2022/05/09
藤山正彦のぷち教育学【教授・学習組織 Teaching-study organization】
教授・学習組織
いきなり、難しい言葉に見えますが、実は生徒が学習するクラスの編成についてです。教育学では、「水平組織」と「垂直組織」の二つの軸に分けてとらえるのが一般的です。この「水平組織」というのはその各教育段階・学年における組織編制の事で、「垂直組織」というのは学校に入学してから卒業するまでどういう組織にするのか、という事です。
水平組織
まず「水平組織」=同じ学年でどのように編成するか、についてですが、公立の小学校では一般的にどの学級も特色が出ないように均等に振り分けられるのが普通です。しかも、その各学級は現段階では全教科を担当する先生が担任になる「学級担任制」を取っています。
一人の教師が、丸抱えして指導していく事は、子どもとの信頼関係や理解が深まるというメリットがあります。しかし、教師には全教科を万能に教えることが求められているので、教科の専門能力という点で無理が生じてきていますし、「学級王国論」とも言われますが、学級の一体感が行き過ぎると、他のクラスに対抗心を持つなど、排他的になりやすいという欠点もあります。
もちろん、教科の専門性に関する欠点を補うために「教科担任制」を導入している学校もありますが、教師間の融通が付きにくく、行事等で授業回数を調整する局面で困ったりするようです。
垂直組織
次に「垂直組織」=入学してから卒業するまでの編成方法についてです。日本の義務教育では「学年進級制」=すなわち同じ年齢の生徒が同時に進級していくというシステムです。この制度のメリットは、学習面だけでなく、生活面も含めて比較的同じような発達段階の生徒で構成されるので、刺激教材などの選定を画一的に進める事が出来ます。つまり、日本中の小3・4年生が新美南吉の「ごんぎつね」や「手袋を買いに」を読んで、その感想文を書くわけですから、指導するための材料や指導案も日本中の学校の先生が力を合わせて作っているわけですからとても高度なものとなっています。
「等質編成」と「異質編成」
しかし、同一年齢の集団というのは実際の社会生活には存在しない特別な集団なので、社会生活上の基礎的な訓練になっていないという批判もありますし、そもそも同年齢であっても成長、発達のスピードは異なりますので、学習者の個性が無視されているともいえます。
そこで、編成の方法として「等質編成」と「異質編成」といった考えが生まれてきました。
等質編成
「等質編成」というのは、「学力別編成」など比較的学習上の個性が近い学習者を集団として編成する方法です。この方法では、教える側としては日本全体の平均に合わせた教材ではなく、その集団に合わせた教材やカリキュラムを提示することができ、生徒にとっても能率的な学習が出来るはずです。しかし、一方、そのような選別によって学習意欲を無くしてしまう集団を生むという危険性もあり、特に公教育にはなじまないという考え方から導入は限定的です。
異質編成
「異質編成」というのはまさにその逆です。掃除当番の縦割り班のように、あえて年齢や経験の異なる集団を作って、補い合うという組織です。固定的な知識を伝達する場面においては能率を欠きますが、お互いの立場を考え、個性を生かした役割分担をするなど、社会性のトレーニングになるという長所もあるわけです。
したがって、どの編成方法が正しいか、間違っているか、という話ではなくて、それらのメリットとデメリットを理解して、それらのデメリットを補うような運用方法が必要だ、という事になるわけです。
最近新しく建築された学校をいくつか見学させてもらいましたが、従来の箱型の教室だけではなく、小集団での議論やプレゼンテーションを行うことができる設備の整ったスペースを教室の近くに設けている、または教室の壁が可動式で隣の教室とも合体できるなど多彩な集団学習ができる仕掛けがありました。多様な「教授・学習組織」を組み合わせた学習活動は今後さらに広がっていくことでしょう。
教育技術研究会編 『教育の方法と技術』 ぎょうせい 1993
小島邦宏 「学校と学級の間 学級経営の創造」 ぎょうせい 1990
日本教育工学会編 『教育工学事典』 実教出版2000
山川信晃 「授業研究における教育工学的力量」『講座 教師の力量形成4 教育工学実践にとりくむ力量』 ぎょうせい 1990
<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>