2024/07/01
藤山正彦のぷち教育学【メディア・リテラシー Media literacy】
私が教育学の先生に初めてお会いして、いきなりされた質問は
「リテラシーという言葉を説明できるかね。」
というものでした。私は「読解力」の事です、と答えたのですが、先生はがっかりされた様子で首を横に振ったのでした。
国語辞典では、リテラシー=
1 読み書き能力。また、与えられた材料から必要な情報を引き出し、活用する能力。応用力。
2 コンピューターについての知識および利用能力。→コンピューターリテラシー
3 情報機器を利用して、膨大な情報の中から必要な情報を抜き出し、活用する能力。→情報リテラシー(大辞泉より)
という風に説明されているのですが、リテラシーとは、その情報が果たして正しいものなのか、何かの意図が含まれているのか、などという事も含めて、評価して取捨選択する事だといえるでしょう。
ある小学校の宿題で、「アメリカの大統領について調べてきましょう。」という宿題が出されたそうですが、ほとんどの小学生は、インターネットを利用して、初代から44代(当時は第44代のオバマ大統領の頃でした)までの大統領の一覧をプリントアウトしたものを写してきたそうです。(中にはノートに貼り付けただけの子も?)そこで、先生が「この中で有名な大統領は誰?」と聞いたところ、みんな「オバマ大統領」と答えた、という事があったそうです。保護者の世代なら、ケネディーやニクソンといった近い時代に生きた人だけでなく、ワシントンやローズベルトやアイゼンハワー、ニューディール政策で作られたダムに名前を残したフーヴァー(Herbert Clark Hoover)なども出てくるかもしれません。しかし、アメリカ史に詳しい人でなければ知らないであろう第8代のビューレン(Martin Van Buren)などの人名を第16代のリンカン(Abraham Lincoln かつてはリンカーンと表記)と同じ扱いで一覧表にしていたわけですから、情報の取捨選択は出来ていたとはいえませんね。
次に、帆船(または台車)に張った帆に向かってその船(台車)の上の扇風機から風を送ると、どうなるかという質問に関して、インターネットで調べてみました。
「帆に向かって船上の扇風機から・・・」といったキーワードをYahooやGoogleといった商用検索サイトに入力して、調べた結果です。
まず、有名な「Yahoo知恵袋」からいくつか紹介しましょう。但し個人IDは記号に置き換えてあります。(アルファベット+0が質問者、それに対する回答者を1、2,3・・・の数字にしてあります。)
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http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1123255626
質問者A0さん2009/2/1619:00:03
ヨットのような船の船上に巨大な扇風機を置いて帆に向けて強風を送れば船は前に進みますか??
A1さん2009/2/1713:07:18
後ろ向きにゆっくり進むと思う。
扇風機が風を送ると、反対側に反作用が生じる。飛行機のプロペラ機が前に進むのはこのため。送られた風が、そのまま帆に当たるなら、帆を押す力と扇風機に生じる反作用と打ち消しあって動かない。しかし送られた風はわずかに力が弱まる(さらに風が100%帆に当たるわけではない)ので、扇風機に生じる反作用の方が大きくなる。だから後ろに進む。実際このような船を見かけないのは効率が悪いからである。扇風機を後ろ向きに取り付け、反作用で進んだ方が効率が良い。
質問した人からのコメント2009/2/23 08:51:20
後ろに進むなんて驚きです!!ありがとうございました
A2さん2009/2/1708:31:50
A1さんに一票です。
前・後ろがよくわかりませんが、質問者さんが考えていると思われる向きとは、逆に進みます。 帆がない方がよい。
A3さん2009/2/1622:16:13
進みますよ。しかし 全然速くなく 船を進ませるには帆の形状・大きさと扇風機のバランスが重要です
A4さん2009/2/1620:32:24
進むんじゃね? 帆が無い方が効率は良いとは思うがな 勿論扇風機の方を前に置くんだよな?
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1414820454
質問者B0さん2008/2/1501:02:50
帆船の帆の前に巨大扇風機を置いて、扇風機を回し帆に風を当てたら、果たして船はどっちに向いて動くのでしょうか?
