2023/03/06

関東 受験・進学情報だより【受験における倍率とは?】

皆さんこんにちは。
受験に関係する数字として「倍率」って聞いたことあるのではないでしょうか?
実はよく分かっていないという人は是非この記事を読んでみてください。また、倍率とは何かを説明できる人であっても、それほど難関というわけでない学校の倍率がとんでもない数値になってしまう仕組みなど、興味を持っていただけると思いますのでどうぞ当記事をお楽しみください。
中学受験・高校受験・大学受験すべてに関係するお話となっています。

INDEX

そもそも"倍率"とは?

志願倍率と実質倍率

どうして募集枠以上の合格者が出るの?

倍率は動く

単願と併願で事情は異なる

「倍率が1倍を切る」とは?

終わりに

そもそも"倍率"とは?

【倍率】という言葉は、学校の勉強の中だと顕微鏡などで聞いたことがあるのではないでしょうか。
たとえば顕微鏡の倍率が20倍となっていれば、見る対象の元の大きさの20倍の大きさで見えますよということですね。
では、受験における倍率とはどういうことを指すのでしょう。
受験において倍率という言葉は、募集人数に対しての出願人数など、何人の枠に何人が申し込んだのかといったことを示すために使います。たとえば100人の新入生を募集しますよ、という学校に200人申し込んだら100人合格で100人は不合格になりますよね。「募集の枠を1として考えた時に、申し込んだ人が何倍いたのか」が倍率となります。だから...
倍率2倍なら、受験者2人のうち1人が合格。
倍率3倍なら、受験者3人のうち1人が合格。
倍率10倍なら、受験者10人のうち1人が合格です。
ということで分かりやすく考えると、倍率X倍と言われたらX人に1人しか合格しない! ということです。
以上が倍率の説明でした。これでもう意味が分かったので大丈夫! ......とはならない部分があります。次にそのお話をしていきます。

志願倍率と実質倍率

一つ具体例を見てみましょう。
2022
年度 早稲田大学 政治経済学部 政治学科 一般選抜 の場合

募集100名 志願者908名 受験者781名 合格者252名 補欠合格者91

言葉の意味を確かめてみましょう。
「志願者」は「願書を提出した人」です。
「受験者」は「実際に入試当日に試験を受けた人」です。
「合格者」は「合格発表日に合格であると発表された人」、「補欠合格者」は「合格発表日以降に追加で合格を伝えられた人」だと考えてください。

さて、100名の募集に対して908名の出願がありましたので、志願倍率としては908÷100=9.08倍となります。9.08人に1人しか合格できない計算です。志願倍率というのは、「募集枠が何人」に対して「志願者が何人」ということを表した数字です。

一方、実際に入試当日試験を受けたのは781名でした。127名もの志願者はどうしてしまったかというと、様々な理由で「出願はしたけど受けなかった」わけです。これは学校ごとに事情に差が出ますが、たとえば「第一志望に合格した後なので受ける必要がなくなった」であるとか、逆に「もっと難度の低い学校にも合格できなかったので諦めてしまった」であるとか、「体調がすぐれずこの日の受験を断念した」などです。そんなこんなでこの年は、受験倍率としては781÷100=7.81倍、つまり7.81人に1人合格するであろうという倍率になったのでした。

ここで、「あれ、おかしいな」と思った人もいるのではないでしょうか。そう、合格者が252人(に補欠合格者が91人)も出ているのはなぜでしょう。
この疑問に対しては次の項目でお話していきますが、一旦、781人受けて252人受かったという事実を見てみましょう。この、「受験者が何人」に対して「合格者が何人」を表すのが実質倍率です。この場合の実質倍率は781÷252=3.10倍でした。およそ3.1人に1人が合格したということです。(志願倍率の9.08倍と比べるとぐっと何とかなりそうな数字に見えませんか)

どうして募集枠以上の合格者が出るの?

ここには(ある意味)からくりがあります。
ちょっと極端な例を見てみましょう。
埼玉県にある浦和実業中学の2022110日午前特待入試の募集人数は15名でした。
この15名の枠に484名の出願があり、456名が受験し、306名の合格が出ています。
......えっ!? 15名の枠に306名の合格!? とびっくりしますよね。
志願倍率でいうと484÷15=32.6倍(!)ですが、実質倍率は456÷306=1.49倍です。
この数字の背景には、関東13県の中学入試の解禁日が関係しています。
埼玉県は13県の中で最も早い受験解禁となります。千葉で1/20、東京と神奈川では2/1に中学受験が解禁されるので、千葉・東京・神奈川の中学校を第一志望にする受験生たちは埼玉で事前に、入試の空気に慣れておいたり、合格を勝ち取って自信をつけておいたりといった目的で(当然、合格したら入学するつもりの受験生も多数いますが)受験するのです。
この年、浦和実業中学校では全部で8回の入試が行われ、計80名の募集をかけましたが、最終的に1300名以上の合格を出しています。しかし、実際の入学者は募集の80名に収まっています。
学校側もこの事情が分かっているので、募集枠以上の合格を出すわけです。

