2021/09/06
藤山正彦のぷち教育学【画像認知】
ある事柄をはっきりと認めることを認知といいます。「椅子」をどのように知るのかというのを次のような3種類に分けてみます。(Bruner,J.S.,1961)
①行為的表象(椅子の機能を腰かけてみて知る。本来は椅子ではないところを椅子として使うのもこれ。コンビニ前の車止めに腰かけている輩が多用している能力。)
②画像的表象(椅子の写真や絵を見て、椅子だと知る。実際に座ったり触ったりした事の無い、王様が座る椅子の図を見ても、椅子の形をしているから椅子だとわかる。)
③言語的表象(「いす」という言葉で、そのものが椅子だと知る。椅子か机かわからないような未来的デザインの家具は、説明されなければ「椅子」だとわからない場合も・・・。)
この認知の方法のうち、一番手っ取り早いのが②の画像的表象だと思いますが、同じ絵を見ても、人によって違うように見えるのが不思議なところです。
「ルビンの壺」と呼ばれる有名な錯視図形をご覧ください。(Rubin,E.J.1886-1951デンマークの心理学者)
白いところに着目すると、上の広がった壺か花器のような入れ物に見えますが、黒いところに着目すると、二人の人が向かい合っているように見えるというものです。また、次の図形も有名です。
真ん中の横棒はどちらも同じ長さなのに違って見える、というものです。これらは「錯視」といった錯覚がはっきり自覚できる図です。これ以外に様々な「錯視」がありますので、興味のある方はインターネットで検索してみてください。
これは立方体の見取り図で、この辺の上の3点を通る切り口はどのような形になるでしょう、という問題です。答えは上の面の2点と右の面の2点は同じ平面上にあるので単に直線で結べばいいですが、右の面と左の面が平行なので、左面にも右面と平行な直線を引くと、台形ができる、というのが正解です。しかし、私が今までに教えた中で、そもそもこの図が立方体でなく平面の6角形にしか見えないという生徒がいました。その子にとっては「右面と左面が・・・」という説明が全く無意味になるわけです。
小学校の先生によっては、まず立方体の模型を持ってきて、それを見ながら図に写す、または撮影した画像をスクリーンに投影して見せるというサービスまでしてくれる方もいらっしゃるそうですが、ほとんどの子どもは自分の力で平面に書かれた図を見て、立体を想像しなくてはいけません。
ちなみにほとんどの教科書や問題集は、見取り図を「右上から見た」書き方をしています。(右の面が見えるように書く。)これは右利きの人が多いので、立体を写生するとき「立体」を左に置いて右手で書くことを想定したものです。同じように理科の実験の図も、右利きの人を想定した図が多くなっています。従って左利きの人にとってはわかりにくい場合もあります。
つまり、図や絵は、見ればわかる、理解できるというものではなく、その見方を理解していなければわからない、ということも起こるというわけです。複数の図や表を読み取って、分析し、自分の意見を述べる、といった、新しい学力観に基づいた入試問題も見られるようになってきましたが、グラフや表を見慣れている大人ならわかることでも、子どもにとったら見方がわからないという部分がネックになる場合もあるわけです。新しい教科書には表やグラフ、図や絵、写真が増えてきましたが、授業はちゃんと聞いて、読み取り方も身に着けておきましょう。
参考文献
Bruner,J.S. The Process of Education 1961(鈴木祥蔵・佐藤三郎訳 『教育の過程』岩波書店 1963)
日本教育工学会 教育工学事典 実教出版 2000
Rousseau,J.J. Emile 1762( 今野一雄訳 『エミール』岩波文庫 1962)
為元六花治 教育学を学ぶ―発達と教育の人間科学―p.34 有斐閣 1977
<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>