2020/10/26

【小学生対象】無学年ステップアップ式学習

現在の学力に合わせて基礎学力を固める復習や、学習が進んでいるものは歯止めをかけずに進める先取り学習など、学年の枠にとらわれない学習方法(無学年ステップアップ式学習)が効果的な手段の一つとして注目されています。無学年ステップアップ式学習は、学年の枠を超えてどんどん先へ進めることだけが目的ではありません。早い段階で基礎学習における「苦手」をつぶしておくことで、苦手な単元に足を引っ張られて時間や労力を奪われてしまうことがないので、その分を受験準備や他の科目の学習に充てることができるのも利点の一つです。小学生の内に身についた基礎能力や自学習の力は、中学、高校、そして大学へ入ってからもずっと活かされ続けます。

今回は、ご自身も小学生の頃に学年の枠を超えて学習を進め、中学、高校の学習スタンスにも活かすことができたというフリーステップの講師、工藤さんに実体験をもとにお話いただきました。

楽しいから自ら勉強を進められる

小学生の頃はどのように勉強していたのですか?

工藤 小学2年生の時に、学校の授業以外で算数教室に通い始めました。そこでの学習法は、与えられた教材をまずは自分の力で解くというものでした。問題の解き方を自分の頭で考えてみて、もしつまずいても、例題を読み解くことで解決できたので、「読解力」を身に着けられたと思います。学年の枠を気にせず、解くことさえできれば次から次へと進めていけるのが自分に合っていたのか、気が付けば小学4年生の頃には中学校で学習する内容に取り組めるようになるほど、楽しんで勉強していました。

自ら進んで勉強に取り組めていたのはどうして?

工藤 課題を解決してレベルアップしていくことが楽しかったからだと思います。ゲーム感覚で勉強に臨めたので、もっともっと上に行きたい、レベルアップしたい、と意欲的に勉強を進められるようになりました。

それだけ学習を進められていたのなら、中学受験を考えたのでは?

工藤 同級生の中にも中学受験をする子が1~2人いましたが、僕は中学受験をするつもりは全くありませんでした。ただ、彼らに対して競争心は燃やしていたし、中学受験をする子たちと同等の「計算力」を身に着けていました。

中学生に上がってからはどうでしたか?

工藤 中学生に上がって、ハイレベルな進学塾に通い出しました。小学生の間に学年の枠にとらわれず、学習したことによって「自分で解く力」を身に着けていることが実感できました。この頃本当にたくさん勉強していたのでさらに自信に繋がったし、中1から中2まで楽しんで学んでいました。

小学生の頃の学習に対する経験が、中学生になってからも活かされ続けていたのですね!もう少し具体的に聞きたいです。

工藤 できないことをできるようにする、心の持ちようや勉強法がすでに定着していたのだと思います。幼いうちから例題を自力で読み解く練習を繰り返していたことで、わからないことやできないことを目の前にしても乗り越えられる感覚を知っていました。だから、公開テストの結果が思う通りに出なかったり、トップだった数学の順位が下がってしまったりと壁を感じる時期があっても、勉強を続けられていました。その後、模試の結果でちゃんと良い点を出せたので、「やってきたことはちゃんと結果に繋がるのだ」とますます実感したことを覚えています。

途中で投げ出すことなく勉強を継続する上で、原動力になっていたことはありましたか?

工藤 幼少期に薬がどうして効いたり効かなかったりするのか、その効果に疑問を持ったことがきっかけで、中学生の頃にはすでに薬学部を目指していたのです。どうしても薬学部に進みたかったので、「自分の将来に必要」だと考えれば、「投げ出す」という選択肢はありませんでした。この時の「投げ出さずやり切った」経験は、今の大学生活においても糧になっています。

目標とされていた大学受験はどうでしたか?

工藤 一年間の浪人生活を経た後、目標としていた京都大学の薬学部に合格することができました。一度落ちてしまった時は、二次試験で国数英理4教科の合計点が合格最低点に60点足りておらず、得意だと思っていた数学ですら目標としていた点数より40点ほど足りていない、予想を下回る結果でした。しかし、何が悪かったのかを考え、勉強方法を見なおして取り組んだことで乗り越えられました。

ここでも壁にぶつかった時の心の持ちようや勉強法が活かされたのですね。具体的にはどんな対策をとったのですか。

工藤 現役時の予備校ではずっと演習を「こなす」ことしかやっていなかったことに気が付いたので、課題に取り組むときに解答欄を埋めるのではなく、一から解くことが大事だと実感し、そこに時間を費やしました。

京大の入試数学はかなりハイレベルだと聞きますが、どうでしたか?