先ほどの早稲田大学政治経済学部の例でも、100名の募集枠に対して252名の合格が出ていました。早稲田大学固有の事情を考えれば、早稲田の合格発表と前後して慶應の合格発表や国公立大学の合格発表があります。第一志望がそちらだった受験生は、「合格したけど入学しない」という選択を採ることになります。

ここまでの話でたくさんの数字が出てきましたが、注目すべきは例年の「実質倍率」です。合格出来れば、あとは入学するかしないかは選ぶことができます。だから、合格できるかどうかに関わる「実質倍率」に着目しましょう

倍率は動く

受験の世界では、「前年倍率が低かったら今年は上がる」「前年倍率が高かったら今年は下がる」ということが繰り返される傾向にあります。上がる→下がる→上がる→......という波の形が表れやすいのです。これは受験者の心理に立ってみると分かりやすいですが、「A校は去年5倍もあったのか......ちょっと自信が無いから、同じくらいの偏差値で去年2倍だったB校を受けよう」という判断を複数の人がすれば、A校の今年の倍率は下がり、B校の今年の倍率は上がりますよね。次の年は「B校は去年5倍もあったのか、A校にしようか......」といった感じのことが起こります。

単願と併願で事情は異なる

ここまでのお話では、「合格したけど入学しない人」がカギになっていました。この事情が通用しない最たる例が公立高校受検です。
公立高校は「合格したら入学します」という約束のもとに出願(単願や専願と呼ばれます)をします。(その代わりと言っては何ですが、学校側も「定員までは基本的にどんな成績であっても合格させます」という姿勢です)
そうなると、「合格したけど入学しない人」は(基本的に)存在しないことになりますね。だから、公立高校受験においては「志願倍率」と「実質倍率」にはほとんど差が出ません。
都道府県によって違いはありますが、基本的に公立高校は1日程しか受験機会がなく、1校しか受けられないのが普通です。
いざ出願してみたら思ったよりもずっと高い志願倍率だったとなるとどうしようと怖くなってしまいますよね。だから各都県には「願書取下げ」「再出願」といった、一旦倍率が発表された後に別の学校に願書を出し直せる機会があります。

倍率と合格率

倍率の意味はわかったけど、それでもやはりちょっとピンと来ないという人もいるのではないでしょうか。その場合は1÷倍率の計算をすると、「受験者の何%が合格するのか」を求められますのでやってみましょう。
先ほど例に出した早稲田大学政治経済学部の実質倍率3.1倍であれば、1÷3.1=32.3%になりますので、受験者の3分の1弱が合格するであるとか、上位3割に入れば良いといったイメージを掴むことができます。

「倍率が1倍を切る」とは?

ここで、ひとつ問題です。
倍率2倍なら、受験者2人のうち1人が合格、
倍率3倍なら、受験者3人のうち1人が合格、
倍率10倍なら、受験者10人のうち1人が合格でしたね。
では、倍率0.8倍で受験者が100人いたら合格者は何人でしょう。

倍率の意味は「枠が何人」に対して「志願者(合格者)が何人」ということを表した数字でしたね。
志願倍率であれば、志願者÷募集人数=倍率ですから、判明している数字を当てはめると100÷募集人数=0.8となります。
募集人数を求める計算をすると100÷0.8=125です。125人の合格だ! と考えてしまった人は早合点、100名しか受けていないので、100名までしか合格できませんよね。
つまり、(基本的に)100名の受験者が100名合格する、ということです。
倍率が1倍というのは募集人数と志願者数が釣り合った状態、倍率が1倍未満ということは志願者数が募集人数を下回った状態です。

終わりに

実際に、倍率が1倍を下回る学校もたくさんあります。少子化も進み、何十年も前に作られた学校は現在の児童数・生徒数に見合わない規模となっており、使われない教室が増えているケースもあちこちにあります。統廃合が進んだ結果、第一中学校から第八中学校までの間で第四と第六は既に存在しないといった地域もあります。
そんな中でも新たに生徒数・学生数を増やして倍率も上っているような学校もあります。
東京都世田谷区にある日本学園中学高校は、20264月より明治大学付属世田谷中学校高校に校名を変更し、23年に中学に入学する生徒から明治大学へ内部進学できる可能性があるということで人気が爆発しました。2022年度入試の実質倍率は1.61.7倍程度だった日本学園中学交ですが、2023年度入試では驚異の7.7倍です。
たくさんの受験者が集まるということは、その中の合格のラインが上がるということも示します。人気校はどうしても入試難度が上がっていきます。入試難度が上がると、優秀な生徒が入学するようになり、優秀な生徒が集まれば進学実績等も上がっていき、それがまた評判を呼んで人気が上がります。正のスパイラルを生むのです。

倍率も偏差値もその学校を表す一つの側面に過ぎませんが、今回は受験倍率という数字からも色々なものが見えますよ、というお話でした。

 

<文/開成教育グループ 教育技術研究所 小川真史>