2022/01/11

藤山正彦のぷち教育学【教員研修 Inservice Teacher Education】

教育再生会議の提言を受けて2007年(平成19年)6月の改正教育職員免許法が成立しました。それにより2009年(平成21)年41日から教員免許更新制が導入されました。それまではイギリスやフランス、ドイツのように一度取得した教員免許は一生有効でしたが、自動車運転免許のように定期的に更新する必要が生まれました。その目的とは「教員免許更新制は、その時々で教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に最新の知識技能を身に付けることで、教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ることを目指すもの」とされており、わざわざ「不適格教員の排除を目的としたものではありません」と書いていたりするあたりが、本来の意図が透けて見えたりするのですが、それはさておき、この制度自体が実際現場の先生方には大きな負担となりました。10年の有効期間が終了する2年前から30時間の免許更新講習を受講・修了する必要があり、さらに交付手続きを行う必要があります。費用は個人負担で3万円程度とされますが、交通費や宿泊を伴う場合も自己負担となります。また、その期間は学校を休む必要もあり、生徒にも迷惑が掛かっているという意味でその負担のしわ寄せとなっているという話もあります。

因みにアメリカでは州立の教育大学が教員の資質向上に責任を持っており、公開講座や継続教育を実施しています。多くの州では教師の給与が研修を受けた事も反映する仕掛けになっており、教師も自らの待遇改善のためにも研修の受講や、学位の取得で結構な日数をそれに費やす教員も居るようです。教員免許の有効期限に関しても日本の半分の5年と定められている州もあります。それに比べると日本はましなのかもしれません。

研修内容という点から見ると、日本は非常に多彩です。まず、実施主体が国、都道府県、市町村、学校、その他団体と5種類あり、国が主体となっているものでも、一般的な研修から、洋上研修、教員海外派遣、大学・研究所への派遣などの研修があります。

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 この表にあるような研修以外にも、人権教育や総合学習の研究会、教育大学付属学校で行われる研究授業などもありますし、教育心理学会などの学会活動や課外活動の指導者研修などの研修もあります。指導要領の改定で中学の体育ではダンスが必修となりましたが、その対策として現職の体育の先生がヒップポップダンスを習うという研修もあるそうです。このように指導要領の改訂に伴って取り入れられた新たな知識や技術をアップデートできるという点では意味がある制度だったと言えます。

 しかし、教員免許は有しているが、現在教職についていない人が現職に復帰するためには、講習を受けて教員免許を復活させる必要があります。もちろん費用も期間もかかります。このハードルの高さ故、いわゆる臨時教員人材が一気減少してしまいました。

 2021年(令和3年)3月、当時の萩生田文部科学大臣は教員志願者の減少も含めた現行制度の問題点から、中教審に教員免許更新制度の「抜本的見直し」を指示し、それを受けて、現職教職員2000名余りにアンケートを行ったところ、「役に立っている」が3割だったのに対し、「役に立っていない」が4割近くとなりました。その結果を受けて、8月には現状の免許更新制度を廃止する案を示しました。具体的に立法化を経て廃止になるのは2023年度からとなる見込みですので、この制度は14年間で消えることになる見込みです。そこまでの有効期限がある免許は更新の必要が無くなることになります。

 但し、ここで文部科学省は「廃止」という言葉を使わず、「発展的解消」という表現をしており、研修履歴を電子的に参照できるようにするなど、教員研修は引き続き行うことを想定しているようです。

 体育と同じように小学生の英語や、芸術系の科目など、実技を伴うものに関しては限界がありますが、今後は内容によっては動画の視聴やインターネットの活用で遠隔地まで研修に行くという負担など少しは減らせる制度に変わっていくかも知れませんが、このように学校の先生も生徒に負けないくらい勉強している、というお話でした。

教育技術研究会編 『教育の方法と技術』 ぎょうせい 1993

佐伯胖 コンピューターと教育 岩波書店 1986

日本教育工学会編 『教育工学事典』 実教出版2000

日本比較教育学会 「教師教育」共同研究会(編) 教師教育の現状と改革 -諸外国と日本― 第一法規 1980

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>