2021/08/02

藤山正彦のぷち教育学【メタ認知 Metacognition】

 紀元前600年頃のお話です。クレタ島出身の伝説的哲学者であるエピメニデスが、「クレタ人はいつも嘘をつく」と言ったそうです。このセリフ、発言者自身がクレタ人なので、「嘘をつく」というセリフも嘘となり、自己矛盾(パラドクス)となる、という有名な話なのですが、クレタ人以外の人が「クレタ人はいつも嘘をつく」、またはエピメニデス以外の人が「このセリフは嘘ではない」、または彼自身が「私以外のクレタ人はいつも嘘をつく」、と言い換えれば意味のある言葉となります。このように一段階上の立場から言及する言語を「メタ言語」と言います。「メタ」とは「高次な-」「超-」などを表すギリシャ語から来た接頭語です。

教育学でいうところの「メタ認知」というのは、認知活動に関する認知、簡単に言い換えると、どうすれば頭に入るかについての知識のことです。勉強の方法などの知識なども含みます。学習者としての自分を客観的に把握すること、と言い換えてもよいでしょう。

メタ認知的知識

 このメタ認知は大きく二つのレベルに分けられます。(図1)その一つ目のメタ認知的知識をさらに3つに分類し、その一番上の「人間一般や自分自身、他者の認知についての知識」をさらに3つに分けて説明すると以下のようになります。

①人間一般の認知についての知識
 =「寝る前に覚えたことは、忘れにくい。」「集中して聞かないと覚えられない。」といった誰にでもあてはまる知識のことです。

②自分自身の認知についての知識
 =「私は午後8時くらいが一番集中できる。」「私は計算間違いが多い。」といった自分自身の特性についての知識です。

③他者の認知についての知識
 =「Aさんにはゆっくり話さないと聞いてもらえない。」「B君は昔のことでもよく覚えている。」といった特定の他者の特性についての知識です。

 二つ目の「課題についての知識」というのは、「算数の文章題を解くには、ある程度の読解力が必要だ。」「英単語の知識が無ければ、英語の学習は進まない。」というその課題に向き合うためには何が必要か、といった知識です。

 三つ目の「問題解決の方略についての知識」というのは、「算数の文章題は図に表すとわかりやすくなる。」「覚えにくい英単語を覚えるためには似たような意味のものとセットにする、それでもムリなら語呂合わせ。」といった知識です。

メタ認知的活動

 メタ認知的活動は、メタ認知モニタリングとメタ認知コントロールに分けることができます。

 メタ認知モニタリングとは、「ここが理解できていない。」「この解き方で今回は解けたけど、本当にいいのかなぁ。」という気づきのことです。たとえば数学が不得意な生徒に、「何が不得意?」と聞いてみると、何が不得意かどうかもわからないケースが多いのですが、これはひとまず何から認知すればいいかもわかっていない、つまりモニタリングが行われていない例です。試験の何日か前に、自分が分かっていなのはここだ、とかこのページを覚えたら試験範囲は全部覚えたことになるぞ、などと意識できればひとまずテストで何点取れそうかの予想はつくようになるはずですが、私の経験では、そのような中高生は一部だと思います。

 メタ認知的コントロールとは「簡単なところから始めよう。」「別の考え方をしてみよう。」というように認知状態をコントロールすることです。このコントロールが適切なら、能率の良い学習ができるはずですが、どの教科でも同じように授業中はノートを写しているだけ、といった明らかに工夫のない授業の受け方をしている場合は、授業中、このコントロールできていないということになります。事前に予習して基礎知識を持った状態で授業に参加できれば、ばらばらの知識を構造化することができるでしょう。さらにわからないところがあったとしても先生への質問や自分で調べるなど、納得のいく復習を行い、それらが思い出せるかどうかを試すために問題を解いてみる、といったテスト対策ができれば、間違いなく良い点数が取れることでしょう。

 「勉強方法が良くわからない。」という相談を生徒から受けることが多いのですが、一般的なことや教科に関してのアドバイスはできたとしても、自分自身の認知特性に関しては自分で解決しなければいけない部分が多いのです。もちろんカウンセリング的な手法である程度導くことはできますが、その前に「自分は勉強に向いていない」と投げ出している子どもも少なからずいます。私の経験では、この「メタ認知的活動」の部分で失敗しているケースが多いように思えます。

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 小中学生に「勉強をする意味」を聞かれることもあります。「学校の勉強が将来の役に立つの?」という率直な疑問なのですが、私は「学習した内容(たとえば2次方程式の解の公式)は、中学校や塾の先生にならなければ大人の世界で必要な場面はほとんどないけれど、その学習を通して身に着けた勉強方法はどんな場面でも役に立つ」と説明しています。つまり、今回紹介した「メタ認知的知識」と「メタ認知的活動」は大人になってからさまざまな局面で必要とされる知識や技能を新たに獲得しなくてはいけない局面で必ず発揮されると考えられます。その観点から考えると、ごく希に工夫や努力をせずに点数が取れてしまうお子さんがいらっしゃいますが、そのままメタ認知を獲得せずに大人になったとすれば、何かと不便なのではないでしょうか。

参考文献
三宮真理子 思考におけるメタ認知と注意 市川伸一(編) 認知心理学4 思考 東京大学出版会 pp.157-180 1996
日本教育工学会編 『教育工学事典』 実教出版2000
日本教育工学会編 教育経営研究の軌跡と展望 ぎょうせい 1986
『テトスへの手紙』 新約聖書 日本ギデオン教会 1975

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>