2022/08/01

藤山正彦のぷち教育学【学習観 Beliefs about learning】

「底辺の長さが6cm、高さが3cmの三角形の面積を求めなさい」という問題がありました。それに対する太郎くんと花子さんの答案です。

太郎くん(式)6×3÷2=9 (答え) 9

花子さん(式)6+3=9 (答え) 9

説明するまでもありませんが、花子さんは偶然答えが合っているだけで、考え方が間違っています。そこで、小学6年生160人に「あなたが先生だったとして、この花子さんの答案に点数をつけるとすれば何点を付けますか?」という質問をしたところ、なんと花子さんに0点を付けた生徒はわずか60人、つまり逆に点数を与えた小学生が100人(62%)いたのだそうです。

この調査結果から少なくともその62%の小学生は、算数は「答えが合う事が最も重要だ」という「学習観」を持っている事がわかります。大人にとっては「算数」とは考え方が重要で、問題の数値が変わっても対応できる力が必要だとわかっていますから、この結果には違和感があると思います。

しかし、歴史の勉強については如何でしょうか。「歴史は知識を暗記する科目だから、年表を丸暗記すればいい。年号を語呂合わせで覚えれば年表を再現できるから、年号を一つでも多く覚えよう。」と考えていた人も多いのではないでしょうか。

そこで、これは皆さんへの問題です。時代順に並べてください。

①墾田永年私財法

②三世一身の法

③荘園の成立

④班田収授法

正解は④→②→①→③ですが、年代で歴史を暗記しようとした人にとっては、この問題は難しいものになります。まず4つとも年代を正確に思い出すことと、それを並び替えるという作業が必要になるからです。

奈良時代、唐の律令制を参考にした税制が導入された。土地は国民の共有財産(公地)という考えから「班田収授法」によって、人が生まれたら国から口分田を貸し与えられ、その代わりに収穫の中から税金を払うことが求められた。しかし、死んだらその口分田は国に返さなくてはいけなかった。

しかし、人口が増え、貸し与えるはずの口分田が不足した。そこで、開墾を進めようとしたが上手くいかない。そこで、3代にわたって開墾した農地を占有できる制度(「三世一身の法」)にすると、自分の子どもや孫のためにと考えて開墾する人が増えた。ところが三代目にもなると、その土地は自分の子どもに相続することができないので、親の代で開墾した土地や自分が開墾した土地を優先して使用するようになり、自分の代で返さなければいけない農地を放棄するようになり、結局荒れ地に戻ってしまった。(そもそもこの制度ではあまり開墾が進まなかったとの説もあり)

そこで、自分が開墾した農地(墾田)は開墾した本人や三代目まででなく、そのままずっと使える制度(「墾田永年私財法」)にした。すると、農地は「公地」という大前提が崩れ、私有地が発生することになった。その私有地の事を「荘園」と呼ぶ。

このお話を読んで、なるほどと思った方は、この例題を間違う事は今後無いはずです。つまり、歴史は事柄の順番を覚える科目だ、という考え方は不完全で、その因果関係を整理して理解する科目だ、というのがより正しい「歴史に対する学習観」になると思います。

さらに個々の科目の学習観だけでなく、教科の枠を超えた知識の共有も大切です。

地理の授業で、日本の太平洋側の海流「親潮」と「黒潮」というのが出てきます。ここでまた問題です。

①親潮とは魚が多く「魚を育てる親となる潮」として名づけられた海流ですが《(a)暖流(b)寒流》である。

1年間に時期をずらして2種類の作物を同じ耕地に栽培することを《(a)二毛作(b)二期作》と呼ぶ。

実はヒントは他の科目にあります。

①の解説=理科で学ぶことですが、水に個体を溶かす(溶解させる)時、一般的に温度が高い方がよく溶けるが、気体を溶かす場合は温度が低い方が良く溶ける。(冷やしていない炭酸飲料を開けると一気に二酸化炭素が逃げるのはご存じですね)

魚は水中に溶けた酸素をエラから吸収して生きている。

つまり、冷たい水の方が酸素を溶かしやすいので、多くの魚は生きていける。そこで

(①の答え)b=寒流)

②の解説=国語では漢字一つ一つの意味を掴むために熟語を作る練習をします。「毛」を使った熟語で「不毛」というのがありますが、「不毛な大地」とは地面に毛が生えていないという意味ではなくて作物(特に食料となる穀物)を1種類も作る事ができない、という意味です。この問題では2種類の作物を栽培すると書いてありますから

(②の答え)a=二毛作)

因みに「期」は「学期」「思春期」のように、限られた時間を示すもので、農業では種まきから収穫、つまり種から次の種までの時間が「期」となります。従って同じ作物を1年間に2回栽培するのが「二期作」というわけです。温暖なベトナムやインドネシアでは年に3回コメを生産、収穫する「三期作」もありますが、林業の世界では「1期」がヒノキのように50年を超える場合もあります。

何故、学校では複数の科目を同時に教わるのかといえば、このようにその関連を見つけて理解を深めることが期待されているからなのです。大正から昭和初期にかけて、奈良女子高等師範付属小学校(現奈良女子大附属中等教育学校)で開発された「合科授業」はこの考え方をより具現化したものだったといえるでしょう。

中村恵子 「日本における総合・合科的学習 『現代社会文化研究』No.34 pp.37-54 2005
日本教育工学会編 『教育工学事典』 実教出版2000
麻柄啓一 じょうずな勉強法 北大路書房 2002
文部科学省 ウェブサイト (http://www.mext.go.jp/

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>