ベストアンサーに選ばれた回答
B1さん2008/2/1617:13:20
残念ながら、どちらへも動きません。
仮に船の後ろから風を受けて(帆が前に膨らんで)船は前に進むとします。
船の後ろ側に扇風機を置き、扇風機の風を帆に当てると帆は前に膨らみ、上記の自然の風を受けているのと同じ状態となります。帆は前向きの、船を前進させる力を扇風機が起こす風によって得ていることは間違いないのです。それだけ見ると、船が前に進んでもおかしくありません。しかしながら、扇風機の羽根は、風を前に押しやる力と等しい力で、後ろに押されています。(これを作用・反作用の法則といいます。)
結局、扇風機は、帆を前に膨らませる(=前に進む)と同じ力で後ろに押されてしまっているので、両方の力がつりあってしまい、どちらにも動きません。扇風機が、同じ船の上にある以上、いつまでたっても変わりませんし陸上に扇風機を置いたなら、帆を押す力を地面で受け止めることができ、上記の(船上における)「作用反作用の法則」から逃れることが出来るので、船は前に進みます。
仮に、扇風機が非常に大きく・帆が小さかったとしたら、扇風機の風を少ししか受け止められず、扇風機が後ろに押される力の方が強くなるので、船は逆に後ろに進んでしまいますね。
B2さん.2008/2/1501:24:17
実験したことがないのでわかりませんが・・・
扇風機が押し出した風を、帆がすべて受け止めてしまえるのであれば進まないと思います。 扇風機の反作用を風という媒介をとおして帆が受け取ってしまいますから。
B3さん2008/2/1501:14:29
飛行機のエンジンと同じですから扇風機が空気を吸い込む方に動きます。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q109835125;_ylt=A7dP5XYLvRdUJwkAFgFlAPR7?pos=1&ccode=ofv
質問者C0さん2006/11/116:51:01
帆船の上に、強力な扇風機を置き風を送っても、 船は走らない、と聞いたことがあります。
なぜでしょうか。中学生にもわかるレベルの回答を、お願いします。
C1さん.2006/11/117:18:33
アハハハハハ、面白いね、楽しくなるよ!!帆舟に風を送ると前進する、風をおくる扇風機を舟内に固定して風を送っても、進まない。何故か、帆に受ける風圧(G)と、風を送る扇風機が固定されている土台が受ける反対の力(G)がおなじだからなんだ。これが、扇風機を舟外において風を送れば、当然舟は動き出す、反発(打ち消す)の力が作用しないからなんだ。
質問した人からのコメント2006/11/2 09:06:19
お兄さん、わかりやすかったよ。
C2さん2006/11/117:19:11
扇風機が風を送ると、船には送り出した方向と逆の方向に船を動かす力が働きます。(プロペラ飛行機はこれのよって飛ぶのです。)一方帆は受ける風の方向に船を動かす力が働きます。扇風機から送り出された風がすべて穂(※原文ママ)に当たるとすると、多少のロスはあるもののその力は同じです。2つの力は互いに逆方向で同じ強さなので、つりあい、船は動きません。
C3さん2006/11/117:13:59
帆船の上に強力な扇風機を置くと、実は船は走るんです!!!
ただし、風の方向は帆とは逆側に向ける必要はありますが・・・
(これはホバークラフトなんかが進む原理です。)
ここに重要なポイントがあります。それは「力」の釣り合いです。
扇風機を帆に当ててみましょう。帆は風力を受けて、進もうとします。
逆に扇風機は全く同じ力で押し戻されます。
(水道のホースを前開(※原文ママ)にすると、押される感じがしませんか?)
