2020/06/25

藤山正彦のぷち教育学【図書館】

こんにちは。藤山です。教育に関するお話をしていきます。
今回は、図書館についてお送りします。

突然ですが、クイズです。学校に、設置が義務付けられているのは次のうちのどれでしょう?

a)プール

b)音楽室

c)図書館

確かに3つとも塾や予備校には無く、学校のイメージをつくる大切な施設ですが、学校に『必ず』設置しなければいけないのはどれでしょう。

プールでしょうか。実は中学校の指導要領には水泳について『適切な水泳場の確保が困難な場合にはこれを扱わないことができる』と書かれており、高校では『「器械運動」、「陸上競技」、「水泳」、「球技」、「武道」、「ダンス」から選択して履修することができる』と書かれていますのでプールを設置する必要はありません。因みに大阪市内に「プール学院中学校・高等学校」という名前の私立の女子校がありますが、学校名の「プール」というのは最初に大阪に派遣された「A.W.Poole」というお名前のイギリス人主教にちなんだもので、泳ぐためのプール(pool)は校内にはありません。ついでに脱線しますと、近代水泳発祥の地といわれる大阪府立茨木高等学校では、旧制中学時代の大正5年、当時在籍していた川端康成や大宅壮一などの在校生らの手作業で6か月かけて校庭に長さ42メートル、幅27メートルの長方形で、深さが、1.21.51.8メートルの3段になっている立派なプールを掘り、隣の茨木川から水を導いて満たしたのだそうです。今日から考えると半年間も生徒を放課後や体育の時間の土木作業に従事させたというのも無茶な話ですが、その伝統のおかげで今では茨木高校には大阪の公立で唯一の縦50m25m深さ2m、温水機能付きの立派な屋内プールがあり、水球部は近畿大会常連の強豪です。(足がつかない深さですが、授業の時にはおぼれないように台が設置されますのでご安心ください)

では音楽室でしょうか。高校では「音楽」・「美術」・「工芸」・「書道」の芸術科目はいずれか一つを選択しなくてはいけないのですが、「工芸」がほとんどの学校で選択できない(少し古い資料ですが、平成25年度で「工芸Ⅰ」は普通科で3.2%の学校にしか設置されていない)のと同じように、美術と書道のどちらか、または書道だけを選択(?)にしている学校もあり、音楽室はおろかピアノが1台もない高校も存在します。(同じ資料で、「音楽Ⅰ」の設置率は90.3%100%になっていません)都市部では学校周辺の住宅から音に関するクレームも多いそうで、音楽の授業どころか音楽系のクラブすら設置しない(できない)学校もあるそうです。

というわけで正解は(c)の図書館です。「学校図書館法」(昭和二十八年八月八日法律第百八十五号)の第三条に「学校には、学校図書館を設けなければならない。」と定められています。(もちろんその「学校」も「小学校(特別支援学校の小学部を含む。)、中学校(中等教育学校の前期課程及び特別支援学校の中学部を含む。)及び高等学校(中等教育学校の後期課程及び特別支援学校の高等部を含む。)」と条文の中で定義されています。)自分が通った学校には図書「室」はあったけど、図書「館」などという立派な建物は存在しなかったぞ、という方もいらっしゃると思いますが、建物内の一室であっても法的には「図書館」として扱われます。(「高等学校設置基準」では「図書室」と書いてありますが、それは入れ物としての名称で、書架や閲覧施設、蔵書、職員などを合わせて「図書館」と称します。)

ひんやりとした静かな空間の中で整然と並べられた本に囲まれて読書を楽しんだ思い出をお持ちの方もいらっしゃるのではと思いますが、あの図書館の本の並べ方には全国共通のルールがあります。

日本で多くの学校図書館が採用しているのは日本十進分類法(NDC)という方法です。本の背表紙の下に貼り付けられたラベルの上の枠に3ケタの数字が書かれていれば、それはNDCで分類されたものだと思われます。書名や著者名から本を探すのも良いですが、NDCを用いた本の検索法を知れば自分の興味がある分野の、自分の知らない本に出会うことができます。開架(利用者が本棚の本を自由に手に取ることができる方式)の図書館ですと、その棚の前に行けば探すこともできますが、閉架(職員に頼んで書庫から出してきてもらう方式)の場合は、自分でカードボックスや情報端末で検索する必要がありますので、分類番号のルールを覚えておけば便利です。例えば200番台の歴史や800番台の語学、900番台の文学の分野では2桁目が地域番号です。1は日本で2は東洋、3は英米...と決められており、220番台は東洋史、221は朝鮮半島の歴史、222が中国史、と絞り込むことができます。学校では、ラベルの下の段に著者の名前の1文字目をカタカナで書いていたり対象学年に応じた色のシールを貼ったりして、目当ての本を探しやすくする工夫をしているところもあります。大枠の分類番号については掲示されていたりしますが、細かく知るためには検索コーナーに「日本十進分類法第10版」という辞書のような本があると思いますので、手に取って見てみましょう。