工藤 そう聞いていましたが、わからなかった問題が自分で解けるようになる達成感を知っていたので、練習して自身のレベルが追いついたと実感できたときは嬉しかったですし、慣れてくると解くことを楽しめるようになりました。

実際に大学に入ってみて、勉強はどうですか?

工藤 今はまだ専門的なことよりも、手広く勉強している段階なので、理論的な話が多く将来に関係なさそうで退屈に見える授業もありますが、自分が疑問に思ったことや課題を解決するために、後々必要になるだろうと考えると楽しく、意欲的に取り組めています。

勉強をする楽しさを知るのは早ければ早いほど良い

勉強を楽しいと思える理由は何でしょう?

工藤 自分の身の回りのことと、勉強したことを結びつけて説明できることが面白いからだと思います。勉強したところで将来何の役に立つのだろうと思うようなことでも、実は身近なことと結びついていたり、自分が不思議に思ったことを解き明かす糸口になっていたりするので、それを知ること、説明できるようになるのが楽しいと感じています。

これまでご両親から「勉強しなさい」と言われたことはなかったのですか?

工藤 僕は親から「勉強しなさい」と言われたことは一度もありませんでした。それでも、早い段階で自分の能力が上がっていく面白さや自分の力で問題を解く楽しさを知っていたので自ら進んで勉強していたし、課題や宿題も出たらすぐやる癖がついていました。現在フリーステップで講師をしていて、数学を教えている中学生の生徒が勉強に興味を持てず、学ぶ意欲がない姿勢を見ていると、勉強の楽しさを知っていれば自ら進んで取り組めていたのではと歯がゆく思います。

勉強を好きにする方法はありますか?

工藤 「勉強好きにするには」と質問される親御さんの中には、元気いっぱいでやる気があって積極的な勢いのある子どもを理想に描いている方が多いなという印象なのですが、僕自身、小学生の頃は内省的でした。内省的であることはマイナス面ばかりではなかったと今は思っています。幼い頃に色々と考えたり、悩んだりしたことが頭を使う練習になっていたのではないかなと思っているからです。遊ばず、勉強ばかりするのが良いとは思いませんが、今の小中学生にはスマホやオンラインゲームなどの誘惑が多いので、勉強を妨げる魅力的なものは遠ざけるなど、環境を整えてあげるのも大切なのかなと自身の体験と講師をしていて感じています。また、できないことをできるようにする、小さい壁を乗り越える成功体験をさせてあげること、目標を与えてあげることが大事だと思います。勉強する楽しさを知るのは早ければ早い方が良いです。勉強は大学に入ってもその先も続きます。でも、幼い時に身についた「自ら課題に取り組む習慣」や「集中する力」はずっと活かされ続けます。自分で問題を読み解く力は数学だけでなく他の教科においても強みになるし、さらに目標があれば勉強をする原動力になります。「この大学に入りたい」とか高い目標だけでなく、「テストで100点を取る」とか小さい目標を一つずつ達成させてあげて、そして結果が出たらぜひ褒めていくことだと思います。

インタビューを通して

学年という枠にとらわれずに、自分の理解度に合わせて学習を進めることは、単なる復習や先取り学習にとどまらず、わからないことがわかるようになる、成功体験にも繋がるのだという印象を受けました。授業に理解が追いつかず、そこでつまずいてしまうことは勉強嫌いを引き起こす根本的な理由の一つではないでしょうか。幼いうちにわからなかったことがわかるようになる実感を持てれば、お子さま自ら進んで勉強できるようになる、学習習慣の定着にも繋がるかもしれません。

【今回、インタビューにご協力いただいた講師】

工藤拓実さん(旭丘教室)

小学2年生の頃から算数教室に通い始めた工藤さんは、学年の枠を超えて学習を進め、北野高校へ進学。現在は京都大学の薬学部に在籍しています。

<取材・文/開成教育グループ 個別指導部>