2021/11/08

藤山正彦のぷち教育学【学習時間 Learning Time】

「うちの子、結構時間かけて勉強しているようなのですが、成績が一向に伸びないのです」こういった保護者のご相談は、学習塾で働く私たちにとってしばしば寄せられるものですが、こういった切実なお悩みに関しても50年以上も前から教育学での研究対象となっています。

 キャロル(John Bissell Carroll アメリカの心理学者)は学習到達度と学習時間に関して以下のような関数の式で表しています。

 当然と言えば当然なのですが、「必要な学習時間」に見合う学習時間を実際にかけたとすれば、学習到達度は高まるという考えです。しかし分母にあたる「必要な学習時間」というのは人によって違ってくるわけですが、それを決める要因は

①学習課題への適性 

②指導の質 

③指導を理解する能力 

④与えられる学習機会 

⑤学習の持続力

学習到達度.png

とされています。この5項目のうち、先生がコントロールできるのは②と④ですが、逆に言えばそれによって適性や能力などをカバーすることができるともいえます。つまり、逆に言えば独学だと能率が上がらない理由はここにもあるわけです。

 ①③⑤は確かに学習者の特性に左右される事項ですが、固定的なものではありませんし、内容によっても変わってきます。たとえば、英語と数学では必要な学習時間が異なりますし、同じ教科でも、不得意な分野には時間が必要になるでしょう。逆に不得意だと思っていた教科でも説明がわかりやすければ、面白くなって時間を忘れて学習し続ける(学習が持続する)ことになるかもしれません。

 中学生や高校生には時々、カラフルで素晴らしく手間のかかったノートを作っているのに点数が伸びないというお子さんも見かけますが、きれいなノートを作ることに気を取られすぎて肝心の授業中の先生の説明が聞けていない可能性があります。

 さて、最初のお悩みに対する答えを先の5点の要因に即して答えを作るとこういうものになります。

①まず、その科目、単元が得意か不得意かを判断し、不得意な場合は得意な科目の2倍以上の学習時間を見積もりましょう。(得意科目や分野に学習時間が偏っているケースが結構あります。)

②学校の授業中にある程度、理解ができるように準備する習慣を付けましょう。学校の授業は大切にしましょう。(予習する、ノートの取り方を変える、など先生の話が頭に入る工夫をしてみましょう。)

③授業内容を家で理解しなおすとき(復習するとき)には、関連する知識などをノートに書き足しておきましょう。わからないところは先生に質問しましょう。(もちろん塾の先生もお待ちしています。)理解できないものを放置しても、わかるようにはなりませんよ。

④不得意科目に触れる時間や回数を意識して増やしましょう。

⑤ある程度まとまった学習時間を計画的に意識して作り出しておきましょう。(試験前になってまとめてやろうとしても、時間切れになる可能性が高いです。)あと、能率が上がる時間帯を見つけて、その時間に学習できるように生活時間を調整しましょう。因みに記憶の定着は脳の中心部にある「海馬」という部位でのタンパク質合成によって行われていますが、その効率は午前中の方が高く、しかも感情を伴う記憶は残る傾向があるとの研究結果もあります。そこで、暗記モノは朝に行い、さらに夜寝る前の復習が効果的です。と、いうわけですが、何か参考になるようなアドバイスは見つかったでしょうか。

そういえば難関進学校の生徒たちは開始時間が少し遅い試験期間中でも、朝早く登校している生徒の割合が高いように感じます。しかも登校時に手にノートや単語集を持っている生徒はほとんどいません。電車内や歩きながらの学習は効率が悪いことを知っているからでしょうか。学習時間を費やすだけでなく、その能率を上げる工夫を楽しめるようになれば、さらに高い成果が得られることでしょう。

参考文献
J.S.ブルーナ 教育の過程 岩波書店 1963
Carroll、J.B., A model of school learning: Teachers College Record.64 1963
教育技術研究会編 『教育の方法と技術』 ぎょうせい 1993
日本教育工学会編 『教育工学事典』 実教出版2000
寺﨑昌男 『大学教育の創造 歴史・システム・カリキュラム』東信堂 1999
東京大学大学院理学系研究科「長期記憶しやすい時刻の発見とその脳内の仕組み」(u-tokyo.ac.jp web版脳科学辞典)

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>