2023/09/04

藤山正彦のぷち教育学【学習態度や入試制度と、学習取り組み姿勢との関連】

学習態度や入試制度と、学習取り組み姿勢との関連

The Relationship between the academic performance and student's learning attitude or university admission system

 

学部に属するタイミングで学習態度や成績は変わるのか?


札幌駅から徒歩7分、但しそこから大学の端まで歩くと30分以上という広大な敷地を持つ北海道大学は、学生募集に関して独特な制度を持っています。理系の1,860名の定員のうち、833名は学部ごとの募集、残りの1,027名は「総合入試」という一括募集で、1年次の成績によって2年次から学部に振り分けられるというシステムになっています。因みに東京大学は学部ごとの募集を行わず、募集単位(例えば理科Ⅱ類など)ごとに一括募集して、3年次に学部に振り分けられます。あまり知られていませんが、理科Ⅲ類からは、ほぼ全員が医学部に進学できますが、希望すれば文系も含めて他の学部に行くことも可能で、逆に理系の他の類や文系からも2年までの成績が良ければ医学部に進学する事も可能となっています。2024年度の医学部医学科への「進振り」定数は、理科Ⅲ類から、66名、理科Ⅱ類から6名、全科類から1名となっており、近年でも文Ⅰと文Ⅱから医学部に進学した例もあります。このように大学入学後にさらに競争を勝ち抜かないと希望の学部に入れないという仕組みは、東京大学が優秀な学生を輩出できる原動力だ、という見方もあります。しかし、入学時点から自分の学びたい学問分野に属することで、より深く学んでほしいという京都大学のような考え方もありますので、どちらが良いのかはわかりません。

この両方のシステムを併せ持つ北海道大学だからこそ調べることができるのが今回の内容となります。学部ごとの募集で入学した学生と、一括募集で入学した学生の学習態度や成績の違いを調べたという調査研究で、なんと約1万名の学習履歴を調べ上げた大規模な調査です。

 

「初年次理系実験の成績評価分析-入試制度と取り組み姿勢の観点から-」田島貴裕(北海道大学高等教育推進機構)履修データ_総合・学部別_北海道大学.jpg

 

北海道大学の初年次教育で開講されている「自然科学実験」という授業の5年分の履修データを元にしています。この授業は1年次の必修科目であり、毎年約2000名の受講があるそうです。先に理系の定数を1860と書きましたが、この数の新入学生と再履修(毎年約120名強)を合わせた約2000人×5年分=1万人のデータが集まったということです。

まず、この科目を履修した学生のうち、約5.9%が不可、つまり単位が取れなかったようですが、この表によりますと、総合入試で入学してきた学生(以下「総合」と略)の中での割合では4.9%、学部別募集で入学してきた学生(以下「学部別」と略)の中での7.1%と明らかに「学部別」の学生の方が悪い結果になっています。ところが、再履修(つまり1度不可になったが、必修科目なので次の年も履修の必要が生じます)になりますと、状況が逆転し、再履修でも不可になる割合は「総合」で53.0%、「学部別」で40.0%と、総合の方が悪くなります。1年目に単位を落とした「総合」の学生は、既に進学する学部が決まってしまっているので、成績評価を気にしなくなるとの分析が筆者によってなされていましたが、他の科目の成績にも問題があり、人気の学部への進学が叶わなかったため、余計に意欲を失ってしまったとも考えられます。

さて、次は学習態度に関するデータです。

欠席、遅刻、(レポートの)未提出、(レポート提出の)遅滞のいずれも0回という優等生の割合は、「総合」の方が勝っています。しかし、遅刻の項目に関してはその差はわずかです。しかし遅刻が1回も無いという学生が、97%、96.2%というのは驚異の数値です。北大生って真面目ですねぇ。

いよいよ、学習態度と成績との関係です。年間6回課されるレポートの平均点を、それぞれの学習状況別に表にまとめたものですが、数値だけだとわかりにくいので私がグラフに直してみました。

履修データー学習状況別、入試制度別、平均レポート点の平均値および標準偏差_北海道大学.jpg

ぷち教育学_北海道大学.jpg

 

欠席回数の「学部別」だけ欠席が多いほうが良い成績?という異常値となっていますが、総じて御覧のように受講態度が良い学生は良い点数を取っていることが明らかになっています。逆に言えば、履修態度を記録しておけば、テストを行わなくても成績をつけることができそうです。

というわけで、「総合」の学生は学習態度が良く、その結果平均点も高いという結果になっています。最近は私立大学でも出席や課題を重視し、(教室入口にICカードリーダーがあって入退室両方カウントする大学も・・・)オンライン上でレポート提出をさせるなど、学習の管理が進んでいますが、この有効性を裏打ちする結果だといえるでしょう。その昔、私がダメな大学生だったころ、ドイツ語再履修(この時点で既にダメ)の授業に遅刻(さらにダメ)して行ったら、学生が誰一人来なかった(みんなダメ)らしく、「喫茶〇〇で待っています」と教授が教室の黒板に悲しげな書置きをしていたのを見て、逆にこれは単位をもらうチャンスだと思って喫茶店に急いだのを思い出しました。こんな学生、今の大学だったら1日で追い出されそうです。因みにこれをきっかけに、卒業後もこの先生とは親しくしていただきました。 

また、この論文は入試制度の優劣評価を目的とはしていませんが、文部科学省も推奨する一括募集タイプ、つまり東大型の「総合」募集方式を採用する大学が増えていくのかもしれません。まあ、個人的には、いつもは自由にしていて気が向いたときだけマニアックな本気を出すという京都大学のような学風も悪くは無いと思うのですけれど。

参考文献 

加藤幸次・佐久間茂和 個性を生かす学習環境づくり ぎょうせい 1992

日本教育工学会編 「教育工学事典」 実教出版(2000

田島貴裕 「初年次理系事件の成績評価分析-入試制度と取り組み姿勢の観点から- 日本教育工学会論文誌 413) 2017

<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>