日本で一番大きい図書館といえば、「国立国会図書館」です。日本での出版物は何であっても必ずここに1冊ずつ納めなさいという法律(納本制度)があり、そのために2002年には関西にも分館を作って一部分散させましたが、資料は増える一方です。図書・雑誌・マイクロフィルムなどがそれぞれ約一千万点ずつ、合計三千万点ほどの資料が詰まっています。文字資料だけでなく、DVDも地図も楽譜も設計図もゲームソフトも詰まっています。面白すぎます。しかし、国立「国会」図書館という名前からお分かりのように、立法府に属する特殊な機関です。(他の公立図書館は行政府に属しています。)図書の分類法もNDCでなく、NDLC(日本国会図書館分類法)という独自の方法を使っています。

■芸術科目 開講状況

芸術科目開講状況.jpg

さて、学校の図書館の話に戻りますが「代本板」(だいほんばん)という板、覚えていらっしゃるでしょうか。背中に学年や氏名を書いた分厚い木の板(最近はカラフルな塩化ビニル製のものになっています。)を、学校の図書館で本を取り出す時に代わりに本棚に収め、本棚に本を返す時に元の場所を探す手間が省けて誰でも簡単に戻すことができるという原始的かつ合理的な道具です。そして、本を館外に借り出す時には本の裏表紙を開けたところのポケットに入っているカードに学年・組・名前を書いて図書の先生か貸し出し係りの生徒に渡して本を借りる、という流れを覚えている方もいらっしゃるかもしれません。この方式は「ニューアーク式」というものです。しかし「代本板」も「ニューアーク式」も最近では採用している学校が減少してきました。「代本板」は今、誰がその本を読んでいるのか、「ニューアーク式」はその本を誰がいつ借りたかがわかってしまう、つまりプライバシーが守れないという点で好ましくない、となっているわけです。近所の尊敬する先輩が、実はこの本を数年前に読んでいたことがわかり、ワクワクしながら借りて帰る、という経験は、残念ながら今の子どもはできそうにありません。

一般市民向けの図書館には「図書館司書」の資格を持った人が必要ですが、学校の図書館には「司書教諭」と「学校司書」と呼ばれる職員がいます。子どもから見れば、どちらも「図書の先生」として欠かせない存在なのですが、「司書教諭」は教諭として採用され、学校図書館資料の選択・収集・提供や子どもの読書活動に対する指導等を行うのに対し、「学校司書」はその補助や支援を行うとされ、少し立場が違います。採用に関しても、「司書教諭」は教員免許が必須とされるのに対し、「学校司書」は事務職員としての採用で、資格についての法的根拠はありませんでした。(地方公共団体によっては図書館司書や教員免許などの資格を必要としている所もあります。)しかし、2014620日の、先に挙げた学校図書館法の一部改正によって「学校司書」も法律で規定され、その資格についても今後検討されることとなりました。これによって現在すでに働いている「学校司書」の地位が公的に定められ、小規模校も含めて司書教諭や学校司書が全国の学校に配置される道筋ができたといえるでしょう。

学校ではこれらの「図書の先生」が、多岐にわたる資料を整理し使いやすくする事や、一人でも多くの生徒・児童に調べることの楽しさや大切さを知ってもらう事、適切な図書を紹介して読書指導を行う事などを通じて、子どもの知的好奇心の扉を開ける大変重要な役割を担っているのです。

■NDC900番台

NDC900.jpg

【参考文献】

・学校図書館法(昭和二十八年八月八日法律第百八十五号)

・高等学校設置基準(昭和二十三年一月二十七日文部省令第一号)

・高等学校設置基準(平成十六年三月三十一日文部科学省令第二十号)

・文部科学省中学校学習指導要領解説保健体育編平成二十年七月

・文部科学省高等学校の教育課程等に関連する資料(データ集)平成27年度525日教育課程企画特別部会資料

・日本図書館協会分類委員会()日本十進分類法(新訂10版)日本図書館協会2015

・図書館法(昭和二十五年四月三十日法律第百十八号)

・文部科学省ホームページ『小学校・中学校・高等学校の図画工作、美術、芸術(美術、工芸)教育の現状について』

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/025/siryo/05091601/010.htm

・大阪府ホームページ『埋蔵文化財情報、茨木高等学校(新庄遺跡)』

http://www.pref.osaka.lg.jp/bunkazaihogo/maibun/sinjou.html

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>

【フリステWalker 第130号(2019.8月)掲載】