の仕方は、器具や薬品を使った実験、対象への注意深い観察だけではない。アンケート調査をするのも手だし、図書館や書店に行って過去の研究を調べるのもありだ。何か場所に関係する謎なら、現地にフィールドワークしに行こう。哲学や数学の謎ならば、紙とペンだけ使ってとことん理詰めで考えてもいい。

自分が検証すべき仮説に対して、適切な方法を選択しよう。植物の謎を解き明かすのに、町行く人にアンケートを取るのは正しくないかもしれない。

 

今回は、「色と言語」についての研究だ。さっそく航空機の予約をしてパプアニューギニアへ──というのは、難しそうだ。先人の知恵を拝借しよう。図書館で、「言語学」「認知心理学」といった学問分野の本を探してみることにしよう。

 

仮想生徒A :「図書館って本が多くて、どれ借りたらいいのか分からなくて」

 

そんなときは、図書館司書の方に「自由研究で、これこれこういう本を探しているんですが......」と訊いてみよう。そうすると、適切な本を調べてくれるし、他の図書館から取り寄せてもくれる。これはレファレンスといって、図書館員の仕事の一つなのだ。

本を読むときは、何冊か借りて読もう。少なくとも三冊は読んで、多角的に調べ物をしよう。

 

結論を出そう

本や、実験・観察によってデータが得られたら、そのデータから何が言えるのかを考えよう。この時、データを読み間違えたり、本に書いていないことから勝手に妄想を膨らませて全く関係ない結論を導いたりしないないように注意しよう。夏休みという短い時間に完璧な「答え」を出すことはできないかもしれない。けれども、自分なりの結論を論理的に導けたなら、それは素晴らしいことだろう。

結論からまた新たな謎が頭に浮かんでも、頭を悩ます必要はない。学問とは、そういうものの積み重ねなのであるのだから。

《青色》の結論を簡単に出すと、「サピア・ウォーフの強い仮説は否定されている。つまあり、何を《青色》と認識するかは、言語で決まるわけではないが、言語が大きな影響を与えている」となるだろう。

 

仮想生徒A :「さぴ......え? 何と言いました?」

 

詳しくは自分で自由研究してみよう。

 

おわりに

「ダニング・クルーガー効果」というものがある。物事をよく知っているときより、物事を少ししか知らないときのほうが自己肯定感が高い、というものである。あなたの周りに、何か知ったような顔をして、論破したがったり、知識ですらない雑学をひけらかしたりする人がいるかもしれない。そういう人は、意外と物事を知らないのだ。

 

この記事を読んだあなたは、「知らない」ということを知ったはずだ。あなた自身が「知らない」「分からない」と感じたことを、あなた自身が「じゃあどうしてなんだろう」と考えたり調べたり実験したりすることが重要なのである。そういうとき、本は必ず助けになる。あなたと同じような疑問を抱いた誰かが、それを研究しているかもしれないのだ。

 

学問とは、過去から未来に受け継がれていくものである。自由研究によって、学問のすばらしさ、科学の偉大さを感じてほしい。そしてその科学とは、身の回りにある科学とは、「理科」だけではない。自然・社会・人間──世界は謎に満ちている。そして今あなたは、ごく簡単にではあるが、その謎の解き方、近づき方を知ったのだ。

 

仮想生徒A :「でも、やっぱり自由研究って、めんどくさいじゃないですか」

 

なに? では、自由研究のテーマは決まったようなものじゃないか。

 

仮想生徒A :「なんですか? それは」

 

──なぜ夏休みの自由研究はめんどくさいのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

<文/開成教育グループ 個別指導統括部 フリステウォーカー講師編集部:仲保 樹>

<参考文献>

今井むつみ『ことばと思考』(岩波書店, 2010)