2023/11/06
ぷち教育学【 チーム・ティーチング Team Teaching】
チーム・ティーチング(team teaching)とは
大辞泉によりますと、チーム‐ティーチング(team teaching)とは
1. 数名の教師がチームを作り、複数学級の生徒を弾力的にグループ分けしながら行う授業の形態。
2. 学級担当の教師が進める授業に、その教師とチームを組む他の教師が入り、生徒の習熟度などに合わせて担当教師を助力しつつ行う授業の形態。
と説明されています。つまり、教科やクラスを一人の教師に任せるのではなく、チームで一緒に対応しよう、という考え方です。今お読みいただいている保護者の皆さんはこのような授業を受けたことが無いご経験から、これは新しい取り組みなのだな、とお考えになった方もいらっしゃるかと思いますが、実はこの実践はわが国でも昭和38年(1963年)からすでに始まっており、全国に広がった昭和44年(1969年)から計算しても50年以上の歴史があるのです。しかし、実際に実践が行われた学校は1市町村につき2校(小学校・中学校各1校)程度ですので、そのような授業を受けた方がいらっしゃったら、それはそれで貴重な体験だったといえるでしょう。
チーム・ティーチングの目的
このチーム・ティーチング(以下T.T.と略します)は生徒への教育効果を上げるための以下のような目的を持っています。
子どもの「個」を生かす
現代の重要な教育課題の一つに「子どもの個性を尊重する」というのがありますが、そのために教育指導の方法や形態を各市町村教育委員会の判断で工夫することができるという法的な根拠があります。(臨教審第2次答申 1986年)その一つとしてのT.T.の利用が考えられます。
知識や技能を共通的に身に着けるという従来の学習観に代わって、児童・生徒が自ら考え、主体的に判断し行動できる資質や能力の育成を重視する「新しい学習観」に基づいて、生徒の興味、関心、能力、適性などを把握し、育成する事を一人の先生で担うのは困難であるというわけで、複数の教師で分担する方がより有効であるとされています。
教師集団の力量を高める
従来の原則は、全国のどの小中学校でも、決められた教材を使って、決められた内容を、決められた時間内に、決められた時期に教えることが求められていたわけですから、授業も画一的にならざるを得ませんでしたし、教育の機会均等という観点からも個性的な授業を認めるわけにはいきませんでした。しかし児童・生徒の個性を重視するためには、教師の個性も重視されなければなりませんし、現実には、教師も人ですからこの春大学を卒業したばかりの教師と、数十年のキャリアのある教師のように、経験や力量に差があるのは当然です。そこで違いのある二人が二つの学級を担当することで、子どもにとっての授業の「当たり・はずれ」を防ぐことができるわけです。新米教師も早くベテラン教師の方法を見て、成長する事ができ、個性的な教師は他の教師の個性とかけあわされることで新たな発見をすることが期待されます。経験深い教師も、他の教師に伝えるためには自らの力量を一般化しようと努め、全体として教師の力量が高まることが期待されるというわけです。
教師が協力することが持つ教育力
教師は一人、生徒は集団。この環境で、生徒は協力することを学べるのでしょうか。たとえば小学校で、クラスの担任が、ある日突然別の先生に代わったとしても、困るのはそのクラスの生徒だけで、隣のクラスの生徒はほぼ影響を受けない、学校としてもあまり困ったことにならないというのが従来の学校です。しかし、T.T.を導入している学校では、関係ある生徒はもちろん、他の先生方も大きな影響を受けてしまうわけです。ここで、生徒はその居なくなった先生は、他の先生の協力者としてかけがえのない存在だったと察することになります。つまり、日常的に教師達が協力し合っている姿を見せることで、生徒は協力するという姿勢を学ぶのではないでしょうか。つまりこのスタイルそのものに教育的な価値があるといえます。
チーム・ティーチングのさまざまな形態
次は複数の教師が一つの授業に取り組むにあたって、様々な組織の作り方がありますので紹介しておきます。冒頭に述べたようにT.T.の歴史は長いので様々な形態が検討され、実験的なものも含めて実施されてきました。
A) 学級複数教師T.T.
これは学級の授業を二人以上の教師で担当する方法です。中学校の外国語指導助手(ALT)とのT.T.などがイメージしやすいと思います。一方の教師が主に授業を行い、もう一方の教師が机間援助を行って補助にあたります。ただしこの方法はもう一人の教師の人件費がかかりますので、公立の学校では限定的になってしまうわけです。
B) 学年教師T.T.
