2020/12/21

Duranの留学記【第3話】

Hello there! Duran is talking again!

"Let's play."
(さあ、遊ぼう)

確かに神父さんはそう言った。playって?ボクは考えた。

(え~、playの意味は...、「遊ぶ」・ゲームなどを「する」・「楽しむ」...。あと、劇なんかを「演じる」ってのもあったな。何が起こるんだろう?)

0.2秒ほど熟考する間に人々が全員、立ち上がった。隣の人同士が手を繋ぎあった。目を閉じた。そして、神父が厳かに言った。

"Amen!"
(アーメン!)

皆が祈りを始めた。

(えっ?祈りって?なに?playのハズじゃ...?)あたりをキョロキョロ見回すボクに神父が小声で注意した。

"Close your eyes, Duran"
(目を閉じなさい、Duran)

ここまで読んだ賢明な読者諸氏はもうお気づきだろう。そう、神父さんが言ったのは、
"play(遊ぶ)" ではなく、"pray(祈る)" だったのだ。
当然Duranはそんな単語、知らん。こんなん教科書に載っているか~!?

その後、映画でよく見る情景が流れた。神父さんのありがたいお言葉、楽隊の美しい讃美歌合唱、一切れのパンとお猪口(おちょこ)よりも小さいグラスに注がれたワインを配られるシーンも、恐らく感動的だったことでしょう。しかし、その時のDuranには、ただのセピア色の無声映画のように流れていくコマゴマでしかなかったのだ...。リスニングに打開策を見つけたと思った瞬間、新たなる課題が目の前に立ちはだかった。

(これが日本民族が全員、苦手、とされている「L」と「R」か...。恐るべし)

と、民族性のせいにしてボクは考えた。
英語には日本語にはない発音がある。たくさんある。単語として考えたときに、例えば
"sea(海)" と "see(見る)" と "she(彼女)" とを聞き分ける、あるいは言い分けることのできる日本人はそうはいない、はずだ。 が、この問題はそう重大ではない。これらの単語は違う、別々の場面で使われることが多いので間違いも起こらない。
例えば、

"Sea went to the church."
(海は教会に行きました)

"Can you she the building over there?"
(あなたは向こうのビルが彼女りますか?)

などと相手に聞こえていたところで、こんな文章は文脈上、無いに決まっているのでほとんど問題にはならない。問題となるのはやはりアルファベットとしての「L」と「R」、「B」と「V」、そして、「A」と「U」などだろう。単語的には"light(光)""right(右)" "best(最高)""vest(チョッキ)" 、"bat(こうもり)""but(しかし)"などである。

いや~、これらに関しては大問題である。頭が痛い。早めに対策を立てなければならない。ボクは家に帰り着くなり我が愛するホスト・ブラザー達に非常招集をかけた。そして彼らにこう告げた。

"Please, help me.........."(Duran)
(今から、日本民族の誇りをかけた重要な実験を行う。君たちも覚悟して臨んでほしい!)

三歳(Jason: ジェイソン)と七歳(Kevin: ケヴィン)が来てくれた。ボクはまず先ほどの"play""pray"を発音してもらって、その違いを訊ねてみた。彼らはヘンな顔をした。そりゃそうであろう。日本人に「橋(はし)」と「端(はし)」の違いを聞くようなもの(?)であろうか。彼らは、日本人は「L」と「R」の発音の違いを聞き分けることができないことなど、知らないのだ。が、しばらく説明を続けているとKevinが反応をみせた。

"You mean you want to know the difference of the pronunciation between these two?
(要するに、この二つの発音の違いを知りたいってこと?)

"That's it !!" (Duran)
(それだよ、それ)

"Why, they are completely different?" (Kevin)
(なんで?その二つの単語って、まったく別のモノじゃん?)

"Too badly, they sound exactly the same when I hear them."Duran
(悲惨なことだけど、ボクにはそれが全く同じに聞こえるんだ)

" Really??"Kevin Jason
(マジ??)

