2022/07/19

入試情報室より【私立大学 入学定員厳格化 緩和へ】

私立大学定員厳格化とは

大学の学生定員(収容定員)は、教育の質保証の観点などから大学設置基準によって文部科学省から規制、管理され、各学部の学則で定められていました。しかし、入学定員や収容定員に対するそれぞれ入学者数、在籍学生数の割合である「入学定員充足率」や「収容定員充足率」が 1.2倍近く、つまり100(1.0 )に収まることは少なく、「入学定員超過」として問題視されることになりました。他方、地方創生の一環として、大都市圏への学生集中を是正するため、私立大の入学定員超過に対する私学助成の厳格化が 28 年度以降実施されてきました。

 

定員厳格化の2つの縛り

一つは、基準を超えた入学者が居る大学に対する、「私学助成の全学不交付」という縛りです。その基準は大学の規模によって異なりますが、収容定員8000人以上の大規模校は、2016年時点で定員の1.17倍、2018年以降は定員の1.10倍を超えると不交付になるというわけです。因みに日本で一番私学助成が多い大学は早稲田大学ですが、年間で90億円以上交付されていますので、もしその交付金が無くなり、すべて学部学生で負担するとすれば一人当たり24万円近くの負担増になる計算です。

もう一つは学部新設が不認可になるという縛りです。こちらは新設前年度から過去4年間の平均で1.05倍という基準が設けられています。時代の変化に合わせて設置学部のリニューアルを繰り返すというのは私立大学にとって欠かせない事なのですが、補助審よりも厳しい数値でその動きが封じられてしまうのです。逆に言えば合格者を絞り続けている大学は、そろそろ学部の新設を考えているということです。

 

定員厳格化の影響

地方創生、大都市への人口集中抑制という効果については昨年、こちらで書きましたのでご覧いただければと思いますが、

【入試情報室より】私立大学の「定員厳格化」とコロナ禍は国公立入試にどのような影響を与えたのか | (freestep-walker.com)

結論だけ書きますと、「地方創生」には寄与していないのではないか、というのが私の結論です。一方で、負の影響も明るみになってきました。

大学側は定員基準ぎりぎりの入学者を確保するために、手続き状況をみながら「補欠合格」「追加合格」を発表しています。中には2000名以上の追加合格を出した大学もありました。早い時期に追加合格になった受験生は、おめでとうとなるわけですが、第2志望の大学の入学手続きを終えた後に第1志望校から合格通知を受け取った受験生にとっては複雑です。その場合は第2志望校に支払った入学金をあきらめて(一般的に納入済みの入学金は返金されません)、第1志望校への入学手続きをすることになりますので、経済的な負担が生じます。しかし今の子どもはご家庭の負担も考えています。また余裕で合格できなかったのは自分の責任であるという負い目もあるのでしょうか、既に手続きをした第2志望の大学への入学を決意する受験生も少なくないそうです。もちろん第2志望校にも魅力を感じて、気持ちを切り替えてそちらで勉強したいと判断した場合もあるでしょうが、このように追加合格制度は保護者・受験生に経済的、精神的な負担を与えているのです。

ついに基準緩和へ

このような世論を背景に、文部科学省はこの66日、ついに入学定員管理の厳格化基準を見直す、と発表しました。今までは単年度で1人でも超えていたらアウト、というルールだったのですが、大学全体の収容定員で判断する、ということになりました。これで、ある年度で基準を超えても、ペナルティーは3年後の学生数で判断されますので、次の年度で調整すれば大丈夫というルールになるようです。これで、大学側としてもぎりぎりの戦いをする必要が無くなり、受験生に対する追加合格発表も、かなり限定的となるでしょう。

大学の難易度への影響

追加合格も含めて合格していた人が、最初の合格発表で合格になる、というだけですので、この基準緩和によって大学に入りやすくなるわけではありません。但し発表日に大半の合否が判明するという意味で、受験生の心理的・経済的な負担は軽減されることでしょう。いずれにしても都市部の私立大学の人気が高いのは変わりませんので、受験生はそれなりの準備が必要なのは言うまでもありません。

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>