同一学年の教師が全員で組織して、複数のクラスを担当する方法です。1学年が50名程度の学校では、20名強の2クラスが編成されることになり競争心や社会性の育成には不利になるといわれています。そこで、場面によっては2クラスを合わせて、2名以上の教師で指導することで授業効果を上げようという考え方です。必要な教師の人数を変えずに実施することも可能ですから導入のハードルは下がります。
C)隣接学年教師T.T.
小学校1年と2年のように、隣接する学年をT.T.で互いに見るという方法です。片方の先生は2年間担当することができるので、児童・生徒の変化に気が付きやすいメリットがあります。また下の学年を担当していた教師は1年後の生徒の状況をイメージしやすくなるなどのメリットもありますが、2学年を同一クラスにまとめる事はできず、クラス数が学年によって異なる場合は教員互いの空き時間を利用するなど、時間割編成が難しくなります。
D)教科教師T.T.
同じ教科または科目の教員がT.T.組織を全員で編成する方法です。経験や力量に差が大きい教師間では研修効果も期待できます。また、例えば理科の先生でも、生物が得意、物理が得意など、先生による得意分野が異なっている場合は、生物の単元は生物が得意な先生が複数クラスを横断して授業するなど、授業の効率の面でも効果が期待できます。
E)異教科教師T.T.
異なった教科の教員がチームを組んで、互いの授業の補助をする方法です。科目による生徒の異なる反応を見ることができますし、教科や科目の枠を超えた探究活動や、新たな入試で想定されている合科型(教科融合型)の対応にも有効だと考えられます。
F)全学校教師T.T.
学校の教師全員でT.T.組織を編成し、全校児童・生徒を相手に協力して授業を行おうという試みです。小規模な学校でも、生徒は多くの教員に接する機会が与えられます。
チーム・ティーチングの考え方
今、教員を目指している学生にはあまり見せたくない数字ですが、全国の公立の小学校・中学校・高等学校の先生のうち、病気で1か月以上の病気休暇取得者及び休職中の人は1万944人(2022年12月26日朝日新聞)ですが、その中の約5897人(病気休職者の約54%)が「精神疾患」が占めるそうです。
生徒からの信頼を一身に受けながら、共に泣いたり笑ったりしながら子どもの成長を日々実感できる素晴らしい教師という職業が、これほどまでに精神的に追い詰められるものになってしまっていることは実に悲しい事であり、そのことで教師が不幸になるだけでなく、そのような環境に共に置かれている子どもにとっても同じであり、社会的に大きな損失になっていると思います。
中学校以上では教科ごとに先生が変わり、一人の生徒を複数の先生が見ることが多いため他の先生と情報交換することが可能ですが、小学校では多くの教科を担任の先生が担当し、保護者との窓口ともなっていますので、子どもに関するトラブルや保護者からの要望などを一人で抱え込んでしまい、他の先生に相談できないことが多いようです。
そこで、再び注目されているのが複数の教師で複数の生徒を見る、というこのT.T.の考え方です。そもそもT.T.は教師の精神的負担を減らすために準備された方法ではありませんが、新しい先生を学校全体で支える仕組みとしても機能すれば、素晴らしい教師に育つ芽を折ってしまうことは避けられるかもしれません。
ところで、京都市東山区に大谷中学校・高等学校という仏教系の私立の学校がありますが、ここに「バタビアコース」というのがあります。このコースでは「バタビア・システム」という、黒板の前で一斉講義を行う先生と、机の間を回って生徒を指導する先生の二人が一つの教室で指導する方法で運営されており、アメリカニューヨーク州のバタビア市で1898年から行われていた「バタビア・プラン」という教授法を参考に、昭和35年(1960年)から導入されているものです。これもT.Tの一種ですが、導入から60年以上経た今日でもこのシステムが機能している事からも結構効果の高い方法であるようです。
参考文献
新井郁男 天笠茂 編 「学習の総合化を目指すティーム・ティーチング事典」 教育出版1999
朝日新聞デジタル 2022年12月26日号
心の病で休職の公立校教員、最多5897人 若い世代ほど高い割合:朝日新聞デジタル
(https://digital.asahi.com/articles/ASQDV44JYQDQUTIL03D.html)
<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>