Kevinが不思議そうにボクの顔を覗き込んでいる。するとあろうことかJasonがそこに追い打ちをかけてきた。

"Duran always says 'light' to 'right'."
(Duranはいつも「光」を「右」って言うもんね)

ボクの「明かりを点けようか?」は、彼らにはこう聞こえていたわけである。

"Shall I turn on the light?" (←固い英語である)
(明かりを点けようか?)

"Shall I turn on the right?"
(正義を振りかざそうか?)←(rightには権利・正義といった意味もある)

"Oh my god! But ......" (Duran)
(あな、恥ずかしきことかな!...)

ボクは高らかに宣言した。

"I have to practice! Tell me how you pronounce 'L' and 'R'." (Duran)
(練習がいるな! どうやって「L」と「R」を発音しているのか教えてよ)

ボクは紙とペンを用意して単語を書きつけ、交互に見せながら発音を聞いた。

"''Play' and 'Pray'? "   (←筆記・Duran
(「play」と「pray」は?)

"'Light' and 'Right'?"   (←筆記・Duran
(「光」と「右」は?)

"' Low' and 'Row'?"    (←筆記・Duran
(「法」と「列」は?)

"'Ran' and 'Lan' ?" (←筆記・Duran
(「走」と「LAN接続」は?)

これを何度もやってもらっていると分かったことがあった。よく言われている「舌を上あごに付ける」とか「巻き舌」とか「口を横に開く」とかよりも、簡易だが「L」と「R」を言い分ける方法があるようだ。

Duranからひと言。簡易ではあるが、「R」の時は発音する直前に、日本語の「ウ」(小さな)を付けてみよう。あらゆる年代に試してみたが、これで失敗したことは無かった。

カタカナ表記はやるべきではないのだが、つまりlight の時はそのまま「ライト」、right の時は「ゥライト」と言ってみるのです。runの時には「ゥラン」、prayの時には「プ・ゥレイ」となります。これで、けっこうしのげます。本格的なのはキチンと練習しよう。

さて、十分練習ができて、(これでしのげる)とほくそ笑んでいると、ブラザー達がなにやら相談した上で、口を開いた。

"Hey Duran. We think you probably don't realize it, but you're making other mistakes."
(ねえ、Duran。君、たぶん気が付いてないと思うけど他にもあるんだよね~)

"What is it?" (Duran・恐る恐る)
(なんだよ?)

"You always say 'sink' instead of 'think', don't you? You should stop it."
(君、いっつも「思う」の代わりに「沈む」っていうだろう?止めた方がいいよ)

"Did I say like ' I sink ......'"
(ボクは「オレが沈むのは......」って言ってたってことなのかよ?)

"I sink you are wrong."
(私が沈むに、君は間違っている)

(こういうことかよ......)

確かに「th」の発音は舌を歯で挟んで発声するのだが、そんなややこしいこと、Duranがいちいちやっているワケがない。

"Thank you very much my brothers!!!" (Duran)
(ありがとう、我が弟たちよ!!!)

これはいいことを言ってくれた。これは、すぐにでも矯正にかからねばならぬ。なぜなら「th」音は数多く重要単語に使われているからだ。

the(その), they(彼ら), there(そこに)・with(~と), mouth(口), south(南)・mother(母), birthday(誕生日), healthy(健康な)など、6000語はあると言われている。そしてthinkはボクがこれから最も使用するであろう単語のひとつだからだ。なぜなら、ボクは留学生なワケで、もうすぐ学校が始まるワケで...。そう、学校が始まるのだ。ヤバいよ、これはヤバいよ。

だが、この「th」問題は、割と簡単に片付いた。「th」の付く単語の時に忘れずに舌を歯で挟めばいいだけだったのだ。ちゃんとやれば練習無しでも、二人とも完璧に違いを聞き取ってくれた。イケるぞ、Duran!!!

ただなあ...、これはあくまでも単語単体での話。例えばこんな文章、ペラペラと言えたら...。日本人、超越!

God've been lighting the real right light only for you all through the night.
(主はあなたのためだけに一晩中、真に正しい光を照らし続けてくれたのです)

See you next time

<文/開成教育グループ 個別指導部フリステウォーカー講師編集部:藤本憲一(Duran)>