帆船は、この「押す力」と「押され返す力」が等しいので、どんなに強力な扇風機を置いても前に進むことはありません。
他の例として、「自分の腕を力いっぱい持ち上げて宙に浮く」ことができないもの一緒です。引っ張る力と引っ張られる力が同じになるので、浮くことはできません。
これを理科(物理)の用語で作用反作用の法則といいます。
最初に言ったホバークラフトはなぜ進むかというと、
1.扇風機は後方にものすごい勢いで風を送る
2.空気に押し戻される
3.押し戻される力は、普通は地面との摩擦力で釣り合ってしまいますが、宙に浮いているので摩擦力は低く、反対側に動く力に変わる
こんな感じで進むことができます。
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さて、ここまでのやりとりを読み続けた皆さんは「なるほど、基本的には動かないけど、帆が小さかったりしたら風が漏れて、つり合いが崩れるから後ろ向きにうごくのだろうな。」という結論を得たと思います。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。「作用・反作用」という言葉です。実は中学校の理科でも習う程度のこの言葉、動かないもの、または運動の速さや向きが変わらないときは「向きが反対で同じ大きさである」と習います。つまりその大きさが同じだという証拠が無ければ動かないという事の説明になりません。(A1、B1など)また、「力のつり合い」を説明に用いているものもありますが、(C1、C2など)これまた、中1の理科で力がはたらく対象が同じものでなければ「つり合い」は無い、と習います。二人の人間が綱引きするのに、繋がっていない異なった綱を引いても釣り合うはずがないという理屈です。扇風機が押す空気と、帆が受ける空気はその瞬間では別物ですので、釣り合うはずがありません。
このように、さんざんケチをつけてしまいましたが、いずれも結論が間違っているのです。実は「前に向かって進む。」が正解です。その正しい情報をインターネット上で探そうとしましたが、私は見つけることはできませんでした。もちろんその理由を解説したものもありません。しかし、私はこれを実験で台車が前に爆走する事で確認していますので、事実であることには間違いがありません。もちろん帆が扇風機より大きいという常識的なサイズでの実験装置での結果です。実はNHKのEテレ(教育)の深夜番組「2355」の「夜更かしワークショップ」のコーナーで同様の実験が行われ、同じ結論の映像が放映されました。
とはいえ、何となく納得できない方もいらっしゃると思いますので、本欄の趣旨から外れますが、稚拙ながら説明しておきますと、扇風機から出た風は帆に当たって横に広がるのではなく、扇風機の後ろの気圧が下がったところに流れ込もうとするので、周囲に前から後ろ(帆から扇風機の後ろへ)の気流が生まれます。その気流と周りの空気の摩擦で、前に押される、という原理で前進します。
実はジェットエンジンの逆噴射装置や水上バイクのリバース(後退)は、噴射口の後端の先に軽金属の帆を立てたような構造になっています。それで逆向きの推力を生み出しているのです。ジェット旅客機に乗った事のある方は、着陸時、滑走路に接地した直後の、前に体が持って行かれるような減速を感じるときエンジン音が大きくなった事を覚えている方もいらっしゃると思いますが、あの減速、実はあの細い足の先に付いている車輪のブレーキでこれほど減速することはできません。その車輪には動力が付いていませんので滑走路上でバックする時も逆噴射を用います。因みに空港建物の近くでは、安全確保と騒音防止のために、特殊車両を接続してプッシュバックすることになっていますので普段見ることが出来ませんが、多くの飛行機はこの原理を使って自力でバックする事が可能です。
インターネット上での情報交換や教え合いは、助け合いの精神や親切心の現れなので、人に嘘を教えようという悪意はないと信じたいのですが、個人レベルの情報発信の手軽さから、十分検証せずにあいまいな記憶の範囲で答える事や、インターネット上の誤った考えを参考に、さらに誤った情報を横に広げてしまう危険性があります。この例に出した帆船と扇風機の動きを間違って記憶していても、大半の人にとって大した影響はありませんが、これが、思想や信条、政治など、その人の生き方に関わるところで無批判に間違った情報が流し込まれたら、間違った判断をしてしまう危険性があります。
大学の先生が、学生にレポートを課すときに、「インターネット使用禁止」というルールを言い渡すことが多いのですが、これは手軽に課題を仕上げることを戒めているのではなく、発信者が不明で、科学的根拠に基づかない不正確な情報を無批判に取り入れてしまう危険性に対して警告を与えているわけです。
長くなりましたが、このように無料で得られるインターネット上の書き込みには特にリテラシーの力が必要であり、そのためにはその情報を検証する知識も必要とされる、というお話でした。
朝生邦夫 「プロペラ台車は前進できる」(出版社 出版年不明)
「大辞林」(第三版)三省堂 2006
「教育工学事典」実教出版 2000
「教育の方法と技術」 ぎょうせい 1993
「新教育学大辞典」第一法規出版1990
<文/開成教育グループ 入試情報室 藤山正彦>